医学生×テレビ番組制作スタッフ
同世代のリアリティー

テレビ番組制作の仕事 編(前編)

医学部にいると、同世代の他分野の人たちとの交流が持てないと言われています。そこでこのコーナーでは、別の世界で生きる同世代との「リアリティー」を、医学生たちが探ります。今回は「テレビ番組制作の仕事」をテーマに、ディレクター(社A)・音声(社B)と医学生3名で座談会を行いました。
同世代

今回のテーマは「テレビ番組制作の仕事」

皆さんが普段見ているテレビ番組は、どのようにして作られているのでしょうか?今回は、テレビ番組制作に関わる社会人2名に、医学生がお話を伺いました。

テレビ番組制作に関わる様々な仕事

牛久(以下、牛):お二人はテレビ番組制作に関わるお仕事をされているそうですね。

社A:はい。私は地方のテレビ局でディレクターをしています。今は情報系のバラエティ番組や、旅番組などを担当しています。

社B:私は音声を担当しています。出演者の声を始めとした様々な音声を、視聴者に聞き取りやすくなるよう調整するような仕事です。私自身はテレビ局の社員ではなく、音声や照明、カメラなどの制作技術業務を受託する会社に所属しています。

:「ディレクター」ってよく聞きますけど、プロデューサーやADとの違いは何ですか?

社A:プロデューサーは全体を監督・統括する役割です。番組やコーナーを作るときは、まずプロデューサーが大枠や方針を決めるんです。ディレクターはそれを受けて、実際の流れや演出などを考え、ADはそのお手伝いをします。例えば、プロデューサーが美味しいスイーツ特集をやると決めたら、お店を調べて候補を挙げるのはADの仕事です。ディレクターはその中からお店を選んで、何をどんな流れで録っていくかを考え、最終的にできあがったものをプロデューサーがチェックする、という分担です。ただ、ADは東京や大阪などの大きい局にしかいないことも多く、うちのような小さな局ではディレクターがAD業務も兼ねていますね。

大野(以下、大):Aさんは、ADを経ずにいきなりディレクターになったんですね。プレッシャーもありそうですが、若いうちから最前線で経験を積めるのは魅力的ですね。

:音声さんというと、柄の長い集音マイクを持っている人、というイメージですが、合ってますか?

社B:はい(笑)。ピンマイクやハンドマイクでも集音しますが、マイクを付けていない出演者の声などは、長いマイクで拾います。拾った音はその場で聞き、ミキサーという機械で聞き取りやすく調整していきます。

兼瀬(以下、兼):調整というのは、音量を一定にするとか、そういうことですか?

社B:そうですね。あとは、人ごとに声質・音質が違うので、テレビで聞いたときにどの音もなるべく均一に聞こえるよう、イコライザーという音響機械を駆使して音質を調整します。

:ディレクターさんと音声さんは、普段の仕事でどのくらい関わるんですか?

社A:ロケで音声さんに音を録ってもらい、それをディレクターが編集するという分担をしています。「絶対にこの音が欲しい!」という音があったら、あらかじめ伝えておいて、現地で録ってきてもらいます。

社B:例えば、飲食店で揚げ物の調理風景を撮影するとき、油のぱちぱち爆ぜる音を録っておいたり。映像の印象は音で大きく変わりますからね。

社A:そういう音があると、BGMをかけなくてもVTRの出来映えが良くなるのでとてもありがたいです。こちらが特に頼まなくても、音声さんが気を利かせてくれて、自然豊かな場所での撮影時に川のせせらぎや鳥の声などを録って渡してくれる、なんてこともあります。

:お二人が今のお仕事を目指したきっかけは何ですか?

社A:私は小さい頃からドラマが大好きだったんです。中学生の頃は全ての曜日のドラマをチェックしていたほど(笑)。そんなある日、とあるドラマのプロデューサー兼ディレクターの方が、学校に講演にいらしたことがあって。そのお話を聞いて、「テレビを見るだけでなく、作る側になるのもいいな」と思ったのがきっかけです。

社B:私は、見ていた音楽番組の照明の美しさに心惹かれ、初めは照明の仕事に興味を持っていました。光一つで雰囲気をガラッと変えられることに感動したんです。それで、制作技術を広く学べる専門学校に入って、カメラや照明など色々な体験をするうち、音声の仕事に就きたいと思うようになりました。

 

医学生×テレビ番組制作スタッフ
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テレビ番組制作の仕事 編(後編)

有名人にも会えるテレビ番組制作の裏側

:テレビ業界で働いていると、有名人に会えるのかな、というイメージがあるんですが(笑)、実際のところどうですか?

社B:もちろん関わることはあります。すごく憧れていた芸能人の方の服にマイクを付けたことがあって、その時はすごく緊張しました(笑)。でも、関わる頻度は音声よりディレクターの方が多いですよね。

社A:事前に出演者と打ち合わせをしますしね。ロケによっては移動中に車内で打ち合わせることもあるんですが、有名人と近い距離でお話しするのはやっぱり緊張します。

:ベテランとか大御所と言われるような芸能人との仕事でも、事前にしっかり打ち合わせやリハーサルはするんですか?

社A:そうですね。特に生中継などの場合は、必ず3~4回はリハーサルします。ぶっつけ本番ということはまずありません。

:生中継って、トラブルが起きたら大変ですよね。

社A:緊張感がありますね。本番は一発勝負なので、その分事前にたくさん練習しておきます。また、私自身はあまり担当しませんが、ニュース番組の現場もハードですね。ぎりぎりまで取材していることが多く、編集も時間との勝負で忙しいです。

社B:臨時ニュースなどでは、放送が始まっているのにまだテープが届いていないこともありますね。「放映まであと2分!」なんて言いながら、スタジオまで全力疾走でテープを届けに行く光景も見かけます。

:テレビの仕事は大変なことも多そうですが、やりがいを感じるときはどんなときですか?

社A:自分が担当した番組を見た人が「面白かったよ」と言ってくれたりすると、やっぱり励みになります。あとは新しいものにたくさん出会えることでしょうか。取材などで、未知の世界を知る機会が多いんです。

:それは羨ましいです。僕の大学もそうですが、そもそも大学に医療系の学部しかなかったり、総合大学でも医学部のキャンパスだけ独立していたりして、医学部以外の世界を知る機会があまりないんです。

社B:私も専門学校時代は「世界が狭いな」と感じていました。周囲に同業者が多くなりがちなので、たまには他の業界の人とも会ってみたくなりますよね。

:今日みたいな機会があって本当に良かったです。

テレビ業界と医療の現場の意外な共通点

:医学生だと、ポリクリをして、国試を受けて、卒後は病院で研修して…と進んでいきますが、お二人のキャリアはどんな流れを辿るんでしょうか。

社B:技術系の場合、就職したらとにかく現場に出て、毎回試行錯誤しながら学んでいきます。正直、専門学校で学んだことが現場でそのまま活かせるかというと、そうではないですね。実際の現場はトラブルも多くて、そこでどう対処するかは現場でしか学べないと痛感しました。

:医師も、学部の勉強がそのまま活かせるわけじゃないんです。実習や現場に出て初めて学ぶことも多いというのは、どの業界も一緒なのかもしれませんね。音声さんはずっと現場で働き続けることになるんですか?

社B:そうですね、仕事内容は基本的に変わりません。その代わり責任の重い仕事が増えますね。例えば高校野球の音声の総括などは難しい仕事なので、ベテランが担当することが多いです。私は3年目ですが、まだまだ先輩に怒られることも多いです。一人前になるのに大体10~20年はかかりますね。

:そんなにかかるんですか!医師の世界と似ていますね。

社A:ディレクターのキャリアは、局により異なる部分も多く、決まった道のりがあるわけではありません。大抵はディレクターを続けるか、プロデューサーになるかの二択でしょうか。

:将来的に、ディレクターとプロデューサー、どちらに行こうと考えていますか?

社A:私は制作にじっくり携わることが好きなので、今はこのままディレクターとして経験を積みたいと思っています。

:経験を積んだ「すごいディレクター」って、どういうことができる人だと思いますか?

社A:ディレクターは、技術系スタッフやアナウンサーなど、様々なプロに仕事をお願いして、やってもらう立場です。ですから、自分のやりたいことのイメージを、それぞれのプロにいかに上手く伝えるか、というところが腕の見せどころかなと思います。音声さんや、それこそ医師のような「手に職をつけたプロ」になれる仕事ではないので、わかりにくいですよね。

:でも、医師の仕事にも、ディレクターのお仕事に通じるところがあるように思います。患者さんの治療のために、医師が一人でできることは意外と少ないんですよね。看護師や薬剤師などの他職種と協働することで、大きな手術などをやり遂げられる。それと同様に、テレビ番組も様々なスペシャリストが集まって初めて完成するのではないかと思います。各人が力を発揮できるよう調整することが、ディレクターにも医師にも求められているのかもしれませんね。

:今日はテレビ業界の知らないことをたくさん聞けて興味深かったです。テレビの仕事と医師の仕事、一見関係ないようで思わぬ共通点があり、参考になりました。ありがとうございました。

※医学生の学年は取材当時のものです。

 

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