勤務医の労働環境改善のための取り組み

勤務医の健康状態に着目

 A医師は担当患者Xから暴言を吐かれる、金品を要求されるなどの言葉の暴力を受けていた。「診療を拒否することはできないのか」と周囲に不満を漏らしていたが、組織としての対応はなく、体調を崩してしまったA医師は退職を申し出た。もしあなたがA医師の上司だったら、どういった対応をとるのが適切だっただろうか。

 これは、「勤務医の健康支援に関するプロジェクト委員会」が病院管理者や産業医・人事責任のある医師等を対象に行っている、「医師の職場環境改善ワークショップ研修会」のグループワーク課題の概要です。医師不足、医療ニーズの増大、モンスター・ペイシェントなどに代表される患者の権利意識の肥大――県医師会や各学会等で行われてきた調査により、過重労働の実態が次々に明らかになってきています。医療財源が減り、医療従事者に支払われる対価も充分ではない昨今、被雇用者である勤務医は特に、身体的にも精神的にも非常に厳しい労働環境にあると言えます。今後学生のみなさんが、研修医やレジデント等の勤務医として働くことになったとき、このような問題にさらされる可能性も少なくないのです。

 「勤務医の健康支援に関するプロジェクト委員会」は、そんな勤務医の健康を守りたいという思いで集結した医師たちが、日本医師会の協力を得て立ち上げました。まず実態を把握するため、日本医師会会員1万人の勤務医に対してストレス状況や健康状態についてのアンケート調査を行いました。調査の結果、特に精神面に大きな問題が見られ、約12人に1人の医師が「うつ状態」であることが判明しました(図1、11点以上)。また、医師は自身の健康について自分で解決するべきだと考えており、他の医師に話さない傾向が強いこと、責任感やプライドから不調を訴えずに無理をしてしまうことなどが明らかになりました(図2)。

 委員会は調査結果をもとに、病院側が医師の健康を守るために必要な「勤務医の健康を守る病院7カ条」と、医師が自らの健康を守るために意識すべき「医師が元気に働くための7カ条」を提案しました。内容を見ると「睡眠時間を充分確保しよう」「週に1日は休日をとろう」など、当たり前のことばかりだと思われるかもしれません。しかしこの「当たり前」が今まで意識されてこなかったことが、医師の健康維持を難しくしていたのです。病院・医師の双方がこの7カ条の内容をしっかり認識することが、労働環境改善への一つのステップとなると考えます。

 また、冒頭で紹介した「医師の職場環境改善ワークショップ研修会」は、実際に現場で起こりそうな事例をテーマにしたグループワークとディスカッション、さらに参加者が自分の病院でのアクションプランを立てるという内容で行っています。この取り組みは都道府県医師会や、麻酔科や精神科等の学会の協力もあり、既に17回開催しています。勤務医を常勤で雇っている規模の病院は全国で約3千ほどと考えられますので、今後も47都道府県で継続的にワークショップを開催していけば、数年でそれらの病院を網羅可能です。

 このように、日本医師会は勤務医の労働環境についても支援を行っています。これから勤務医として働くかもしれないみなさんにも身近な存在であることがおわかりいただけたら幸いです。

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