医師会の取り組み
平成28年熊本地震におけるJMATの活動

震災発生当時のJMATの活動について、熊本県医師会の西芳徳先生にお話を伺いました。

平成28年熊本地震

最大で震度7を観測した前震と本震、その後も長く続いた余震によって大きな被害が発生した平成28年熊本地震。前号では、JMAT(日本医師会災害医療チーム)が行った、避難所の運営や環境整備などの災害医療活動を紹介した。

今回は、JMATの活動を円滑に進めるために設置した「統括JMAT」の働きについて、熊本県医師会で防災・救急災害担当理事を務める西芳徳先生に、前号に引き続きお話を伺う。

現場の混乱

地震発生後、ピーク時には避難所が855か所、避難者数は約18万人にのぼっていた。避難所では猫の手も借りたいような状況だったが、同じ現場に重複して医療チームが赴くケースが続出するなど、限られたチームを適切に振り分けることができずにいた。

「今回の地震では、医療チームを統括する役割を担う地元の医療機関が被災してしまったこともあり、当初は指揮系統がかなり混乱していました。しかし、このような状態が続くと、現場は疲弊してしまいます。情報を取りまとめ、現場で求められる意思決定をするマネジメント機能が早急に必要でした。既に混乱が生じていたこともあり、その場で私が判断して統括JMATを組織し、地域ごとにマネジメントにあたってもらいました。」

4地域

統括JMATが設置された4地域
平成28年熊本地震では、4月14日の前震と同16日の本震が県北部を襲った。前震で持ちこたえた建物が本震やその後相次ぐ余震で倒壊する状況が見られた。そのため避難所への避難や車中泊を余儀なくされた住民が多く、エコノミークラス症候群の予防などが大きな問題となった。
西先生は、①震源地に近く最多の死傷者を出した益城町、②2番目の被害を出した南阿蘇村に隣接する阿蘇市、③県内最大の自治体である熊本市、④臨海部、県中部に近い宇土市の4か所に統括JMATを設置した。

統括JMATの設置

main地震によって倒壊した家屋。

統括JMATは、被災地を大きく4つの地域に分けたうえで、それぞれの中で被害の大きい地域に設置された。震源に近く大きな被害のあった益城町を阪神・淡路大震災の経験がある兵庫県のチームが担当したほか、阿蘇は東京都、熊本市南部は沖縄県、宇土は鹿児島県と、それぞれ中心になるチームを決め、現場監督の役割を担った。

「統括JMATには、現場での情報収集や、他のチームとの連携・調整、現場での問題解決のためのミーティングを担当していただいたほか、次々に入れ替わるチームをまとめていただきました。また、ある程度の期間各地域に腰を据えて担当してもらいました。災害時には、土地勘のある方が頼りになるんです。全国のJMATが次から次へと来たり帰ったりする中で、長期間同じ場所を担当し、現地のことを深く知っている人がいると、とても助かるんですよね。統括JMATを設置してからは、比較的スムーズに各チームが活動できていたと思います。

現場だけでは対応できないような情報や問題点は、すべて熊本県医師会に報告され、県への意見は県医師会が行いました。また、JMATチームの派遣日程や受け入れの調整、宿泊できるホテルの確保も県医師会が行いました。

混乱が生じやすい災害時には、連絡・調整などを専門的に担う役割を置き、組織の連絡体制を一本化することが非常に重要なのだな、ということを痛感しましたね。」

医学生とJMAT

今後医学生がボランティアとしてJMATの活動に関わる可能性について伺った。

「若い人はパソコンも得意な方が多いでしょうし、ロジスティックの部分で活躍していただけるのではないかと考えています。今はまだ仕組みができていませんが、今後、医学生がJMATで活動できるような仕組みを作っていきたいですね。」

西 芳徳先生
熊本県医師会 防災・救急災害担当理事

医療チームの支援体制

ホテルの外観

今回の熊本地震では、医師・看護師・薬剤師・事務員等で編成された延べ568チーム、2556名がJMATとして活動しました。

ある程度の期間、継続して被災地での医療活動にあたるためには、医療チームの宿泊場所や移動手段の確保も重要です。

今回の地震でも、全国からJMATチームが熊本に集まるうえで滞在場所の確保が問題になりました。取材に来るマスコミが多くのホテルを押さえたほか、自宅が被災した方々がホテルを利用するケースもありました。

このような事態に備えて日本医師会は、ホテルルートイン等の宿泊施設を全国展開しているルートインジャパン株式会社と、「災害時の医療救護活動等における関係者の宿泊に関する協定」を平成24年から締結しています。

今回の地震でも、本震発生直後から日本医師会の担当者とルートインジャパンの担当者が連絡を取り合い、現地のホテルも被災して大変な状況下で、医療チーム用の部屋を確保するために奔走。JMATが活動した約2か月の間に延べ1124泊の客室が提供されました。

「他の宿泊施設は一部を除いて予約が取りにくい状況でした。そんな中で、ルートイングループにJMATの宿泊を優先して確保していただき、とても助かりました。」(西先生)