interview 臨床×カナダ 藤本 礼尚(後編)

――給料なしで働くというのは、向こうでは一般的なことなのでしょうか?

そうですね。大学側は安価な労働力が欲しいですからね。逆に、学びたい人はお金を払ってでも行く場合もあります。CVを通過した時点でも、給料ありと提示してくるところと、なしと言ってくるところに分かれます。ただ、僕は無給だと周りと同じレベルで戦えないと思ったので、少しでもいいから給料をもらいたかった。だから「給料なしだと俺は嫌だよ」と強気に粘りました。カルガリーでの年収は200万円ほどと格安でしたけど、得られる経験は全く違ったと思います。

――臨床でやるには、やはり相当な英語力が必要ですか?

そうですね。一番大変だったのは緊急搬送の受け入れです。よく欧米の医療ドラマなどで救急のシーンがありますが、まさにあの中に飛び込んでいくようなイメージなので、多くの日本人は全然聞き取れないスピードだと思いますよ。緊急搬送の時はフェローが責任をもって指示を出さなければならないので、何を言ってるのか全然わからなくてもおじけづいてはダメで、「わからないからもう1回言って」と全力で聞いて、対応していく。それができるレベルでないと臨床はできないし、そのために相当の努力が必要だと思います。
僕は英語を勉強するために睡眠時間を相当削ったし、寝る時もBBCをつけっぱなしで寝たりしていましたね。トロント小児病院にいたときも、僕は日本人のボスのラボにいたのですが、できるだけ英語を使うようにしました。

――ちなみに、留学先にはご家族と一緒に行かれたのでしょうか。

はい。妻と2歳の娘を連れて行きました。妻は英語が話せなかったし、娘は最初の頃「あいうえおの国に帰りたい」と言っていたそうです。ただ僕は、そこまですることにどんな意味があるのかを家族にしっかり伝えました。家族がついてきてくれたのは、僕の目標が揺らいでいなかったからだと思います。結果的に妻も娘も、いろんなものを吸収できたんじゃないかなと。日本社会の小さいコミュニティでは経験できないものがたくさん得られたと思う。せっかく行くなら家族みんなでいいものを得てきちゃおう、みたいな発想も必要でしょうね。

――ここまでお話を聞いていると、「自分には難しそうだな」と思ってしまう学生も多いような気がするのですが、医学生にぜひエールをお願いします。

能力があるのに躊躇しているのは本当にもったいないと思いますよ。まずは自分を鏡に映してみて、自分の能力はどのくらいのものなのか、身の丈を考えてみることから始めてほしいなと思います。日本は世界の中では相当な教育レベルを持った国です。海外の大学には様々な国の人が集まっているわけだし、これだけの教育を受けた人たちがやれないわけはないと思うんです。
失うものなんて何もないですよ。お金だってなんとかなりますから。ちょっとカッコつけたいって気持ちだけで中途半端なことをするとうまくいかないかもしれませんが、「留学してこれを得るんだ」という決意を持って行った人にとっては、相当意味のある経験が得られると思います。

藤本 礼尚
聖隷浜松病院てんかんセンター
脳神経外科主任医長
1998年筑波大学医学専門学群卒業。筑波大学附属病院等に勤務。2006年カナダに渡り、トロント小児病院にて研究フェロー、カルガリー大学にて臨床フェローを経験する。

留学に必要な資格はないの?

臨床医として留学先で医行為を行うためには、多くの国・地域で現地の医師免許が必要になります。藤本礼尚先生が留学したカナダの西部では日本の医師免許と専門医資格で臨床の仕事に就くことができたということですが、それはどちらかといえば例外的なケースです。
例えばアメリカで臨床を行いたいなら、アメリカの医師国家試験USMLEのステップ2まで合格している必要があります。USMLEにはステップ3まであり、ステップ1では基礎医学分野の知識、ステップ2では臨床医学分野の知識・技能が問われます。
対策方法についてなど詳しくは、島田悠一他『米国医学留学のすべて』(日本医事新報社、2013年)、佐藤隆美他『アメリカ臨床留学への道』(南山堂、2014年)などを参照してください。

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