医学教育の展望
日本独自のエビデンスを作れる医師を育てる(後編)

様々な角度から患者を見る

地域医療においては、地域の背景を知り、患者を全人的に見ることが重要であるため、三重大学では入学時から継続的に地域や病院での医療に触れる機会を設けている。例えば1年次の科目「医療と社会」では、医師が何をやっているかを見るより、患者の立場になって医師や医療を見て報告するように指導しているという。

「学年が上がると、医学生も次第に医師側の視点を身につけて、患者の顔を見ると、悪いところ―具体的な臓器や疾患を思い浮かべるようになります。しかし、1年生の頃は『この人を助けたい』という意識で全人的に患者を見られる。地域医療の分野では、患者の人物や背景を見ることが大切なので、フレッシュな1年生のうちから医療の現場を見せています。」

全ての地域の医療を支えられる医師

竹村先生

同時に、三重大学では第1~3学年を対象とした早期海外体験実習と第6学年の海外臨床実習を実施しており、これらの実習には半数以上の学生が参加するのだという。
「地域医療教育」と「海外での実習」は一見すると相反するアプローチのように感じられる。三重大学ではどのような意図で2つの教育を同時に推進しているのだろうか。最後に、教務委員長として医学生を海外で学ばせるプログラムを推進してきたねらいについて伺った。

「確かに地域医療と国際医療は、一見、対極にあるように思えます。しかし、より良い地域医療を目指すうえで、海外に出て国際医療を実際に体験することは非常に重要です。
三重大学で育成しているのは、日本や海外のどこにいても、自分がかかわる地域の医療をエビデンスに基づいて支えることのできる医師です。ここまで述べてきたように、地域医療は文化や社会的な背景ととても深く関係しています。日本国内でも地域によってかなりの違いがあるのですから、海外に出れば当然その差はより顕著になります。人種も文化も医療制度も全く違う。そうなるとコミュニケーションのあり方も違いま す。しかし、全く異なる背景の中に、患者中心性などの変わらない部分もある。
日本で現場に近い地域医療を学んだ学生が、海外で異質なものを体験することで、われわれ自身の地域医療を深く見つめなおすことができるのです。そうすることで、自分の担う地域の医療の特徴や、これからやるべきことが見えてくるのだと思います。」

竹村 洋典先生
(三重大学大学院医学系研究科 臨床医学系講座 家庭医療学分野 教授
同医学部 教務委員長)
防衛医科大学校卒業後、米国家庭医療学会認定家庭医療専門医を取得。 2001年より三重大学に赴任。夢と情熱で、地域で活躍する医師養成に取り組む。
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