日本医師会の取り組み
医療保険・介護保険

制度作りによって、平等公平に医療を受けられる社会を

日本医師会は、医療界を代表して医療保険・介護保険の仕組み作りに関わっています。

今回は、医師を代表して診療報酬改定の作業に携わっている、日本医師会役員のお二方に、医療保険と介護保険について対談していただきます。

医療保険のしくみについては、「ドクタラーゼ」2号の特集で詳しく紹介しているので、ぜひご覧下さい。

医療保険の意味

松本 純一 日本医師会常任理事(以下、松):医療保険や診療報酬というと、一見、医学生のみなさんには縁遠く難しく感じるかもしれませんね。でも実は、私たち医師の「仕事の値段」も全て診療報酬の中で決められているんですよね。

中川 俊男 日本医師会副会長(以下、中):みなさんも知っているかと思いますが、我が国は公的な医療保険による「国民皆保険」が整っています。これは、誰もが安価で質の高い医療を受けられることを目的に作られた制度で、世界一の平均寿命を誇る日本の医療を根底から支えています。皆保険体制のもとでは、原則としてどこで診療を受けても、決められた診療報酬が支払われることになっています。

医療の値段を自由に決められたら、医師が少ない地域や、専門家の少ない分野の医療がとても高額になり、必要とする人が医療を受けられなくなってしまうかもしれません。そういうことを防ぐために、国全体の公的医療保険制度のもとで診療報酬を決めているわけですね。

:実際、医療には多くの費用がかかることが少なくありません。例えば、くも膜下出血で救急搬送された場合、搬送からリハビリまで、医療費が300万円ほどかかると言われています。しかし、医療保険があるため、窓口で患者さんが払うのは3割の90万円程度、そして高額療養費支給制度という、一定以上の自己負担が生じないようにする制度によって、最終的には実際の負担額は20〜40万円におさえられます。

正当な費用とはいえ、突然の病気で高額な医療費を負担するとなると、国民が安心して暮らすことはできません。だからこうして、誰もが必要な時に、必要な医療を受けられる社会を医療保険によって作っているのです。

:医師の側も、この人は医療費を支払えるだろうか? と心配しながらでは、質の高い医療を提供することが難しくなります。医療保険制度があることで、医療者も患者も、お金の心配をする必要がなくなるわけですね。つまり、医療保険は、国民に適時・適切な医療を提供するための仕組みである、と言うこともできるでしょう。

医療界全体の代弁者として

:しかしなかなか、医学生のうちから医療保険や介護保険を詳しく勉強したいとは思えないですよね。私だって今は日本医師会の役員として、医療保険を担当していますが、若い頃は脳神経外科医としていい手術をすることばかり考えていました。でも、若い医療者はそれでいいんじゃないかとも思っているんです。若いみなさんには、どの手術がいくらだとか、どうすると病院の赤字を減らせるかなんてことばかり考えるよりは、まずは医学の道を邁進してほしい。

:そうやって、みなさんが経営やお金のことを考えずに済むように、医療保険・介護保険の仕組み作りに参加するのが日本医師会の役割なんですよね。

診療報酬の改定については、中央社会保険医療協議会(中医協)で2年に一度、議論されています。中川先生も私も、そこに委員として議論に参加しています。中医協には支払側・診療側・公益代表という3つの立場があり、私たちは診療側として意見を出しています。医学の進歩に対応し、新しい技術を保険適用にすることはもちろん、医療機関の経営が極度に苦しくなることを防いだり、これからの医療全体のあり方を考えながら、どの分野を診療報酬で高く評価するかといったことを提案し、現場の医療の方向付けを行う役割も担っています。

:しかし、私たちが医療界を代表して財務省や国、保険者たちと渡り合うためには、医療界として団結している必要があります。医師会の加入率向上は、永遠の課題ですね。

:勤務医や若手医師たちに医師会に入会していただいて、現場の声も汲み取れるようになっていないと、医師会が医療界全体の意見の代弁者として認めてもらえなくなってしまいますからね。

日本医師会は、医療保険を守ることで、医師の仕事が正当に評価されるよう、医療界を代表して国に働きかけています。そうすることで、医師が利益のためでなく良い医療のことを考えて働けるように頑張っているんです。若いみなさんには、医師会に入会してもらうことで医療界代表としての発言力を守ることに協力していただきたいというのが、私たちの率直な思いですね。

平等公平な医療の提供

:医療保険も介護保険も、究極的には、すべての国民が分け隔てなく必要な医療とケアを受けることができるようにするための仕組みです。所得の格差によって受けられる医療が違うというようなことは、あってはならない。医師は、営利を目的とせず、必要としている人に医療やケアを提供することを職業倫理としています。

:私も中川先生も、医学生のうちから、医療保険や介護保険のことを詳しく知ってほしいと思っているわけではないんです。ただ、医師として働くうえでは知らないでは済まされないこと。ルールを守ったうえできちんと仕事をすることが、国民の医療に対する信頼を支えることにもなっているわけですから。

:利益のためでなく、患者のための医療を提供するのが、医師の仕事です。医療保険や介護保険を正しく使うことが、制度を守り、国民に十分な医療を提供することにつながっています。ですから、私たちは日本医師会として、みなさんは現場の医師として、それぞれの立場で医療保険や介護保険を正しく使い、守っていきましょう。ここだけはしっかり伝えておきたいです。


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