ケース・スタディ 大分県由布市
認知症で困っている人に関わる(前編)

大分県由布市では、認知症になって困っている人やその家族を手助けするべく、かかりつけ医が中心となって様々な取り組みを行っています。

医療者の「困った」から始まった

大分県由布市には、認知症の人や家族を地域で支える仕組みを構築しようと活動している、「由布物忘れネットワーク」があります。今回は、ネットワークに参加する医師、佐藤愼二郎先生にお話を伺いました。

「実は私たちの活動は、認知症の人を目の前にしたとき、どうすればいいのかわからず困ったという経験から始まっています。当たり前にできたことができなくなって途方に暮れている認知症の人や、家族に認知症の症状が出てどうしたらいいのか困っている人たちを目の前にしたとき、医療者は何をしたら役に立てるのか、以前はわからなかったんです。そうやって困っている医療者が、とにかく現状を何とかしようと集まって、この活動が始まったんです。」

かかりつけ医が認知症を診る

高齢化が進むに伴って、認知症の人の数はますます増えています。かつての由布では認知症の診察は専門医に任せるのが一般的で、大学病院に設置されたもの忘れ外来が、ひどいときには半年待ちという状況でした。この状況を克服しようと、地域のかかりつけ医が 認知症を診られるようにしようという取り組みが始まりました。

「地域の開業医は、かつては認知症について苦手意識を持っていました。専門知識が必要な分野で、自分たちには難しいという思い込みがあったんです。でも、大学病院では地域の認知症の人全員を抱えきれないという状況で、もはや『専門外だから』と言って専門医に回してはいられないと感じるようになりました。そんななか、専門医の先生から『我々がしっかりとサポートするから、初期の認知症の人はかかりつけ医で診てもらえませんか』とお話があったんです。それで、まずその先生をお呼びして研究会を開くことになりました。」

 

研究会を行ううちに、それだけでは状況は改善できないことがわかってきました。認知症の人に関わるケアマネジャー(ケアマネ)が、かかりつけ医が認知症を診ようとしていることを知らず、依然として認知症の人を専門医のところに連れて行ってしまっていたのです。

「せっかく勉強しても、知ってもらえなければ意味がありません。そこで、地域のケアマネに呼びかけを行い、私たちの研究会に参加してもらうようにしました。自分たちの実践を介護の人たちに見てもらったことで、困ったらこの先生に聞けばいいんだな、と信頼を得られるようになりました。」

他職種との溝を埋める

認知症の診療のために他職種と連携する中で、新たな課題も浮上しました。例えば、ケアマネに研究会に参加してもらっても、医師同士の議論が始まってしまうと専門用語や略語が飛び交い、ケアマネは置いてきぼりになってしまいます。佐藤先生は、医師とケアマネとの間の医学的知識の溝を埋めるべく、工夫を始めました。

「医師の話している内容をケアマネさんにもわかってもらえるよう、地域の先生方にカンパを募って、ケアマネ向けの用語集を作ることになりました。後には専門用語だけでなく、薬の副作用や認知症が進行したときに起こることなど、知っておいてほしい情報を追加していきました。」

佐藤先生は、ケアマネに限らず、他職種にも認知症の基本的な知識を持ってもらうことが非常に重要だと考えています。

「基本的な医療知識を持つことで、ケアの質はすごく高まります。他職種に医師と同様のことをしてほしいと言うわけではありませんが、例えば徘徊一つを取っても、その裏には身体が痒いとか、便秘でお尻が痛いとか、人それぞれの理由があるんです。それを、ただ『徘徊するのでどうにかしてください』と言って医師に送るのではなく、『最近便通がないようなんです』とか『こんな皮膚症状があって、もしかしたら帯状疱疹ではありませんか』とか、知識に基づいて相談してもらうことで二人三脚が始まるんです。『先生に意見を言うなんておこがましい』と思わずに、『こういう症状があるんですが、こんな問題があるんじゃないですか?』と積極的に相談してもらえる関係を築くことが、医師にも求められています。」

 

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