人生の最終段階の経過

がん患者さんが、積極的治療を中止してから、亡くなるまでにどのような経過をたどるのでしょうか。 終末期を専門とする先生方にお話を伺いました(下の註*を参照)。

急性期病院での積極的治療が功を奏さなくなったとき、患者さん本人や家族は、まず残された時間をどこでどのように過ごすかを決めることになります。

療養生活を行う場としては、住み慣れた場所である自宅や施設のほか、緩和ケアを受けられる病院や、ホスピスという選択肢もあります。急性期病院の医療・ケアチーム(医師・看護師・ソーシャルワーカー・リハビリ職など)は、患者さんや家族の思いを引き出すとともに、適切な情報提供を行うことで、退院後にどのような生活をするのかを決めるための支援をします。また、退院後の患者さんを診ることになる医療・ケアチームと、引き継ぎのためのカンファレンスを行います。

自宅や施設で過ごすことを選択した場合には、医療・ケアチームが協力しながら、緩和ケアを行うための医療器具の準備や、患者さんが療養生活を送っていくための環境の整備(介護用ベッドの導入、車椅子の手配など)を行います。

 

療養生活に慣れてくると、食事や睡眠、排泄などの生活に必要な行為が、可能な範囲で安定してできるようになります。特に、住み慣れた場所での療養を選択した患者さんの場合、好きなものを食べ、好きなことをし、好きなタイミングで眠る生活を送ることができるようになり、体調が一時的に良くなるケースもあります。患者さんにとっても家族にとっても、落ち着いた良い時間を過ごすことができます。

しかし、体力は徐々に低下していき、しばらくすると重篤な症状が出始め、日常生活に支障をきたすようになります。患者さんが呼吸困難感や激しい痛みを訴えることが多くなると、家族など介護者の負担も大きくなります。在宅で療養している場合は、主治医などと相談しながら、再び入院するかどうかなどについて意思決定することが必要になります。

 

病状が大きく変化する時期を越えると、今度はADLが低下していきます。特に、自力で排泄ができなくなると、そこから寝たきりになるまであまり時間はかかりません。寝たきりになった場合、おむつや尿道カテーテルを使用して排泄することになります。また痛みのコントロールのために麻薬性鎮痛薬を使用することが増え、副作用としてせん妄が現れるようになります。在宅療養の場合、家族の介護負担や不安が大きくなるため、訪問看護の回数を増やすのも一つの手段です。

寝ている時間が長くなる、食事や水分がほとんどとれなくなる、口が渇いて言葉が出にくくなる、といった症状が出てくると、いつ急変してもおかしくない状態といえます。患者さんに最後に会わせたい方のために、この時期にお見舞いの場を設けるよう、医療者から家族に促します。

 

心停止までしばらくは、比較的穏やかな状態が続きます。一日中眠ったような状態になり、下顎呼吸という、下あごを上下させる呼吸が出始めますが、本人に苦しさはなく、死に至る自然な過程です。医療者が、心停止の前に起こるこのような経過を家族に丁寧に説明することで、家族の不安や戸惑いが和らぎ、穏やかに最期を迎えることができます。

また、まもなくお別れという際には、家族への精神的ケアも欠かせません。亡くなるまでのおおよその時間を予測して家族に伝え、大切な人が看取りに立ち会うことができるよう、サポートすることも必要です。

患者さんが亡くなっても、残された家族の人生は続きます。家族の喪失の悲しみを汲みとり、この先の生活へ導くためのグリーフケアも重要です。

 

*註…このページの内容は、次ページ以降のインタビューで奥津先生・市橋先生に伺ったお話を、編集部がまとめたものです。がん終末期の患者さんの経過を一般化して記述していますが、一人ひとりの患者さんにはそれぞれの背景があり、全ての患者さんがこのように最期を迎えるわけではありません。