10年目のカルテ

執刀した患者さんが
歩いて家に帰るところを見られるのが嬉しい

【呼吸器外科】濱中 瑠利香医師
(国際親善総合病院 呼吸器外科)-(前編)

呼吸器外科の特徴

濱中先生

――呼吸器外科では、どのような疾患を扱うのでしょうか?

濱中(以下、濱):心臓と食道以外、胸腔内の臓器の疾患のほとんどを対象としています。主な疾患としては、肺がん、気胸、縦隔腫瘍などが挙げられます。

――先生は、どうして呼吸器外科を選ばれたのでしょうか?

:学生の頃から、自分には手を動かす科が向いているのかな、と思っていました。外科系の中で呼吸器を選んだきっかけは、臨床研修の際に、東海大学医局の岩﨑教授の手術を見たことです。出血がほとんどなくて、すごく綺麗な手術だと感じました。

――胸部の手術というと、侵襲性が高そうですが。

:もちろん患者さんの状態によりますが、胸腔鏡を使った手術の場合、胸部に小さな穴をあけてそこからカメラや器具を入れ、肺の一部を切除することができます。岩﨑教授が開発した術式だと、2箇所の穴だけで手術ができるので、傷もとても小さいのです。

とはいえ、胸腔内は重要な臓器や血管が多いですから、小さなミスも許されません。大血管を傷つければ、すぐに命に関わる事態になります。簡単ではないけれど、自分の腕次第で、患者さんにあまり負担をかけずに救うことができる、というのは大きなやりがいです。

 

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10年目のカルテ

執刀した患者さんが
歩いて家に帰るところを見られるのが嬉しい

【呼吸器外科】濱中 瑠利香医師
(国際親善総合病院 呼吸器外科)-(後編)

独り立ちするまでの歩み

――胸腔鏡を使った難しい手術を習得するには、時間もかかるのではないですか?

:そうですね。8年目くらいからは、一部の手術で執刀医をさせていただいています。東海大の医局は、わりと早くから任せてもらえる方だと思います。今も難しい症例では、教授が執刀し、私は助手につくのですが。

――入局してすぐは、どのような仕事をされていましたか?

:病棟業務と救急外来の初期対応に加えて、上級医の行う手術を見学させてもらったり、補助に入ったり、という毎日でした。休む間がないほど忙しかったですが、大きく成長した時期だったと思っています。

――その後、がんセンターでの勤務を経験されています。

:がんセンターは、様々な医局から人が集まりますし、開胸手術の症例も多かったので、経験や知識の幅が広がりました。

そして6年目になって大学に戻ると、今度は手術全体のマネジメントを担当する、チーフの役割になりました。手術を控えた患者さんの情報が全て自分のところに集まってくるので、それぞれの手術の方針を立てて、カンファレンスでプレゼンします。さらに、誰がいつ執刀するのかを計画し、上司の承認を得ます。患者さんに手術日程をご連絡したり、院内の手配をしたりといったコミュニケーションも担当します。そして手術の際には、助手として参加します。

チーフの業務をこなすなかで、術前のアセスメント、手術計画の立案、術後の退院に向けた管理といった、手術全体の流れが身体に染み着いていきました。もちろん最初から全てマネジメントできたわけではなく、上司の先生に指導していただきながら、手術に当たって必要な知識・技術を、だんだんと身につけていった、という感じです。

――手術をマネジメントする能力を身につけて、再び市中病院に出られたんですね。

:はい。8年目で海老名総合病院に行ってからは、基本的に独力で計画を立てて、手術の際に教授や上級医に来ていただくという形になりました。上級医の手術を見て「こうすればいいのか」と納得したはずのことが、自分でやってみると思うようにいかなかったりと、最初は勉強することばかりでしたね。

速く多くの経験を積める

――現在の働き方について教えていただけますか?

:今は毎日外来業務をしながら、だいたい10人くらいの入院患者さんを受け持っています。手術は週に1度、大学からチームが来る日に集中的に行います。

外科手術というと大変なイメージもあるでしょうが、呼吸器外科の手術は肺がんで3時間程度、気胸なら30分くらいで終わります。朝から晩まで立ちっぱなしということはまずないので、体力的には女性でも十分にできると思います。また、手術時間が短いので、一日に何件も手術を入れることができ、外科としては速いスピードで手術経験を積むことができます。

――10人もの患者さんを担当するのは大変ではないですか?

:いえ、肺がんで手術適応になる患者さんは、それほど全身状態の悪くない方が多いんです。手術も侵襲性が低いので、次の日からは食事も摂れて、術後1週間も経たずに退院まで漕ぎつけられることが多いです。そうやって自分が手術した患者さんが、元気になって自分で歩いて帰っていく姿を目にできるのは、やはり嬉しいですね。

もちろん、大学で重症外傷や末期の肺がんを診ることもあり、命に直結する大変な仕事であることには間違いありません。でもその分やりがいもありますし、若いうちから任せてもらえることも多いので、外科系に興味がある方は、ぜひ呼吸器外科を考えてみてほしいです。

濱中 瑠利香
2007年 東海大学医学部卒業
2016年7月現在
国際親善総合病院
呼吸器外科 医長

No.18