医師養成における国家試験の位置付け(前編)
医師養成の様々なステップ
医学生のみなさんにとって、医師国家試験は、学生生活の最後に立ちはだかる大きな壁のように思えるかもしれません。しかし、医師を養成する仕組みには、国家試験以外にも様々なステップが用意されています。このページでは、俯瞰的な視点から医師国家試験の位置付けを見てみましょう。
医学部入試に合格して医学生になると、基本的に大学が設計したカリキュラムに沿って教育を受けることになります。各大学は、文部科学省が医学部で履修すべき教育内容を示した「医学教育モデル・コア・カリキュラム」を参考にすることになっていますが、具体的な授業科目の設定や履修の順序は、大学の裁量に委ねられています。
モデル・コア・カリキュラム(コアカリ)
医学部のカリキュラムは各大学が独自に設計しますが、文部科学省が公表している医学教育モデル・コア・カリキュラムに、医学部卒業時までに身につけておくべき知識・技能・態度の目標がまとめられています。各大学は、カリキュラムのうちおよそ3分の2をこのモデル・コア・カリキュラムの履修にあて、残り3分の1は大学独自にカリキュラムを開発することになっています。
共用試験
さて、主に5・6年次に実施される臨床実習に参加するために、医学生は共用試験に合格する必要があります。共用試験は、コンピューターで知識を問うCBT(Computer Based Testing)と、模擬患者等の協力によって技能・態度を評価するOSCE(Objective Structured Clinical Examination)から成ります。共用試験は各大学が独自に実施しており、問題・課題は共通のものを利用しているものの、合格基準は大学により異なります。現在その標準化に向け、議論が行われているところです。
共用試験(CBT・OSCE)
臨床実習の開始前には、実習に必要な知識・技能・態度が学生に備わっているかどうかを評価するため、各大学で共用試験(CBT・OSCE)が行われます。CBTは解剖学・生理学・内科や外科の各論などの知識を評価する多肢選択式の試験で、コンピューターを用いて行います。問題数は320問で、受験生ごとに異なる設問が出題される仕組みになっています。OSCEは、技能と態度を評価する実技試験です。受験生は、模擬患者・必要な用具・機器等が用意されたステーション(試験室)を複数廻り、患者さんへの配慮や診療技能について評価を受けることになっています。
医師養成における国家試験の位置付け(後編)
臨床実習と医師国家試験
共用試験に合格すると、臨床実習に参加することができます。文部科学省によれば、臨床実習の目的は、医師としての職業的な知識・思考法・技能・態度の基本的な内容を学ぶことであり、そのためには見学や模擬診療にとどまらない診療参加型の臨床実習が必要です。臨床実習は現在すべての大学が実施していますが、実施期間は大学によって様々で、その内容を更に充実させることが課題だとされています。
臨床実習後、医師としての知識と技能を確認するのが医師国家試験です。医師法によれば、医師国家試験は医師として臨床に出るにあたって最低限の知識・技能を問うもので、その内容は医学と公衆衛生からなります。具体的な出題範囲は、厚生労働省が公表している「医師国家試験出題基準」に準拠します。
診療参加型臨床実習
主に医学部の5年次・6年次では、診療参加型臨床実習が行われます。医学生が診療チームに参加し、その一員として診療業務を分担する中で、医師の職業的な知識・思考法・技能・態度の基本的な部分を学ぶことを目的としています。
医師国家試験
医師になるためには、医師国家試験に合格して医師免許を取得しなければなりません。医師法によれば、医師国家試験は、「臨床上必要な医学及び公衆衛生に関して、医師として具有すべき知識及び技能について、これを行う。」とされており、臨床研修を開始するにあたって、基本的な知識・技能・態度を確認することに主眼が置かれています。前回(第108回)の医師国家試験は、2月上旬に3日間にわたって、1日あたり5時間程度をかけて実施され、マークシート方式で全500問が出題されました。試験の出題範囲は、厚生労働省が公開している「医師国家試験出題基準」に準拠しています。
医師としての診療能力を高める
医師国家試験に合格すると、医師免許を取得し、医行為を行うことができるようになります。しかし、もちろんすぐに一人前になれるわけではありません。診療に携わる場合、基本的な診療能力を身につけるための2年以上の臨床研修が必修化されており、原則、内科で6か月以上、救急で3か月以上、地域医療で1か月以上研修を受けることになっています。
臨床研修を修了すると、厚生労働省から臨床研修修了登録証が交付されます。それ以降も、専門医制度や日本医師会生涯教育制度を利用しながら、医師として研鑽を積む必要があるでしょう。
医師の養成過程は、すべての医師が一定のレベルに達していることを保証するため、段階を踏んで少しずつ知識・技能・態度を身につける設計になっています。国家試験はあくまでステップの一つで、臨床研修を含めた卒業後の臨床実践を行える状態かどうかを判断するためのものなのです。
初期臨床研修
2004年に新医師臨床研修制度が制定されてから、診療に従事しようとする医師は、2年以上の臨床研修を受けることが必修化されています。
生涯にわたる研鑽
臨床研修を修了後も、医師は生涯にわたって知識を広げ、技能を磨いていかなければなりません。医師が学び続けるための方法としては、学会が運営する専門医制度があり、さらには医師会が主体的に運営する生涯教育制度で、幅広い症候や地域医療、保健活動、医療安全等を学ぶことができます。
これからの専門医制度のあり方については、厚生労働省「専門医の在り方に関する検討会」において報告書がまとめられています。これを踏まえ、現在学会が独自に運用している専門医制度を中立的に認定する第三者機関(日本専門医機構)が設立されたほか、2017年をめどに、専門医の標準化を図り、基本領域の専門医の一つとして、総合診療専門医を加えるとされています。
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- 医師への軌跡:越智 小枝先生
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- 特集:医師国家試験を再考せよ。
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- 特集:医師国家試験のあゆみ
- 特集:これからの医師国家試験
- 特集:医学生が考える 医学教育、このままでいいの?
- 同世代のリアリティー:法律の世界 編
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