地域医療ルポ
小児在宅医療のパイオニアとして
手探りで活動し20年

熊本県熊本市 おがた小児科・内科医院 緒方 健一先生

熊本県熊本市
熊本市は日本最南端の政令指定都市。人口は約74 万人で、県人口の約4割を占める。2016 年4 月14 日以降断続的に発生した熊本地震では最大震度6強の揺れを観測、大きな被害を受けた。市全域及び周辺町村に点在する小児在宅患者を、緒方先生は週に1度、1軒1軒訪問して回る。
先生

緒方先生のキャリアは、小児在宅医療とは少し遠いところから始まった。医学部卒業時点では漠然と外科系に興味があり、まずは麻酔の技術をと考え麻酔科に入局。様々な手術の麻酔に携わるなか、ある時担当した小児心臓手術で、生後間もない赤ちゃんが術後に亡くなってしまう。大きなショックを受けた緒方先生は、小児麻酔を深く学ぶため、神奈川の専門病院に修行に出た。たまたま担当になった小児ICUで目の当たりにしたのが、長期入院児の存在だった。

「治療技術が向上し、難病でも助かる子どもが増えた一方で、一命を取りとめても人工呼吸管理などの高度な医療ケアが必要となり、ICUから出られない子どもも増えていたのです。ベッドを空けなければ新規患児の受け入れができないが、今ICUにいる患児の受け入れ先もない、そんな状況でした。」

熊本に戻り、勤務医として集中治療に関わりつつも、長期入院児のことは頭に残り続け、ついに一念発起して開業。外来診療で医院を維持しながら、人工呼吸器を付けた超重症児の在宅医療を始めた。前例もなく、小児科医の間でも理解は得られなかったが、単身、手探りで24時間365日の対応を続けた。

そんななか取り入れたのが、呼吸リハビリだった。呼吸リハビリを積極的に行うことによって、呼吸状態が良くなり、肺活量の改善や肺炎リスクの軽減も見られる。結果的に、夜間休日の呼び出しも減った。

「呼吸を整えれば、不安やパニック状態を落ち着かせることができるということも、次第にわかってきました。心身の調子が良くなり、養護学校に通えるようになる子もいます。そうやって教育を受けられれば、将来の選択肢も広がりますよね。」

また、自宅で看病する親の負担軽減のため、短期入所施設の運営も行っている。通常は外出できないような超重症児も、施設に通うことが自然と避難訓練代わりになっていたのか、熊本地震の際も一人の犠牲者もなく避難することができた。

近年では、小児にも対応する訪問看護や、いざというときに在宅医療をサポートしてくれる病院も増え、熊本市全体の小児医療のレベルは向上した。とはいえ、医師個人の献身的な努力によって成り立っている部分もまだまだ少なくない。

「僕も歳をとって少し体がきつくなってきました。最近は小児在宅に興味を持つ方も増えてきましたから、個人の頑張りに依存するのではなく、色々な人の力を借りて無理なく続けられる仕組みを確立できたらと考えています。」

 

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(写真左)おがた小児科・内科医院の外観。小児在宅患者のための短期入所施設「かぼちゃんクラブ」が併設されている。
(写真中央)住宅地と自然の共存した都市景観が広がる。
(写真右)熊本市は「水と緑の都」とも称される。
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