グローバルに活躍する若手医師たち

日本医師会の若手医師支援

JMA-JDNとは

Junior Doctors Network(JDN)は、2011年4月の世界医師会(WMA)理事会で若手医師の国際的組織として承認されました。JDNは、世界中の若手医師が情報や経験を共有し、未来の医療を考えて行動するための画期的なプラットフォームです。日本医師会(JMA)は2012年10月に国際保健検討委員会の下にJMA-JDNを立ち上げました。これまで若手医師の集まりは学会や医局、地域、NGOなどの枠組みの中でつくられてきました。JMA-JDNは、多様な若手医師がそれらの枠組みを超えて、公衆衛生や医療分野において自由に自分たちのアイデアを議論し行動できる場を提供したいと考えています。関心のある方は検索サイトやFacebookで「JMA-JDN」と検索してみて下さい。

今回は、WMA-JDN・JMA-JDNの若手医師より、アジア大洋州医師会連合(CMAAO)総会、JMA-JDNフォーラム2017、世界医師会(WMA)総会の報告を寄せてもらいました。

 

“End of Life Care”から医師のあり方に立ち返る
~CMAAO東京総会~

WMA-JDN役員・JMA-JDN前代表  阿部 計大

2017年9月13~15日、東京でアジア大洋州医師会連合(CMAAO)総会が行なわれました。本稿ではそこで “End-of-Life Questions”をテーマに17か国が発表したシンポジウムに参加して学んだことを報告します。

私たち医師は、病棟での診療や救急診療・在宅医療のなかで、患者の死に直面します。死亡確認の作法には慣れても、人の最期はいつも劇的です。死亡宣告のたびに、患者にとって最善の手を打てたか、医師としての義務を果たせたかと自問自答を繰り返します。医師として患者の終末期にいかに関わり、いかに看取るのかという葛藤は万国共通のようでした。各国の死と臨終に対する姿勢や信念の多様性には驚かされます。例えば、患者は神の名を繰り返し唱えるかもしれませんし、カルマや再生を信じるかもしれません。家族に見守られて逝くことを何より大切に思うかもしれませんし、最期まで死については語りたがらないかもしれません。しかし、それが自分に了解できるものであってもなくても、医師である限り果たすべき役割は共通だと感じました。それは「可能な限り疾患を治し、苦しみを軽減し、患者の最善の利益を守ること」です。

国によっては医師の幇助による積極的安楽死が合法化されていますが、患者の意思が明確ではないまま安楽死に至るケースもある実情は深刻に受け止めるべきです。患者の意思は移り変わるものですし、せん妄や抑うつ状態等があると、正確に意思を汲み取ることは難しくなります。世界医師会は、国が安楽死を合法としても、医師は安楽死に関与しないように強く勧めています。会を通じて、医師としてのあり方の根本に立ち返ることができました。

阿部 計大
手稲渓仁会病院で研修後、東京大学大学院公衆衛生学博士課程に在学中。家庭医療専門医。認定内科医。認定産業医。

 

JMA-JDNフォーラム2017
~國井修先生ご講演~のご報告

JMA-JDN 副代表(外務)  鈴木 航太

2017年9月16日、東京都医師会館にてJMA-JDNフォーラム2017が開催されました。日本医師会・東京都医師会のご支援を受けて実現したもので、若手医師・医学生など全体で70名程度の参加者にお越しいただきました。

本フォーラムは、前半・後半の2部に分かれており、前半では、ドイツ・韓国・ミャンマー・日本の若手医師から、これまでの自身のキャリアについての講演が行われました。

後半では、130枚にものぼる写真を豊富に用いたスライドを元に、國井修先生による講演が行われました。先生は、世界エイズ・結核・マラリア対策基金(グローバルファンド)の戦略・投資・効果局長を務めていらっしゃる、国際的にも大変ご高名な方です。 講演では、学生時代から今日に至るまでの活動、考え方について情熱的にお話しいただきました。学生時代に読んだ本や、インド・ソマリアをはじめとした世界各国の実情を見てまわったことを契機に、国際問題に強く関心を持つようになられたそうです。 その経験から出てきた「若いうちは頭で考えすぎるな。見て、聴いて、触れて、体で感じとろう。感性で掴み取ろう」というフレーズは、グローバルキャリアを考えている若手の参加者を勇気づけるものだったと思います。

これまで経験されてきた数多くの苦労についても語られましたが、学生の頃から一貫して粘り強く自分の夢に向かって突き進む姿は印象的でした。 懇親会では先生を囲んでざっくばらんな意見交換もでき、時間いっぱいまで議論の尽きない充実した時間となりました。今回のフォーラムが、参加者の皆さまにとって、今後のキャリアを考える一助となることを願っております。

鈴木 航太
川崎市立川崎病院で臨床研修修了後、慶應義塾大学病院精神・神経科学講座へ入局。 2016年4月より同大学大学院博士課程所属。精神保健指定医、精神科専門医。

※先生方の所属は2018年1月現在のものです。

 

グローバルに活躍する若手医師たち

世界の若手医師がAMRを考える
―世界医師会JDNミーティングから―

JMA-JDN役員(国際担当) 佐藤 峰嘉

2017年10月11~14日にかけて米国シカゴで世界医師会(WMA)総会が開催されました。卒後10年以内の若手医師で構成されるJDNは、それに先立ちJDN Meetingと称して10月9日・10日に小規模なミーティングを行いました。

今回の主要なテーマは、近年懸念や関心が高まっている抗菌薬への薬剤耐性(AMR)で、専門家を招聘した講演やグループワーク等を行いました。AMRに関する啓発活動を行うと同時に、様々なステークホルダーの協働を促進させる国際ネットワークであるReActやWHOからは、AMRについて基本的な背景知識やこれまでの取り組み についてお話しいただきました。畜産分野等食料生産供給の現場での抗菌薬使用についても、第一線で啓発活動を行うNGO等からご講演をいただき、ヒトの臨床現場以外での抗菌薬使用がいかに多いか、我々臨床家が抗菌薬を適正に使用するだけでなく、農業・獣医学・環境分野等、分野を越えてこの問題に取り組む必要があることが再認識できました。

また、地元のシカゴ小児病院における抗菌薬スチュワードシップ(治療効果を最大にし、薬剤毒性や芽胞産生性偏性嫌気性細菌を例とする病原菌の選択や、耐性の出現等の意図しない作用を最小にすることを目的とした組織的な取り組み)や、抗菌薬が不適切に使用された食材を病院食として購入しない等の医療現場での取り組みもご紹介いただきました。感染症診療は私も日々勉強中です。適正使用が重要だということは言うまでもありませんが、個々の症例を超えたマクロな視点でも、我々の環境や未来にも持続可能な抗菌薬使用を考え、行動していくことが必要と考えます。

佐藤 峰嘉
2012年北海道大学卒、砂川市立病院で臨床研修修了、呼吸器・総合内科を研修し、現在、王子総合病院に勤務。

 

世界の卒前医学教育
~世界医師会シカゴ総会~

JMA-JDN副代表(内務) 岡本 真希

2017年10月米国シカゴで世界医師会(WMA)総会が開催されました。WMAというと遠い存在のように感じるかもしれませんが、今回より日本医師会の横倉会長が世界医師会長に就任され、世界における日本のリーダーシップが益々期待されています。また医学生なら誰しもが習うヘルシンキ宣言やジュネーブ宣言などを定めているのもWMAです。今回の総会では医の倫理について定めたジュネーブ宣言の改訂も行われました。

学術集会では「卒前医学教育における質の保証」をテーマに、「医学教育の質の担保と認定機関」「医学教育の新モデル」「世界の医学教育の実態、地域ごとの比較」についてディスカッションがありました。インドやサハラ以南の地域では人口比の医学部数が不足、アジアや南米では無秩序な医学部増設により臨床実習の機会や教員が不足するなど、世界では「医学部の数や質の担保」に関する問題が生じています。アフリカでは研修施設・器具、教員など物的・人的リソースが絶対的に不足し、欧州では、国外で医学を学ぶ人が増え、実習や仕事の際の言語の壁などの問題が指摘されています。世界から見ると、日本の医学教育は一定の質が担保されており、いかに恵まれた環境にあるかを実感します。

しかし、医学は日々変遷しています。今学ぶ常識が20年後も通用するかは誰にもわかりません。だからこそ医学教育に求められるものも変化しており、医学知識・技術の習得だけでなく、コミュニケーションスキルやプロフェッショナリズムなど多方面の能力が重要視され始めています。こうした社会の変化や医学の進歩に柔軟に対応出来る能力を身につけることが重要だと感じました。

岡本 真希
洛和会音羽病院で臨床研修修了。循環器内科医。現在、ドイツ・ブランデンブルグ心臓病センター留学中。

※先生方の所属は2018年1月現在のものです。

 

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