10年目のカルテ

一つひとつの手がかりから
ホルモン異常の原因を突き止めていく

【内分泌代謝内科】堀内 由布子医師
(国立病院機構小倉医療センター 糖尿病・内分泌代謝内科)-(前編)

疾患を同定していく面白さ

高橋先生

――先生が内分泌代謝内科に進まれたきっかけは何ですか?

堀内(以下、堀):臨床研修2年目の頃、ローテーション中に経験した症例が非常に印象的だったからです。

その患者さんは、高血圧の精査目的で当科に入院された方でした。副腎腫瘤を認め、褐色細胞腫*1の診断がついていました。また、ACTH*2とコルチゾール過剰も認め、クッシング症候群*3の合併が疑われていました。クッシング症候群は下垂体疾患に起因することが多く、私はまずそれを疑いました。しかし下垂体疾患は認められず、負荷試験の結果も、異所性のACTH産生*4を示していたんです。そこで、褐色細胞腫からACTHが産生されているのではないかと疑い、副腎を切除して治療することにしました。最終的には、血中のbig–ACTH*5の測定結果と、術後の病理検査結果が決め手となって、ACTH産生褐色細胞腫であると診断することができました。

ACTH産生褐色細胞腫という非常に稀な症例について、論文を調べたり、負荷試験やホルモン値の結果と照らし合わせて自力で診断に至れたことはとても嬉しかったですね。まるで探偵が一つひとつの手がかりをもとに犯人を追い詰めていくような奥深さに、すぐ「内分泌を専門にしよう」と決めました。

――疾患を同定するときは、カンファレンスなどで話し合いながら行うのですか?

:そうですね。私たちのチームは皆とても仲が良く、机も近くにまとまっているので、頻繁に意見交換をしています。わかりやすい正解がないことも多いので、一人で考えるよりも皆で話し合った方が、考えがまとまりやすくなりますね。

 

*1 褐色細胞腫…副腎髄質や傍神経節に生じる腫瘍。通常はカテコールアミンを過剰に産生するものであり、ACTHは産生しない。

*2 ACTH…副腎皮質刺激ホルモン(adrenocorticotropic hormone)。下垂体前葉ホルモンの一種であり、副腎皮質ホルモンの分泌を促進する。

*3 クッシング症候群…副腎皮質ホルモンの一つであるコルチゾールの過剰産生により生じる様々な病態の総称。ACTH産生下垂体腺腫に起因するものを特に「クッシング病」と呼ぶ。

*4 異所性のACTH産生…クッシング症候群のうち、下垂体以外からACTHが過剰に産生されているものを異所性ACTH症候群(EAS)という。

*5 big-ACTH…大分子ACTH(または高分子ACTH)。生物学的活性が低い。EASではbig-ACTHが産生されることがあり、クッシング病とEASを鑑別する際に有用。

 

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