女子医学生〜それぞれの新しい出発の時に〜

女性医師支援センターの取り組み

鹿島 直子(日本医師会女性医師支援委員会委員*)

 これは高村光太郎の詩です。時代は昭和20年代、終戦直後のようです。

 私がこの詩を読んだのは医学部入学の頃でした。それから折に触れ、詩の中の少女の澄んだ眼が思い出されました。女性の参政権獲得は昭和21年でした。“職業女性”の地位も低かった時代です。そのような時代にあっても女性医師は理想と夢を持って真っ直ぐ前を向いていました。なんと清々しく強いことでしょう。

 春、学生の方々にはそれぞれに新たな出発があったことでしょう。

 特に新1年生は、どんな思いを胸に医学の道を志してきたのでしょうか。

 各学年のみなさまに申しあげます。みなさまは大学では一定のカリキュラムの流れにそって学び、研鑽を積み、それぞれ数年後には、「医師としての責任と使命」を両手に握りしめて、巣立っていかれることでしょう。

 その時、あなた方の道しるべは、学校のカリキュラムでも臨床教育実習でもありません。それこそあなた方自身の手の中にあるのです。入学時の志と、教育で培われた叡智を礎にして何事も自らの決断で、その「責任と使命」を果たすべく社会へでていくことになるのです。

 今日、医学部におけるプロフェッショナリズム教育(Stern DT 2006)の必要性が強く求められています。実践的なことについては、このたび私たちが作成したDVD「女性医師のキャリア支援」のなかに、鹿児島大学大学院教授/田川まさみ先生のご説明がありますが、医学におけるプロフェッショナリズムとは、医学的知識、医療の現場で必要となる知識、コミュニケーション技能、さらには医療の制度や倫理規範の理解等を基盤にした①卓越した能力、②人間性、③責任、④利他的な(自分だけでなく他人をも思いやる)力の総合的な能力であるとされています。しかもそれは生涯にわたって、男女を問わず継続して培われるべきものであると謳われています。人の命に向きあう医師とはそうでなくてはならないのだと思います。

 何故いま、私たちからみなさまにメッセージを送るのでしょうか。

 この時代、医学部で学ばれている女子学生のみなさまは、これまで腕力以外は男女の能力差や男女差別を感じることはなかったと思います。しかしながら将来、多くの方が子供を育てるという母性と向き合う時が来ます。しかもその時期が医師として、あるいは研究者としてもっとも大きく育つ20代後半~30代にかけて重なってしまいます。子育ては何よりも大きな喜びではありますが、社会通念上も育児がまだ大部分女性に委ねられている日本では、キャリア継続との両立が大変困難を伴うことになります。能力の差ではなく、医師としてはある意味ハンディを背負うことになるのです。一方、現場では医師不足による医師の疲弊が問題になっています。子育て中の女性医師が、長期間現場に復帰しないことも大きな原因です。人が足りなければ、働きやすい環境整備や勤務時間の調整もできません。深刻な悪循環です。その打開策の一つとしても、女性医師が、家庭と仕事を両立させ、自らの社会的な「使命と責任」を果たしてほしいと願うのです(学生の方々にはまだイメージできないかもしれませんが)。もちろん近年の急速な医学の進歩に戸惑わないように継続的にキャリアアップしていただきたいからでもあります。

 私たちは、男女を問わず職場でのワークライフバランスの実践の工夫、育児中の女性医師の勤務形態や保育サポート体制の充実などについて、具体的な提言をしてきました。地方の医師不足改善にむけて、各都道府県医師会が取り組んでいる女性医師就業支援事業のサポートも行なってきました。またセンターの主事業である女性医師バンクは5年間で300件の女性医師の就業、再研修を実現してきました。

 私の尊敬する80代にして凛とした内科医A先生は「私共のころは中途で辞めるという選択肢は頭になかった」と。みなさまも「仕事も子育ても楽しむ」余裕、強さとしなやかさを身につけた一人の医師となられる日をお待ちしています。

 私たち日本医師会女性医師支援センターは、女子医学生、女性医師のプロフェッショナリズム確立の道程をその努力をこれからも支え、応援しつづけます。


執筆者:鹿島 直子
(耳鼻咽喉科・頭頸部外科)
1963年 鹿児島大学医学部卒業
日本医師会女性医師支援委員会委員*

*2012年3月31日現在


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