地域医療ルポ
地域住民の一人として、一人の人間として

東京都町田市 西嶋医院 西嶋 公子先生

東京都町田市
町田市は、東京都多摩地区南部に位置する人口約42万人の市。1960年代よりベッドタウンとして発達したが、農業も盛ん。西嶋医院のある成瀬台は、1970年代に宅地開発が進んだ地域。人口は約8000人、高齢化率は約35%と市内でも特に高齢化が進んでいる地域。
先生

「昭和の終わりごろ、父が認知症と診断されて、一時的に預けられる施設を探しました。しかし当時、父が父らしく、尊厳を保って生きられる場所はほとんどなかった。薬の過剰投与や身体拘束が行われる病院の実態を目の当たりにして、このままではいけない、これは、父が受けるケアの問題ではなく、高齢化を迎える私たちの社会全体の問題なのだと、一市民として強く感じました。」

1979年に医院を開業した町田市成瀬台は、新興住宅地。開業当時は若い世帯ばかりだったが、いずれは一斉に高齢化を迎えることになる。西嶋先生は、この地域でのケアや介護のあり方を考えていかなければと考えた。そこで、市民が自分たちの将来を自分たちで支えるためのボランティアグループ『暖家の会』を立ち上げたのだ。柱になったのは、「普通の人に何ができるか」「自分がケアされるならどうしてほしいか」という2つの考えだ。30~80代という幅広い年齢層のメンバーたちは、一人暮らしの男性と老老介護のお宅に自分の家の料理のついでにおかずを作って届けたり、独居の方の入浴の見守りといった、医療・介護の資格を持たない人にも肩肘張らずにできることを通じて、医療や福祉のサービスの隙間を埋めてきた。活動のなかで徐々にメンバーの意識も高まり、ケアの拠点となる施設を望む声も上がるようになった。そこで、西嶋先生が中心となって市へ陳情し、予算を確保。住民参加型のケア施設『ケアセンター成瀬』を開設した。

こうした一連の活動を西嶋先生が先導した背景には、医師として地域社会に貢献することへの思いがあった。

「社会には、医療だけでは解決できない問題がたくさんあります。地域のかかりつけ医として患者さんとその家族をしっかり診ていれば、その人たちに医療だけ提供すればいいわけではないとわかるはず。医師も地域住民の一人として、そして一人の人間として、一緒に地域の問題を考えなければいけないと思っています。

ただ、医師は社会的に強い立場になることも多い。弱っている方に接する専門職ですから、どうしてもね。だからこそ、医師が地域のオピニオンリーダー的な存在でいることも大事だと思うんです。」

自身の専門分野だけではなく、自身のいる地域で何が起こっているのかにもっと関心をもってほしい。一人の人間として、どうあるべきかを常に考える医師になってほしい――西嶋先生は、次世代の医師への思いを朗らかに語った。

 

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(写真左)西嶋医院のある成瀬台の、閑静な住宅街の様子。
(写真中央)ケアセンター成瀬の外観。
(写真右)穏やかに、熱い思いを語る西嶋先生。
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