全体ディスカッション(1)

第5回医学生・日本医師会役員交流会 2017.8.24

全国から集まった医学生18名と、日本医師会役員5名で、医学教育における様々なトピックについてディスカッションを行いました。また、医系技官の佐々木昌弘課長(厚生労働省、前・文部科学省医学教育課企画官)をオブザーバーとしてお招きし、コメントを頂きました。

講義や臨床実習への要望

荘子:まず、皆さんが普段、講義や実習を受けているなかで感じることや、疑問に思うことなどを自由に発言してください。

中安:私は、医学生には自由な時間がとても少ないことが問題だと感じます。もちろん、医師になるための知識や技術を身につけることは必要ですが、どんな医師になりたいか考えるためには、多くの人と関わり、様々な価値観に触れることが大事だと思うんです。医学部の授業には、もう少し柔軟性があってもいいのではないでしょうか。

伊東:例えば、座学の講義を動画形式で配信して、学生が好きなときに見られるようにするといいと思います。そうしたら、停止したり巻き戻したりして、自分のペースで学ぶことができますよね。空いた時間は、疑問点やもっと深めたいと感じた点について、先生方に直接質問をしに行ける時間にすると良いと思います。

池尻:臨床実習について、「単なる見学に終始している」という不満がよく聞かれますが、皆さんはどう思っていますか?

大塚:私の通っている岡山大学の臨床実習は、比較的学生が参加できている方だと感じます。学生がカンファレンスで発表したり、担当患者さんの情報を電子カルテに記載したり、実際に手技を行ったりできるんです。ただ、指導医の先生方からのフィードバックが少ないため、意義ややりがいを感じられず、「雑用をしているだけ」と認識している医学生も多いようです。

中居:学生側も、先生方からのフィードバックを待つだけでなく、それまでに講義で学んだことや、他の分野で出会ったことなど、様々なことと結び付けて積極的に学び取れるようになれたらいいですよね。常にアンテナを張って、役に立つと思う知識や経験をどれだけ多く集められるかが、今後の成長につながるのではと思います。

今村(竜):私が臨床実習で一番成長できたと感じたのは、地域の関連病院での実習です。指導医の先生が、休憩時間などに一緒に症例の振り返りをしてくださるんです。何を考え、何に注意しているのか、診療中の先生の頭の中を解き明かすように丁寧に教えていただき、とても勉強になりました。このような学生の実感を、積極的に大学に伝えていきたいです。まずは臨床実習について皆がどう考えているのか、学年ごとにアンケートをとろうと考えています。

【写真左より】

今村 聡先生(日本医師会 副会長)

外山 尚吾(京都大学 医学部 3年 (運営委員))

池尻 達紀(京都大学 医学部 6年 (運営委員))

荘子 万能(大阪医科大学 医学部 6年 (運営委員))

横倉 義武先生(日本医師会 会長)

※学年は掲載時点

 

全体ディスカッション(2)

カリキュラム委員会の活動について

池尻:ここまで、いくつかの意見や要望が挙がりました。それらを実際に大学に伝えていくにはどうしたら良いでしょうか?

荘子:多くの大学では、カリキュラム委員会*に学生も委員として参加し、意見や要望を伝えていると聞きますが、その仕組みは実際どの程度機能しているのでしょうか?

大塚:今春、私が所属する学生委員会で、各大学のカリキュラム委員会について、全国の大学の医学部にアンケートを行いました。その結果、大学によって委員会の活動の幅がかなり違うことがわかりました。

立道:高知大学には「医学教育学生部会BRIDGE」という団体があり、私はその代表を務めています。BRIDGEでは、学生を対象に、授業や実習についてアンケートをとり、カリキュラム委員会でその集計結果をお伝えしています。具体的なデータをもとにお話しすることで、学生の声は確実に伝わっていると思います。

糸数:東京大学には「学生医学教育ワーキンググループ」があります。このグループでは、学生が自主的に授業アンケートを実施したり、教育への要望を議論したりして、結果を医学部の教務委員会にプレゼンしています。その要望は、大学公式の検討委員会で共有されています。

大場:北里大学では、今年の1月からカリキュラム委員会が始動し、各学年1名ずつ学生が参加しています。ただ僕には、学生の意見が十分に反映されているようには感じられません。委員会は月1回、90分程度行われていますが、そのなかで学生が発言できる回数は多くて2~3回です。先生方は「学生の意見を聴けて嬉しい」と言ってくださいますが、それがどこまで反映されるのかは不透明だと感じます。

今村(竜):各大学のカリキュラム委員会の活動状況について共有する場がないこと自体も問題だと思います。岡山大学では今度、各大学のカリキュラム委員会の代表者が集まってワークショップを行い、現在の活動内容について発表し、議論してもらう場を企画しています。議論を提言にまとめ、広く発信したいと考えています。

龍田:「教育への要望」といっても、教育の構造全体に関わることから、日々の授業における小さな要望まで、様々なレベルがありますよね。学生の立場では、教育の大きな仕組みに対して何か働きかけようとするより、日々の授業における細かい要望や気付きを届け、改善を重ねていくのが現実的ではないかと思います。例えば、「レジュメに余白が少なくて書き込みにくいので、余白を広くとってほしいです」とアンケートで伝え、それを先生が改善してくださるだけでも、学生の満足度は上がりますよね。

釜萢常任理事:良い視点ですね。医学部の教育には、文部科学省のモデル・コア・カリキュラムなどによって、到達目標が明確に設定されています。ですから学生だけで、医学教育の目標や大きな仕組みについて議論をしても、反映は難しいでしょう。ただ、その目標にたどり着くための手段については、学生の意見が重要だと思います。授業を受けていて、「このやり方ではちっとも身につかないぞ」と感じることがあれば、意見を出してほしいですし、それは大学も聴き入れるべきだと思います。

授業アンケートの活用

荘子:学生の要望を大学へ届ける手段として、授業アンケートの話が挙がりました。各大学でのアンケートの実施状況について、わかる方がいたら教えてください。

寺田:北海道大学では現在、授業アンケートの回収・集計と情報管理を教務課のみで行っています。そのため、アンケートの結果がどう反映されているのかわからないのが現状です。学生が自ら授業アンケートをとり、集計して、大学や先生に伝える仕組みに変えていく必要性を感じます。

大場:北里大学では、先生方も授業アンケートの結果を重視していらっしゃいます。しかし、これまで授業アンケートの回収率は10%未満でした。そこで、回収率を上げるため、各学年の学生委員が学年SNSを通じて「今日はアンケートがあるから回答しよう」と呼びかけたり、先生方がアンケートを重視してくださっていることを伝えるようにしました。これによって回収率は大幅に上昇しましたし、学生側の回答意欲も上がったように感じています。

古川:僕はこれまで、どこの大学でも、授業アンケートは形骸化しているものだとばかり思っていました。でも今の話を聴いて、学生側にも変えられる点はあるのかもしれないと反省しました。僕の大学でも、どのようなフィードバックなら先生方が反映しやすいのか、反映する価値があると思っていただけるのか、考えてみようと思います。

 

*カリキュラム委員会…『医学教育分野別評価基準日本版』では、医科大学・医学部は、「学長・医学部長などの教育の責任者の下で、教育成果を達成するための教育立案とその実施にづく評価や、国立大学法人法第35条等にもとづく国立大学法人評価など、「大学教育」や「大学」全体を総合的に評価する制度のみが実施されていた。

【写真左より】

釜萢 敏先生(日本医師会 常任理事)

大塚 勇輝(岡山大学 医学部 5年 )

立道 理乃(高知大学 医学部 6年)

中居 薫花(大阪医科大学 医学部 2年)

西村 直子(高知大学 医学部 3年)

古川 由己(名古屋市立大学 医学部 6年)

今村 定臣先生(日本医師会 常任理事)

※学年は掲載時点

 

全体ディスカッション(3)

学生を代表する意見は出せるのか

羽鳥常任理事:ここまでの議論を聴いていて皆さんにお尋ねしたいのですが、現在、全国の医学生が集まる団体はあるのでしょうか。

池尻:学生を代表できる組織は、現状は存在しないと言っていいのではないでしょうか。もしあったとしても、自分が受けている教育に無関心な学生も多いなか、特定の個人や団体が「医学生の代表」として発言するのは難しいように思います。

外山:カリキュラム委員会に参加したり、今日のような医学教育に関する集まりに出席した際、先生方に「こういう場に来る学生は、教育のことも自分のキャリアのこともよく考えているので問題はないだろう。それより、こういう場になかなか来ないような学生の意見こそ知りたいんだ」と言われることがあります。でも、そう言われてしまうと、我々もどんな立場で発言したらいいのかわからなくなってしまうんですよね。学生の意見を集める際には、代表として全ての意見を言う責任を負わずに済むような、「半・オフィシャル」とも言えるような場を設ける方が良いと思います。

荘子:今回のような場も、「半・オフィシャル」と言えるかと思います。先生方には、僕たち参加者を、「学生代表」ではなく、全国の医学生や研修医にアクセスする窓口として捉えていただけたら嬉しいですね。

主体的に考える人を増やすために

荘子:先ほど外山くんが発言したように、医学生の中には、医学教育になかなか関心が持てない人も多くいます。でも今後は、そうした人たちも含め、広く意見を拾い上げていかなければならないと思います。例えば、SNSなどを用いて、この場に来られない人でも参加できるような仕組みがあればと思うのですが、どうでしょうか?

小坂:僕は、要望や意見がある人だけ参加すればそれで良いのではないかと感じています。これだけインターネットが発達し、ほぼ全ての人が情報に自由にアクセスできるのだから、それでも何も言わない人は、意見を伝える権利を放棄しているんだと思います。そういうサイレントマジョリティには、無理に参加してもらう必要はないのではないでしょうか。

坂井:言いたい人だけが言えばいいというのは、たしかにその通りかもしれません。ただ一方で、「知らない」のはとても怖いことだと私は感じています。「意見を言わないと、こんな大変なことが起きるかもしれないよ」「だからこういうことについて考えなきゃいけないんだよ」というような、考えるきっかけだけでも、低学年のうちに提示される機会があっても良いと思います。

荘子:サイレントマジョリティが多いことには、医学部教育に必修科目が多いことも影響しているのかもしれません。自分で選んで教育を受けているというより、「やらされている」と感じる学生が、他学部に比べて多い。そういう学生に主体的に考えてもらうことは、簡単ではないですよね。

今村副会長:本来、医学教育の主役は学生であり、教員は皆さんが立派な医師になることを手伝う役割であるはずです。でもそれが逆転して、学生の受け身の気持ちが強くなっているということですね。

外山:そう思います。医学部には、与えられた問題に答えるのが得意な、いわゆる「受験エリート」が集まりやすいのではないでしょうか。医学部に入学後も、試験を受けてパスすれば進級できるという受け身の構造が続いていく。自分が受けている教育そのものを批判的に考える姿勢は、なかなか醸成されにくいのかな、と感じています。

西村:でも、それって変ですよね。日本の医学部のパンフレットには、「リーダーシップのある人・主体性のある人を求めています」と書いてあります。それなのに、サイレントマジョリティと呼ばれる人が医学部に存在していること自体が、不自然なように思います。高校までの教育のなかで、リーダーシップを養う機会がないのがそもそもの問題なのだと思いますが、医学部でも教養課程などを利用して、リーダーシップや主体性を持てるような教育をもっと行うべきだと思います。

今村副会長:「リーダーシップ」は非常に重要なキーワードですね。医師は臨床現場で、多職種連携のリーダーシップを担う役割がありますから。そうした医師のリーダーシップは、医学部教育のなかで培われるべきものだと、私たちも考えています。

【写真左より】

佐々木 昌弘先生(厚生労働省 健康局 がん・疾病対策課長)

今村 竜太(岡山大学 医学部 5年 )

糸数 昌史(東京大学 医学部 4年)

鈴木 優子(大阪医科大学 医学部 4年)

伊東 歌菜(名古屋大学 医学部 6年)

羽鳥 裕先生(日本医師会 常任理事)

※学年は掲載時点

 

全体ディスカッション(4)

千里の道も一歩から

今村副会長:ここまで、多様な意見をありがとうございました。ここで、皆さんに一つ覚えておいていただきたいことがあります。それは、新しいことを取り入れるためには、既存のカリキュラムを変更していかなければならないということです。そしてそのためには、国家試験や臨床実習、CBTのあり方など、既存の医学教育のあり方を全て見直す必要があります。もちろん、今回頂いた意見を参考に、国の委員会でも前向きに議論していくつもりです。しかし、すぐには実現できない難しさがあることもわかっていただけたらと思います。

大塚:今回、日本医師会の先生方も、医学教育に関して多くの議論を重ねられているのだと改めて感じました。私が医学教育に興味を持つようになったのも、大学の先生方が、お忙しいなか教育に多くの時間を割いてくださっていると知ったからです。先生方が真剣に考えてくださっているのだから、私たちも、自分たちの受ける教育について考える必要があると強く思いました。

鈴木:私の周りには、「意見を言ってもすぐには変わらないし、面倒くさい」と感じている学生もいます。たしかにすぐに変えられることは多くないかもしれませんが、自分より上の学年のカリキュラムについて意見を言えば、自分の学年の時に返ってくる可能性もあると思います。例えば、他大学のカリキュラムを一覧にして比較するなどの工夫をすれば、低学年でも意見を言いやすくなるかもしれませんね。

外山:医学教育に関わる活動をしていると言うと、「自分たちの世代ですぐ教育が変わるわけじゃないのに、どうしてそんなに頑張るの?」とよく言われます。でも、医学教育に関わることは、下の世代のためだけでなく、自分のためでもあるんです。それは、自分がどう勉強していくのか、どういう医師になりたいのかを考えることにつながるからです。多くの学生が、その重要性に気付いてくれたらいいなと思います。

荘子:今回のディスカッションを通じて、「千里の道も一歩から」と身に染みて感じました。私たち学生にできることは、目の前のわずかな一歩かもしれない。それでも、その一歩を実際に踏み出すことができるという気付きがあったかと思います。「医学生が医学教育に参画する」というテーマを大げさなことと考えず、皆がもっと身近に感じられるようになったら良いですね。

今村常任理事:学生の率直な意見も聞くことができ、実り多い会になりました。ご多忙にも関わらずご出席いただいた佐々木課長、学業の合間に準備をしてくれた学生運営委員に、心より御礼申し上げます。

【写真左より】

小坂 真琴(東京大学 医学部 2年)

中安 優奈(横浜市立大学 医学部 4年 )

寺田 悠里子(北海道大学 医学部 6年)

龍田 ももこ(東京大学 医学部 5年)

坂井 有里枝(滋賀医科大学 医学部 4年)

大場 俊輝(北里大学 医学部 3年)

※学年は掲載時点

 

Column 相手が納得し、満足する提案を

佐々木 昌弘先生
厚生労働省 健康局 がん・疾病対策課長
(前・文部科学省 医学教育課企画官)

学生が、自分たちが受けている教育の内容に意見を言う権利があるという前提で大学などに意見を言っても、基本的には通りません。「学問の自由は憲法で保障されているではないか」と思う人がいるかもしれませんが、憲法23条が保障する「学問の自由」は、教える側の自由に関するものであって、教わる側の権利は保障していないからです。

そうなると、学生の皆さんが、自分たちの意見を医学教育に反映させていくには、大学側に「これは聴かないとまずい」「聴いた方が自分たちの役に立ちそうだ」と思わせるような仕掛けや工夫が必要になります。

その際のポイントは三つあります。一つ目は、代表性です。例えば、選挙の結果が国民を代表する意見として認められるのは、国民の誰もが選挙に参画できるからです。同様に学生の意見も、全ての学生に開かれた状態で集めれば、代表性を持たせることができます。

二つ目は、内容の正当性です。過去のデータや他大学のデータをとって比較することで、訴えたいことの正当性を客観的に担保することができます。

三つ目は、既に発言権のある立場の方を通して、大学などに伝えることです。例えば今回集まった学生の声を、日本医師会の役員の先生に納得してもらい、医学教育に関する公的な委員会などで発信してもらうのです。

皆さんが、「医学教育をより良くしたい」と思い、様々な提案をすることは、とても素晴らしいことだと思います。ただ、提案する相手が納得し、満足する提案をできているか、ということを常に考えてほしいのです。代表性を担保したり、内容の正当性を担保したりすることは、相手に納得・満足してもらうための必要条件です。「どうしたら自分の考えが相手にうまく伝わるか」ということは、将来臨床で患者さんに接するときも、研究で論文を書くときも、後輩や後進を指導するときも、常に意識してほしいと思います。

 

 

No.23