10号-11号 連載企画
医療情報サービス事業“Minds”の取り組み(前編)(2)

診療ガイドラインを用いるにあたって

――実際の臨床の場面では、ガイドラインをどのように使って治療法を選択していけばよいのでしょうか。

山:患者さんが治療に何を望んでいるのか、医師がきちんと聞き取ったうえでガイドラインを参照することが必要ですね。冒頭の事例も、もし若い人なら「自分はまだ若いから、抗がん剤治療に加えて手術も受けて、長生きできる可能性に賭けたい」というかもしれません。けれど80歳の人だと、もう辛い思いはしたくない、放射線治療と抗がん剤治療を選んで少しでも長く家にいられるようにしたいというかもしれません。益と害のバランスを考えつつ、医師の持っている情報と患者さんの希望をすり合わせながら意思決定を行っていくことが大切です。

――ガイドラインは、患者さん自身の意思決定にも深く関わってくるんですね。

山:そうですね。ガイドラインというものが普及した一つの背景には、1970年代にアメリカで起こった消費者運動に始まる、治療における意思決定に患者さんを参加させようという流れがあったんです。患者さんの置かれている社会的状況や患者さんの希望を医師が聞き出し、協働して意思決定をすることは、最終的なアウトカムへの患者さんの納得度を上げると言われています。医療の質を向上させるという観点からも、ガイドラインは重要な存在なのです。

――ガイドラインの活用において、気をつけるべき点はありますか?

山:ひとつは、ガイドラインはあくまである一点における意思決定の材料だということです。ガイドラインは、平均的な状況ではこの疾病にはこの治療がふさわしいという推奨を出しているだけですから、実際にガイドライン通りの患者さんがいるとは考えない方がよいと思います。患者さんに合併症があればまた別のガイドラインを参照しなければなりませんし、年齢や社会的背景、先ほど話に挙がった患者さんの希望等も十分に考慮する必要があります。そういう意味ではガイドラインとは、こうすればこうなる、と決まっているレールのようなツールでは決してなく、ある程度幅のある道のようなものだと言えると思います。

吉:さらに言えば、ガイドラインを十分に活用するためには、医師はいつも知識や技術を向上させていないといけないということも意識してほしいですね。たとえば、ガイドライン上の治療を実行するために最新の技術が必要になることもあるでしょう。ガイドラインさえあれば治療に困らないなどということは決してありませんから、常に医師としてスキルアップできるよう、みなさんにはぜひ努力してほしいと思います。

minds

(左)吉田 雅博先生 日本医療機能評価機構 EBM医療情報部部長
(右)山口 直人先生 日本医療機能評価機構特命理事
「様々な局面で利用できる診療ガイドラインの存在を学生のうちから意識して欲しいですね。」(山口先生)

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