地域包括ケアを支える取り組み SCENE02
病院と地域をつなぐ(北海道函館市)(前編)

病院を退院した患者さんがその後の生活にスムーズに移行できるよう、北海道の函館市医師会病院で行っている取り組みを紹介します。

退院後の生活環境を整える

現在の医療は、急性期治療が一段落したら早く退院して自宅に戻れるように支援するのが基本です。しかし継続した医療的ケアに加え、リハビリや介護など生活に必要な支援体制を整えなければ、退院後の生活を安心して送ることができません。そこで多くの病院が地域医療連携室などを設け、退院調整に取り組んでいます。

北海道函館市にある函館市医師会病院では、「クローバー」という地域医療連携センターが入退院に関する窓口となり、他の医療機関や介護施設・事業所などとの連絡調整を行っています。退院時の支援は医療ソーシャルワーカー(MSW)が主に担っており、本人や家族の状態・意向を踏まえて医療機関や介護サービスにつなぎます。経済的な問題がある場合は活用できる福祉制度を探し、自宅での療養に不安があれば医師・看護師・リハビリ専門職などと共に自宅を訪問して、住宅の改修や介護用品の導入を奨めることもあります。また、退院前カンファレンスを開催し、退院後に関わる医療機関・介護事業所などと情報共有する機会を設けています。

急性期病院を退院した後は、すぐに自宅に戻れる場合もあれば、回復期リハビリテーション病床への転院、老健や特養などへの入所など、状況に応じて様々な支援が必要です。もちろん、かかりつけ医に引き継いで継続的な医療を提供する場合も多いです。これらの引き継ぎを円滑に進めるためにも、互いに顔の見える関係は欠かせません。そのために函館市では、様々な医療機関・施設の連携室の職員が交流する機会も設けられています。

 

医療ソーシャルワーカー(MSW)とは

高齢者や障害者、生活保護受給者など日常生活に支障のある人に対し、福祉や保健医療などのサービスを提案し、生活を支援する仕事です。多くは社会福祉士の資格を持っています。

 

地域包括ケアを支える取り組み SCENE02
病院と地域をつなぐ(北海道函館市)(後編)

地域医療連携センターの役割とソーシャルワーカーの仕事

函館市医師会病院の地域医療連携センター「クローバー」では、主にMSWが退院調整の役割を担っています。MSWの高柳靖さんにお話を伺いました。

「退院する患者さんのなかには、自宅に帰ってから困ったときに誰に頼ったらいいのかわからない、あるいはお金のことで心配があるなど、社会的・経済的な問題を抱えている方もいます。MSW は利用できる社会資源や各種制度活用の提案、手続きの支援を行っています。高齢の患者さんの場合、入院前から何らかの疾患でかかりつけ医を定期的に受診していたり、介護サービスを利用していることも多いので、MSWが入院時にかかりつけ医やケアマネジャーから患者さんの情報を得て、退院のための準備をしておきます。そして退院の際には、入院中の治療に関する情報や、退院後の生活のためにどういった支援が必要なのかということを、MSWからかかりつけ医・ケアマネジャーに伝えています。」

地域の医療機関・介護施設との関係づくり

函館市医師会病院では、退院後も患者さんができるだけ住み慣れた地域で生活し続けることができるよう、医療・介護従事者に向けて、必要な情報を提供しています。これまでには、胃ろうの管理や感染対策・医療安全に関する講演会・研修会等を行ってきました。また函館市では、市内の急性期医療を担う3病院が中心となって、「地域医療連携実務者協議会」を開催しています。協議会は年3回開催され、ソーシャルワーカーや事務職員など、地域医療連携に関係する多職種が集まり、参加者数は100人規模にのぼります。協議会では講演会やグループワークが行われ、終了後の交流会にも60~70人が参加します。各病院の地域医療連携室のスタッフも、この交流会で親交を深めているため、普段電話などでやり取りをする際の連携もスムーズになっているそうです。

(写真)2014年11月に行われた実務者協議会の様子

「クローバー」ができた経緯

地域医療連携センター「クローバー」が設立されたのは、2009年のことでした。函館市医師会病院は、地域のかかりつけ医からの紹介を受けたり、かかりつけ医が共同で利用できる医療機器等を備えたりすることで地域医療を支える「地域医療支援病院」です。そのため、かかりつけ医からの紹介や検査依頼がよくあるのですが、連絡を集約する窓口がなく、しばしば診療や検査の業務が中断されてしまうという問題を抱えていました。そこで、外向けの窓口を一本化しようと立ち上げられたのが「クローバー」だったのです。

立ち上げにあたっては、まず問題点を洗い出すことから始めました。医師はもちろん、各部門が困っていることを全て箇条書きにし、多職種でディスカッションを重ねたそうです。これによって、各職種の考え方を互いに理解することができ、多職種で問題を解決できるようになったそうです。それが、結果的に患者さんや病院外の他機関に対しても良いサービスを提供できる体制につながりました。

No.13