グローバルに活躍する若手医師たち

医学という言語で

JMA-JDN運営委員 来住 知美

「言語は単なるツールでしかない」とは外国語学習でよく言われることです。医学もまた、ひとつの言語かもしれません。大学で人体に関するありとあらゆる専門用語と病態生理を学び社会に出ると、医学という言語を操って様々な人の健康に携わることになります。読者のみなさんにとって、医学とはなんでしょう?医学という言語を使い、何を学び、何を伝え、何ができるでしょうか?私にとって医学という言語は、多様な人と出会うためのツールです。私がJDNに関わったのも、世界の医師と出会ってみたい、というシンプルな動機からでした。JDNには様々な問題に興味を持つ若手医師が集まっています。2015年10月にはWMAモスクワ総会に出席する機会を得たので、そのことを少し紹介します。

話は脇道に逸れますが、実はロシアを訪ねるのには少し抵抗がありました。というのも私の祖父がシベリア抑留兵だったからです。満州で暮らしていた祖父母一家は、終戦後離散しました。数年後に引き揚げ兵として帰国する祖父に舞鶴港で再会するまで、祖母はつらい時間を過ごしたといいます。私は祖母にとっては今も「敵国」である国に出かけてよいのかわかりませんでした。

しかし私はモスクワに飛び、迷いを吹き飛ばすことができました。今回のWMAで最も印象的だったのは、5年間若手医師が取り組んできたPhysicians Well-Beingに関する声明案がついに決議されたことです。若手医師の過労や孤立(相談者の不在)は深刻な問題です。例えば卒後1年間、僻地医療従事が義務付けられているペルーのある地域では、孤独な研修医の自殺や失踪、文化の相違による村人からの暴力行為などが問題になっています。他国でも、医療者への暴力、経済危機に伴う失業などの報告があり、研修過程にある若手医師だからこそ行える政策提言があることを実感しました。本会議ではこの他に、トランスジェンダーの健康、核兵器廃絶、難民のヘルスケアなど、幅広い国際情勢に関する声明が目の前で議論されました。さらに若手対象の講義では、ミレニアム開発目標(MDGs)に代わる持続可能な開発目標(SDGs)が取り上げられ、理解を深めました。雪のちらつくモスクワで、プーチン大統領の心温まるエピソードに驚きながらボルシチを食べ、世界中から集まった若手医師の仲間とともに過ごした1週間で、私はすっかりロシアのファンになってしまいました。

ロシアに実際に足を運び、医学という言語をもってその国での物語を共有し、私は自分の心にある国境を越えられたのでしょう。この経験を基に、グローバルな視野を持ちながら、目の前の診療に真摯に携わっていきたいです。みなさんは、医学という言語で、どんな未来を広げようとしているのでしょうか?

来住 知美
洛和会音羽病院で臨床研修後、大阪市立総合医療センター感染症内科に勤務。家庭医療専門医。認定内科医。

世界の若手と共に学ぶこと〜若手の成長の場を目指して〜

JMA-JDN 副代表 WMA JDN Membership Director 三島 千明

p>JDNは2010年にWMAに承認された若手医師による国際的ネットワークです。日本では専門科を超えた若手が共に学び合うことを目的としてJMA-JDNを2012年に設立し、JDNの加盟国として活動をしています。年々と活動の内容が進化しており、WMAモスクワ総会ではPhysicians Well-Being に関する声明案の採択など、JDNの活動が発展していることを強く感じる機会となりました。

このJDN会議では、声明案の採択以外にも様々な活動を行います。その1つは、参加国を代表する若手医師等によるプレゼンテーションです。ここでは、各国の医療状況、若手医師の置かれている環境や課題について発表されます。日本を含め、計17か国のJDNが参加しており、発表後に全体でディスカッションを行います。様々な国の状況を一気にインプットし、議論が白熱するこの時間はとてもエキサイティングです。今回、日本からもJDNの活動報告を行い、立ち上げからの活動の継続性、発展に対して評価いただき、参加している若手医師らからの投票によるベストプレゼンテーション賞に選ばれました。また、JDNでは加盟国同士の留学制度の構築についてプロジェクトチームが立ち上がっていることも共有されました。日本も含めた議論が少しずつ進んでおり、近い将来、このJDNのネットワークが、日本の若手医師が海外で学ぶ際の選択肢の一つになるかもしれません。この他にも、日本と韓国の若手医師で、日韓交流企画を計画するなど実際に交流を深めており、アジア間の若手医師の協働という長期的なビジョンを持って、取り組んでいます。

このように、JDN会議は世界の若手医師が集まり、政策提言の議論、また各国の医療状況を学び、交流できる機会です。昨今はインターネットが普及し、デジタルな情報が氾濫するなかで、目の前の情報をどう解釈し、自分がどう考えるか、が問われることが増えているように思います。JDNの活動は、自分がどう考えるかを自らに問いかけ、外部に発信することで成長できる場の1つではないかと思います。

私自身、海外の若手医師との継続した活動に対し非常にやりがいを感じており、今回のモスクワ総会で、JDNの国際役員に立候補させていただきました。日本と、世界の若手医師をつなぐネットワークの構築に今後も関わり、より多くの日本の若手医師の方に関わっていただけるような活動にすること、そして日本と世界の医療を共に学び、成長する場になることを目指していきたいと思います。

三島 千明
島根大学医学部附属病院で臨床研修修了。医療法人北海道家庭医療学センターで後期研修修了。

 

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