これからの医師養成のあり方について
今村副会長 × 医学生代表 座談会(前編)

「医師養成についての日本医師会の提案(第2版)」をベースに、今後の医師養成がどうあるべきかについて、日本医師会副会長の今村聡先生と医学生4名による座談会を開催しました。

これからの臨床研修制度に関する日本医師会の提言

今村副会長(以下、今):2004年にスタートした現行の臨床研修制度については、2015年度からの研修をめどに厚労省が改定を検討しているようです。そこで日本医師会も、現在の制度の利点や問題点を踏まえ、これからの医師養成のあり方について提言をしました。基本的方向性は下記に示した4箇条になりますが、特に3点のポイントに注目して見て下さい。

 まずは、臨床研修の2年目に「将来専門としたい診療科についてある程度自立してプライマリ・ケアを行うことができること」を目標にした点です。その分、学部5~6年生での臨床実習をより実践に近い参加型のものにして、医師としての基本的な能力を身につけることも併せて提案しています。

 2点目は、全国医師研修機構連絡協議会を設置し、研修希望者数と全国の募集定員数が概ね一致するよう設定します。各都道府県の医師研修機構は、地域で特色のある研修プログラムを検討・提案し、研修病院と研修医をサポートします。

 3点目は、各大学に臨床研修センターを設置することです。研修希望者は、原則として出身大学の臨床研修センターに登録し、研修先のアドバイス・選定・調整を受けます。研修先を自由に選べる時代だからこそ、出身大学を核とした『人の繋がり』を作る必要があると考え、このような体制を提案しました。

日本医師会 臨床研修制度の基本的方向性

  1. 基本的なプライマリ・ケア能力を獲得し、地域医療を担うことができる医師を養成するため、地域社会で充実した研修体制を整備する。
  2. 研修希望者数と全国の臨床研修医の募集定員数を概ね一致させる。都道府県の募集定員は人口や地理的条件など地域の実情を踏まえて設定する。
  3. 臨床研修医が単なる労働力として位置付けられることなく研修に専念できる環境を整備する。
  4. 臨床研修医の研修先における給与水準を一定の範囲内にする。

point

  1. 臨床研修の2年目では、将来専門としたい診療科についてある程度自立してプライマリ・ケアを行うことができることを目標とする。
  2. 医師研修機構を各都道府県に設置する。各都道府県内の研修施設の登録や、地域独特の研修プログラムの検討・提案などを行う。
  3. 臨床研修センターを各大学に設置する。研修希望者は、出身大学の臨床研修センターに登録し、臨床研修センターが研修先のアドバイス・選定・調整を行う。

回り道もすべて医師としての経験になる

A:臨床研修の2年目に「将来専門としたい診療科」を学ぶためには、学部5~6年生のうちから自分の専門を見定める必要があります。けれど何を専門にしたらよいかを考える暇はなく、試験や勉強に追われる毎日が予想されます。どんなサポートや改善が行われるのでしょうか?

今:「将来専門としたい診療科」と言っていますが、決めたところに自分が今後ずっと携わっていかなければいけないということではありません。みなさんはこれから医師として、長いキャリアを積んでいきます。医師には年齢制限もありませんし、臨床医だけでなく行政官や一般企業の研究者としても働ける、選択肢の広い資格です。働きながら転身を図ることも可能です。ですから、まず第一歩として何をやってみたいかを選ぶくらいの気持ちでいいと思います。多少の回り道もすべて医師としての経験になるのがこの資格の強みですからね。私自身、学生時代は外科系を志望していましたが、ちょっとしたきっかけで臨床研修では麻酔科を選び、しばらく勤めた後、現在はかかりつけ医として地域医療に取り組んでいますよ。

 とはいえ、各科の試験・勉強に追われてしまうという現状については、日本医師会としても改善を提言しています。また、各診療科の情報も、この媒体を通じてみなさんに提供していくつもりです。

患者さんのために働くことが学びにつながる

B:研修医が労働力とみなされることに抵抗を感じます。研修に専念できる環境をぜひとも希望します。

今:ここで言う「研修に専念できる環境」とは、患者さんのために働くことを通して、つまり労働力でありながら学ぶことができる環境のことだと私は考えています。労働力として期待されることを、もっとポジティブに考えていいと思います。実際に患者さんと向き合ってこそ多くのことを学べるのですから。臨床研修においては、期待されることは大きな力になるはずですよ。


これからの医師養成のあり方について
今村副会長 × 医学生代表 座談会(後編)

出身大学を医師のコミュニティとして活用する

C:大学に臨床研修センターを設けることは、すなわち人事権を大学に持たせ、医局の権力が復活することとは違うのですか?

今:臨床研修センターは大学の権力を行使するためではなく、大学をベースとした医師コミュニティを作るための仕組みとして提案しています。教授がすべてを取り仕切るような封建的な医局があったことも残念ながら事実ですから、大学に人事権を持たせることに疑念を持つのもわかります。しかし、医局にも良い面はあります。強みの一つとして、チームで物事を進められるという点が挙げられます。仲間どうしの共通の経験をシェアできますし、研究をするとなると一人ではできない実験もあります。先輩にアドバイスをもらえ、仲間の頑張りに鼓舞されることもあると思います。この大学や医局の持つコミュニティ機能を臨床研修センターに持たせ、大学を離れて研修を受ける際にも『拠り所』となることを期待しています。

「良い研修」は人によって違う

D:配属される研修先によっては「良い教育を受ける」機会を得られない地域があるのではないでしょうか?医師研修機構は、どれだけ教育の質の保証にコミットしてくれるのですか?

今:そもそも「良い教育」とはどういうものでしょうか?確かに地方の病院では、首都圏の大学病院のような最先端の医療は経験できないかもしれません。けれど、どの地域においても様々な症例を診ることができるのは変わらないはずです。

 私が研修医として働いていた病院は外科のハイレベルな研修を受けられることで有名でしたが、外科研修医たちは手術中に倒れるほど忙しかったそうです。そんな環境を「良い」と取る人もいれば、「ひどい」と感じる人もいるでしょう。研修の良し悪しは一概には言えないものです。

 つまり研修には合う・合わないがあります。自分にとって適切な研修を自分で判断することが大事だと思います。

どんどん声を上げて意見を言ってほしい

B:臨床研修センターは、自分の大学に人を残そうとするのではないでしょうか?研修希望者や地域の市中病院が不利益を被らないよう、監視する仕組みも併せて必要なのではないですか?

今:もし囲い込みをするような大学があれば、その話は自然に伝わっていくでしょう。話が広まれば大学自体の評判も悪くなり、不利益に繋がります。もし大学がそのようなことをしている場合は、みなさんのような若手が「この大学はおかしいぞ」と声を上げていいと思います。

D:医師研修機構に、臨床研修を終えたくらいの若手医師や医学生などの意見を吸い上げる仕組みを設けることはできませんか?

今:今回のように若手医師や医学生の意見を聞けるのは大変参考になりますので、各都道府県に医師研修機構ができたら、そこに窓口を設置するのはいい案ですね。さらにこの情報誌を通じても、積極的に意見をぶつけてほしいと思います。


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