医師会の取り組み
平成28年熊本地震におけるJMATの活動

震災発生当時のJMATの活動について、熊本県医師会の西芳徳先生にお話を伺いました。

平成28年熊本地震

平成28年4月14日木曜日の夜、熊本県益城町で震度7を観測する直下型の地震が発生した(前震)。益城町やその付近では住宅が倒壊し、山崩れやがけ崩れが発生。避難する住民も多く、行政や医療機関は対応に追われた。その28時間後、4月16日土曜日の未明にさらに強い地震が発生(本震)。熊本県の阿蘇地方から熊本地方にかけて、広範囲を強い揺れが襲い、大きな被害が生じた。その後も断続的に強い余震が発生し、多くの住民が家屋の倒壊を恐れて避難を余儀なくされ、翌17日には約18万人が避難したと推計されている。

熊本県医師会で防災・救急災害担当理事を務める西芳徳先生は、14日の地震から様々な医療支援のために動き始めていたが、16日の本震の発生後に「これは大変なことになる」と感じたという。14日の地震は被害が局地的だったため、県内のJMAT(日本医師会災害医療チーム)の支援でカバーできる見込みだったが、本震の被害は広域に及び、県外からの支援も必要になることは明らかだった。

避難者の状況がみえない

本震の後、夜が明けても被災の状況はなかなか明らかにならなかった。断片的な情報から、県内各地で大きな被害が生じ、多くの人が避難していることは推測されたが、実際の避難所の数や避難者の状況などは見えてこなかった。本震が発生したのが週末だったため、情報を取りまとめる行政機関が十分に機能していない可能性もあった。

そこで熊本県医師会では、役員・職員が手分けして被災地を実際に見て回り、避難所の状況について情報収集を行った。道路が寸断されており、情報収集は困難を極めたが、非常に多くの避難者が生じていることは確実だった。基幹病院や地元の医師会も被災していたため、全国からの支援が必要であると判断し、日本医師会を通じて全国のJMATに支援を要請した。

日本医師会災害医療チーム

災害で大きな被害が生じたとき、直後の傷病者の救護が重要なことは言うまでもない。しかし同時に、日ごろから医療を必要としていた人に切れ目なく医療を提供する体制、そして避難などの環境変化で新たに生じる健康問題に対応する体制も不可欠だ。このような、通常時は地元の医療機関・医師たちが担っている役割を、災害後の混乱から復旧するまでサポートするのが、日本医師会災害医療チーム、JMATだ。

阪神・淡路大震災の教訓をもとに創設されたDMAT(災害派遣医療チーム)が、災害発生後およそ3日から1週間の超急性期の医療を担うのに対して、JMATはそれと並行して、またはその後を引き継ぎ、その地域の医療が態勢を整えるまでの期間を支えることを目指して創設された。

JMATの主な派遣先である避難所では、限られた空間で多くの人が生活することから、感染症のリスクは高い。さらに、今後の生活への不安、プライバシーが保てない生活、続く余震などの様々な要素が、避難者の健康を蝕んでいく。JMATのチームは、体調が悪い住民の診療、避難所における衛生環境の改善や感染対策など、派遣された場所のニーズに応じた活動を行う。チームの構成は、1組5名ほどで、医師・看護師・事務職員などが参加する。

震災関連死を食い止める

本震発生後、避難者が18万人にのぼるという報道を聞いた際に西先生の頭をよぎったのは、「震災関連死」のことだった。震災関連死とは、地震による直接の被害ではなく、避難生活中の疲労や環境の悪化等が原因で亡くなることだ。

「阪神淡路大震災では、避難者32万人のうち919人が震災関連死で亡くなりました。割合にすると約0・3%です。東日本大震災では避難が長期化したこともあり、避難者の0・7%の震災関連死が発生しました。今回の地震による避難者が18万人となると、ざっと500~1000人くらいの震災関連死の可能性があるということで、これは大変なことだと感じました。なんとしても震災関連死を防がなければならない。そのためには避難所の運営や環境整備にJMATが積極的に関わっていく必要があると考えました。」

今回の地震では、家屋の倒壊が被害の中心だったことに加え、強い余震が続いたことから、避難所に避難する人だけでなく、自宅付近での車中泊を選んだ人も多かった。そのため、エコノミークラス症候群の予防は重要な課題だった。実際、通常は避難から2週間ほどで発生し始めると言われるエコノミークラス症候群が、今回は10日後から発生したということだ。

「避難所や車中泊の方を見回り、適度な運動や水分補給などによる予防を呼びかけました。

震災関連死の防止ははじめの2か月くらいが肝と言われているのですが、JMATが活動していた約1か月半の震災関連死者数は17人で、割合にして0・01%でした。ゼロにはできませんでしたが、この程度に抑えられたのはJMATが組織的に活動できたことによる部分もあるのではないかと思います。

医療支援だけでなく避難者の生活支援においても、情報を収集し、必要なところに必要な支援が行き届くようにすることが非常に大切です。それらを組織的に統括する仕組みを作れたことにより、今回のJMATは滞りなく支援活動を進められたのです。」

(次号へ続く)

西 芳徳先生
熊本県医師会 防災・救急災害担当理事

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(写真上段左)JMATのミーティングの様子。
(写真上段中)地震によって倒壊した家屋。
(写真上段右)プライバシー確保のための仕切り。
(写真下段)身体を伸ばして寝るためのダンボールを使ったベッド。

 

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