医学生×薬剤師
同世代のリアリティー

薬剤師 編(前編)

医学部にいると、同世代の他分野の人たちとの交流が持てないと言われています。そこでこのコーナーでは、別の世界で生きる同世代との「リアリティー」を、医学生たちが探ります。今回は「薬剤師」をテーマに、病院薬剤師(薬A・薬B・薬C)と医学生3名で座談会を行いました。
同世代

今回のテーマは「薬剤師」

病院や薬局などで薬をもらうときに、皆さんもお世話になっている薬剤師。今回は、病院で勤務する薬剤師3名に、医学生がお話を伺いました。

薬剤師を目指したきっかけ

吉川(以下、吉):皆さんは、どうして薬学部に進学されたんですか?

薬A:私は子どもの頃から、救急医療の現場に密着したテレビ番組などがすごく好きで、医療系の仕事に就きたいなとはずっと思っていました。小学生の頃は、医療系のお仕事って「お医者さん」と「看護師さん」しか知らなくて、自分は看護師かなってなんとなく思っていたのですが、なぜか両親や周囲から、多分向いてないよって言われて(笑)。ちょうどその頃、小中学生向けの様々な職業を紹介する本がベストセラーになっていたのですが、それを読んで、医療系の職種って色々あるんだということを知りました。中学・高校で理科や化学の実験が面白いなと思うようになってきて、実験ができる医療系の仕事となると薬剤師かなと思って、目指すようになりました。

薬B:私は漠然と、人と関わる、人の役に立てるような仕事がしたいなと思っていました。一時は看護師になることを考えていたのですが、化学などの理系の科目が好きだったので、その辺りの専門性や知識をより活かせる仕事がいいなと思って、薬学部を選びました。

大場(以下、大):薬学部に行く人って、化学が好きだから薬学部を選択するというイメージがありました。でもそれだけではなくて、人と関わる仕事をしたいという思いを持って進学している人も多いんですね。

薬C:もちろん、純粋に化学が好きだからという理由で薬学部に入る人もいます。でも、私たちのように病院を勤務先に選んだ薬剤師には、人と関わる仕事に就きたいという気持ちが根底にあって薬学部に入った人が多いかもしれませんね。

薬学部を出た後の進路はいろいろ

小坂(以下、小):薬学部を出て製薬企業の研究・開発職等に就く方もいますよね。薬学部卒業後の進路って、選択肢の幅が広いイメージがあるのですが、具体的にはどういうものがあるのでしょうか?

薬A:まず挙げられるのは、病院・薬局・保健所などに薬剤師として就職すること。でもおっしゃる通り、薬剤師として就職する以外にも様々な選択肢があります。製薬企業の中の研究・開発部門のほか、品質管理の仕事に就いたり、MR(営業職)に就く人もいます。

薬B:その他にも、治験コーディネーターとして治験のサポートに携わったり、PMDA(医薬品医療機器総合機構)のような行政機関で医薬品の承認審査や安全対策、健康被害救済に関わるような仕事もあります。

 

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同世代のリアリティー

薬剤師 編(後編)

病院薬剤師のお仕事内容

:皆さんは現在、病院薬剤師として勤務されているんですよね。普段はどんな仕事をしているんですか?

薬A:私はまだ1年目なので、医師の出した処方箋をもとに、薬を集めて入れるなどの調剤業務を主に行っています。最近は病棟に出て、処方された薬について患者さんに説明する機会も少し増えてきました。

 病院薬剤師も医師のように当直があるのですが、当直では緊急性の高い状況に対処しなければならない場合も多いので、まだ私一人では入れません。現在は、当直に一人で入れるようになることを目標に、様々な研修を受けています。2年目からは無菌調剤の研修が始まる予定です。無菌室で抗がん剤などを実際に合成していきます。

:病院では、他の職種との関わりも多いのでしょうか。

薬B:そうですね。例えば医師とも、処方箋のやりとりだけではなく、がんの患者さんの適正な麻薬の量について話したり、日々の臨床業務のなかで看護師・ソーシャルワーカー・管理栄養士等の様々な職種と情報提供しあったりしています。例えば管理栄養士からは、輸液では補えない栄養を補給する食品の知識などを教えていただいています。

薬C:私の勤務する病院では、糖尿病のチーム医療や、栄養サポートチーム(NST)に薬剤師が参加しているほか、緩和ケアにも薬剤師が関わっています。安心して治療を続けられるように、患者さんに抗がん剤やその他の薬についての説明をしたり、多職種でのミーティングに参加して薬についての助言をしたりもします。

:僕は家族が入院していたときに、患者の家族という立場から医療現場を見た経験があります。そのときに、実際に接する時間が一番長かったのは看護師さんと薬剤師さんでした。看護師さんは入院生活全体をサポートしながら、医師と話をするときに間に入ってくれたり、薬剤師さんは薬の副作用について説明してくれて、質問にも丁寧に答えてくれました。それがすごくありがたくて、看護師さんや薬剤師さんは重要な役割を担われているんだなと感じました。

薬C:医師は忙しいので、薬の副作用の説明やサポートまでを丁寧に行うのは難しい場合もあると思います。なので、患者さんと接する機会の多い看護師さんから情報を仕入れて、この業務は薬剤師がカバーできますよ、と医師に提案するようなこともあります。

頼れる薬の専門家として

:薬剤師は、医師が出した処方箋について疑問があったときに問い合わせをすると聞いたことがあります。

薬B:疑義照会という、薬剤師の重要な業務ですね。薬剤師は、医師による処方箋の中に疑わしい点がある場合は、発行した医師に問い合わせて確かめるまで調剤をしてはならないんです。具体的には、処方箋に書かれている薬剤名は正しいか、副作用やアレルギーの疑いはないか、用量・用法は適正か、同一・類似成分を含む薬の重複はないか、飲み合わせは問題ないか、などをチェックしています。

薬C:例えば、X科の先生が処方箋を出した患者さんは、実はY科とZ科にもかかっていたりすることがありますよね。そういうときに、他の科で出されている薬との飲み合わせや、その薬を出しても大丈夫か、といった相談に乗るのもすごく大事な仕事ですね。

私は、「薬剤師はジェネラリストであれ」と先輩に言われたことがあります。医師は、自分が専門とする科についてはとてもよく知っていますが、専門外の診療科の疾患についても同じレベルで勉強することは難しいと思うんです。そうすると、使う薬についてもあまりわからないということがあり得るのではないかと思います。そんなときに、分野横断的に薬の知識を持っている薬剤師がいれば、相談できますよね。私はそういうときに頼りにしてもらえるように、ある一つの分野だけに特化するのではなく、幅広く薬についての知識を持っている薬剤師でありたいなと思っています。

薬A:薬の選択だけでなく、投与量に関する相談を受けることもありますね。特に、「この薬を小児に投与する場合はどのくらいの量がいいのか?」などと聞かれることが多いです。

:確かに、医師が自分の専門以外の科の薬のことまで詳しく把握するのは、あまり現実的ではない感じがします。そういうときに相談できる薬剤師さんがいたら、心強いですね。

:僕たち医学生も薬理学の授業を受けますが、薬の情報はどんどんアップデートされていきますよね。それら全てにキャッチアップしていくのは難しいと思います。だから薬剤師さんの役割はとても大きいと思います。

:皆さんにとって、「いい薬剤師」ってどんな薬剤師だと思いますか?

薬B:相手と信頼関係を築けるだけのコミュニケーション能力を備えた人だと思います。患者さんやそのご家族への服薬指導をする際はもちろん、疑義照会を行ったり、医師からの質問を受けるためには信頼関係が必要だと思うので、対医療者との関わりにおいても必要不可欠な力だと思います。

薬A:私も信頼関係は大事だと思います。信頼してもらうためには、知識量も必要です。知識量は信頼度とある程度比例すると思うので。ベテランの先輩方は知識や経験が豊富で、頼りがいがあるなと思いますね。

:そのためには、勤務時間外に自分で勉強する時間もとって補っているのでしょうか?

薬B:そうですね、勉強会に出席したり、自分で参考書や論文を読んで勉強しています。

:やはり、医療者は生涯勉強が必要ですよね。

:今回薬剤師さんとお話ししてみて、イメージが大きく変わりました。薬を調剤するだけでなく、多様な業務もこなしているのが興味深かったです。

:僕は、薬剤師さんとも積極的に情報共有できるような医師になろうと思いました。

:はじめはなじみが薄いと感じていたのですが、知識とコミュニケーション能力が大事だという点について、医師に近いものを感じました。

薬B:薬剤師の間でも、「他の職種には知られていないけど実は薬剤師が担える仕事があるのにね」、という話はよく出ます。薬剤師にできることを、医師をはじめとした多職種の皆さんにも知ってもらって、連携を深めていけたらいいですね。

:今日は、ありがとうございました!

 

※医学生の学年は取材当時のものです。

 

No.25