スピードを求められる緊張感のある現場で
一つひとつの手技を正確に
【心臓血管外科】山下 築医師
(国立循環器病研究センター病院 心臓血管外科部門 心臓外科)
(前編)
専門センターで修練を積む
――先生が現在お勤めの国立循環器病研究センター病院は、循環器病の治療や研究で日本・世界をリードしています。先生は最初、こちらの病院にレジデントとして赴任されていますが、レジデント時代の業務はどのようなものでしたか?
山下(以下、山):心臓外科・血管外科・小児心臓外科の3つをバランスよくローテーションするのが、当院のレジデントプログラムの特徴です。それぞれの科で、レジデントは一般病棟業務とICU業務、そして手術を経験します。なかでも最も比重が大きいのがICU業務ですね。ICUでは主に術後管理を行いますが、手術当日の方はもちろん、前日・前々日に手術を終えた方も診るので、病院にいる時間はかなり長くなります。また当院では、レジデント時代から臨床研究も並行して行います。業務の合間を縫って研究を進めなければならず、非常に忙しかったです。
――レジデントを終えた現在は、主にどのような疾患を治療しているのでしょうか。
山:今は心臓血管外科の心臓外科分野に所属しており、主に後天性心疾患の治療を行うことが多いです。具体的には、冠動脈疾患に対する冠動脈バイパス手術や、弁膜症に対する弁形成術や弁置換術、重症心不全に対する人工心臓や移植などを主に行っています。また、近年ではカテーテル手術も発展してきていますので、循環器内科との連携も重要ですね。頻繁にカンファレンスを行ってどの治療がふさわしいか議論したり、経カテーテル的大動脈弁置換術(TAVI)などの新しい治療法の場合は合同で治療を行うこともあります。ちなみに、私の現在の臨床研究のテーマもTAVIに関するものです。
スピードを求められる緊張感のある現場で
一つひとつの手技を正確に
【心臓血管外科】山下 築医師
(国立循環器病研究センター病院 心臓血管外科部門 心臓外科)
(後編)
手術ができるようになるまで
――先生は初めから心臓血管外科を目指していたのでしょうか。
山:学生のころは漠然と循環器疾患に興味があって、循環器内科と心臓血管外科で迷っていました。そこで卒業後、循環器の内科と外科の両方が充実している小倉記念病院で臨床研修をさせていただき、そのなかで外科を志すようになりました。その後、心臓血管外科に進むならばまずは外科専門医を取らなければということで、2年間の後期研修で一般外科・呼吸器外科・心臓血管外科など様々な外科を経験し、卒後5年目に当院にレジデントとして入職しました。
――よく、心臓血管外科は大きな手術が多い上に件数が少ないため、若いうちは修行するのが大変だという話を聞きます。やはりこうした専門のセンター病院だと症例数も多く、経験もたくさん積めるのでしょうか。
山:そうですね。後期研修で心臓血管外科を回りましたが、開心術の件数はあまり多くなかったです。当院は症例数もとても多く、先進的な治療も経験できます。つらいときもありましたが、支えてくれた家族には深く感謝しています。心臓血管外科の専門医は最短で9年目で取得できるのですが、私は豊富な症例を経験していたので、最短で取得できました。
――初めて執刀医を任されたのはどんな症例でしたか?
山:私の場合は、小児心臓外科で心房中隔欠損症の閉鎖術を行ったのが最初でした。若い医師が最初に経験する疾患としては、心臓外科では大動脈弁置換術、血管外科では血栓除去や腹部大動脈瘤などが多いのではないでしょうか。私も、初めて人工心肺を使った手術をしたときは非常に緊張したのを覚えています。
――人工心肺を使うと、やはり通常の外科手術よりも緊張感があるのでしょうか。
山:かなり緊張感がありますね。出血しやすくなる薬を使うため、手術中の出血には非常に気を使いますし、大動脈や静脈に管を入れる手技も、トラブルなく行う必要があります。また、人工心肺を長時間使用すると全身状態は悪くなっていきます。逆に早く終われば終わるほど術後の経過も良くなるため、スピードも求められます。
――技術が向上してくれば、手術の時間も短くなりますか?
山:そうですね。一つひとつの手技を確実に、そして正確に行うことの積み重ねが、手術のスピードとクオリティを上げると思います。日頃からしっかり修練を積んでおくことが大事ですね。執刀医になるチャンスは突然訪れますので、助手のうちに実際の手術やビデオを見て学び、ノートに要点を書き留めて、何度もシミュレートしておくことが求められると思います。
後輩へのメッセージ
――心臓血管外科を目指す医学生には、専門的な医療機関で研修することに憧れを持っている人も多いと思います。そんな医学生に向けて一言お願いします。
山:当院のような専門機関はハードルが高いと思われがちですが、臨床研修を終えた人には、門戸は広く開かれています。もちろん、それまでにある程度の外科修練を積んでいることが望ましいですが、実際に臨床研修を終えてすぐの3年目からレジデントとして来る人も多いです。皆さんもぜひ積極的に挑戦してほしいと思います。
2007年 長崎大学医学部卒業
2016年7月現在
国立循環器病研究センター病院
心臓血管外科部門 心臓外科
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