医学生 × 地方公務員 同世代のリアリティー

自治体で働く 編-(前編)

医学部にいると、なかなか同世代の他分野の人たちとの交流が持てないと言われます。そこでこのコーナーでは、医学生が別の世界で生きる同世代の「リアリティー」を探ります。今回は「自治体で働く」をテーマに、市の職員として働く社会人2名(社A・B)と、医学生3名(医C・D・E)の5名で座談会を行いました。

今回のテーマは「自治体で働く」

日頃は目立たないですが、私たちが安心して暮らすために、地方公務員は様々な場面で私たちの生活を支えてくれています。縁の下の力持ちである地方公務員の仕事を覗いてみましょう。

公務員になるにはどうしたらいいの?

医C:お2人とも市の職員とのことですが、公務員になろうと思ったきっかけは何ですか?

社A:私は大学で社会学系の学部へ行きました。そこで町づくりに関する授業を受けて面白いと思い、大学2年生の頃から公務員を志すようになりました。結婚や出産などでライフスタイルが変わっても働きやすいとうのも魅力だと感じました。

社B:私は小さい頃から警察官に憧れていました。大学進学も考えましたが、結局公務員になるのなら早い方がいいと思い、高卒で公務員になることを決めました。その頃には市政にも関心が出ていたため、市の採用を受けることにしました。

医D:公務員になるためにはどのような道をたどるのですか?

社A:高卒でも大卒でも、予備校へ通うのが一般的です。私は大学2年生の頃から予備校に通い始めました。大学3年生になると多くの学生は就職活動を始めるのですが、私は就活と平行して公務員試験の勉強も続けて、結果的に市の職員になりました。

医D:公務員試験ってどういう内容なんですか?

社B:自治体や職種によってかなり異なります。行政職と呼ばれる一番採用の多い職種だと、国数社理英の基本的な内容に加え、法律や経済などの専門的な内容が問われることもあります。競争倍率がかなり高く、10倍を超える自治体も多いですね。

公務員ってどんな仕事をしているの?

医E:お2人は具体的にどんな仕事をしているのですか?

社A:私は教育委員会で働いています。教育委員会という名前は聞いたことがあると思いますが、具体的に何をしているかは分からないのではないでしょうか。私の担当は生涯学習で、芸術鑑賞やレクリエーションなどを通じて市民がいきいき生活できるよう、イベントの企画・運営を行っています。身近な行事では成人式や、公民館などで行う市民講座が挙げられます。

社B:私は保健所に所属しています。1年目は医師免許や臨床検査技師免許など各種免許の申請受付や籍訂正を担当していました。今の業務は主に2つあって、1つは医療費助成事務です。これは難病申請や感染症の届けを受け付けたり、書類に不備がないかを調べたりする仕事です。もう1つは予防接種関連の事務ですね。予診表を審査して、接種が適正に行われているかをチェックしています。

医C:公務員の働き方は一般企業の会社員とどう違いますか?

社A:公務員は異動が多いのが特徴ですね。3~4年ごとに別の部署や施設に移ることになります。私はいま教育委員会で働いていますが、今後市役所勤務になったり上下水道局などに移る可能性もあります。業務内容が大きく変わるので、異動と言うよりもむしろ転職に近いかもしれません。ですから公務員は医師と違って、一つのことに生涯取り組んでスペシャリストになるというより、様々な業務を経験してジェネラリストになっていくという感じです。

医D:確かに医者はスペシャリストだというイメージがあるかもしれません。けれど最近は、どんな分野の患者さんも診られる医師を目指す人も多いんですよ。色んな部署を行き来するとなると、昇進などはどのような形で行われるのですか?

社B:30代で係長試験を受けられるようになるなど、基本的には年次に応じて昇進していきます。給料も年次で決まる部分が大きいので、同期のお財布事情は大体分かりますね(笑)。民間の企業に比べると、年功序列が残っていると言えますね。

同世代


医学生×地方公務員 同世代のリアリティー

自治体で働く 編-(後編)

市民への応対って難しそう…

医E:公務員の仕事の難しさはどこにあるのでしょう?

社A:すべての業務を法律に則って行わなければならないので、法律の知識が必要ですし、気を遣いますね。時々市民から厳しい意見もいただくのですが、無下にせず、傾聴することを心がけています。必ずしもその方の希望を叶えることができないこともありますが、私たち公務員は個人で判断しているのではなく、自治体の代表として法律に則って判断していることをお伝えするようにしています。

医C:実際に市民に応対するとなると、なかなか簡単にいかないこともありそうですね。

社B:保健所では医療費助成の申請を受け付けますが、申請者の事情は様々です。以前、難病申請が基準に当てはまらず、助成できないケースがありました。申請者は「今月は病院に行くことも、ご飯を食べることもできない」と泣いておられました。どんなに困っている方であっても、基準に沿わないかぎり助成できないというジレンマは、仕事のなかで常に抱えています。

社A:適切な説明が求められる場面が多いため、多くの自治体では接遇研修が用意されているんですよ。

医D:そんな研修があるんですね!医学部にはそういう授業はないと思います。医師も多くの患者さんに接する仕事ですし、そういったコミュニケーションの訓練も必要ですね。

行政が医療と関わる場面ってどんなもの?

医E:話を聞いていて、行政は医療とも関わっているのだと思いました。どんな場面で関わることが多いですか?

社B:医療費助成業務のなかで、病院にかかっている高齢者と関わる機会が多いです。私の自治体では、一人暮らしの高齢者にアンケートを送って、日常生活自立度をチェックしています。回答を見て心配なことがあればこちらから電話するなどして、健康に暮らしてらっしゃるかを把握しています。

社A:私は生涯学習に関する仕事をするなかで、高齢者と関わることが多く、予防医学に興味を持ち始めました。普段から運動をしたり趣味に打ち込んでいる高齢者は認知症や寝たきりになりにくいと言われますが、それを支援するのも行政の役割だと思っています。市民講座では高齢者向けのスポーツ教室などを用意しています。今は医学の進歩もあり高齢者でも元気な方が多く、教室は盛況です。市民に喜んでもらえる企画をできた時は嬉しいですね。

医E:僕の祖父は精神科の病院を開いているのですが、高齢の患者さんは認知症も患っていることが多いんです。そこで患者さんの家族に対して、認知症への接し方を学んでもらう機会を設けています。認知症への理解が深まることで、退院後の在宅移行がスムーズになるそうです。今後は家族だけでなく、地域全体で高齢者をみることが重要になるのだと思います。

医C:他に高齢者と関わる場面としてはどの様なものがありますか?

社A:定年退職後の方が庭木の剪定や公園の掃除などを請け負う、シルバー人材センターという団体のことをご存知ですか?私の自治体では、共働きの家庭の児童を放課後に学校で預かる「放課後子ども教室」という取り組みを行っているのですが、そこにシルバー人材センターの方に来てもらって、子どもの面倒をみてもらっています。

医D:定年退職後の方に働く場を提供しつつ、共働き家庭の育児支援をするという、一石二鳥の取り組みですね。世代を超えた交流も生まれますし。

社A:ただ課題もあって、子どもは元気に遊び回るので、よくトラブルが起こるんです。子どもが怪我をしたときの責任は誰にあるのかを事前に定めておいて、日頃からシルバー人材センターとの信頼関係を築いています。万が一事故が起こった時には、行政が間に入れるようにしておくことが重要です。

医E:地域の社会資源を上手くつなぎながら、相互の調整役を担っていく。まさにジェネラリストといった感じですね。

公務員にとって医師の存在とは?

医C:行政から見た医師って、どういう存在なのでしょうか。

社B:保健所の職員をしていると、住民の医師に対する信頼はとても高いと感じます。私たち保健所職員が言っても受け入れてもらえないことでも、医師が指導すれば「お医者さんがそう言うなら」と受け入れてくれることもありますから。

医D:大学でもそう教わっていますが、やはり医師の責任は重いものですね。いま自分が勉強しているのはテストに受かることが目的ではなくて、将来患者さんの信頼に応えるためなんだと意識しなければならないなといつも思っています。

医E:同じ医学生として、尊敬します(笑)。

社A:行政職員にとっても、医師はとても頼れる存在です。医学的な知識が必要なケースが生じた時に相談すると必ず答えていただけるので、安心して日々の業務に当たれています。

社B:保健所には医師の資格をもった職員がいて、私の直属の上司も医師です。自治体の中で感染症が流行した際には保健所が対応するのですが、その際に主導するのは医師です。例えば冬にインフルエンザが流行すると医師が学校に行って調査を行いますし、結核の患者さんが出た時に感染ルートの予想や対応計画の立案などを決めるのも医師の役割です。

医C:公務員の仕事を知り、また医師として将来行政と関わるイメージが湧いてきました。今日はありがとうございました。

No.13