【麻酔科】長谷川 源先生
（北見赤十字病院　麻酔科）-（前編）

――麻酔科に興味を持ったきっかけを教えてください。

長谷川（以下、長）：最初に興味を持ったのは学生実習の時です。手術中の麻酔科医の役割には呼吸管理・循環管理・鎮痛などがありますが、人工呼吸器の設定を変えたり、血圧を保つために薬を投与したりすると、その結果がすぐバイタルサインに表れます。そうした結果の積み重ねが、患者さんの適切な全身管理につながるという点に、修練のしがいがあると感じました。ただ同時に、複雑で難しそうな印象も受けました。

麻酔科に進もうと決めたのは、臨床研修医の時です。救急から手術、ICUまでの一連の流れに関わることができ、心惹かれました。僕は「全身管理を学べて重症患者を診ることのできる科に行きたい」と考えており、循環器内科などとも迷ったのですが、先生方に「麻酔科なら呼吸と循環の管理に強くなれるよ」と背中を押していただいたこともあり、麻酔科を選びました。

麻酔科は多様な分野に関わることができるのも魅力的でした。手術麻酔一つとっても、心臓血管外科手術や帝王切開などに用いられる様々な専門性のある麻酔もあれば、高齢化に伴って区域麻酔の重要性も高まっています。また、手術麻酔だけでなくペイン外来など、自分の興味に合わせて色々な関連分野で働くことができます。

――専門研修ではどのような経験を積むのですか？

長：札幌医科大学麻酔科の講座では、卒後３年目は大学病院で学び、４年目は関連基幹病院を回るシステムになっています。大学病院では指導医のもと、手術麻酔をひと通り経験しました。４年目以降は、赴任先でのニーズに応じて、救急や集中治療、ペイン外来などを経験します。各施設の指導医が持つ絶妙なテクニックを学べるので、とても良い経験になります。今僕が働いている北見赤十字病院は三次救急医療機関で、救急からICUまでの一連の流れに関われますし、NICUもあるため、産科・小児科の手術麻酔の経験も積むことができます。

【麻酔科】長谷川 源先生
（北見赤十字病院　麻酔科）-（後編）

――４年目になって、麻酔科医としてひと通りのことができるようになったと感じますか？

長：そうですね。ルート確保や挿管などの基本的な手技は、難しい症例でも「このくらいまでなら自分でできるな」という判断ができるようになりました。

成長を実感したのは、救急外来にオンコールで呼ばれ、多発外傷でショック状態の方の麻酔主治医に入った時のことです。その方は多発肋骨骨折・骨盤骨折・気胸・腹腔内出血などを起こしていて、血圧がほとんどありませんでした。そこでまずは挿管して全身状態を安定させながら検査をし、自分で診断をつけ、外科の先生を呼んで手術をお願いしました。色々な関連分野の先生方の助けを借りつつ、手術中のマネジメントから術後管理、ICU退室までを全て主体的に担当させていただいて、非常に大きな経験になりました。抜管した際、患者さんが握手をしながらお礼を言ってくれた時は、とても感動しました。

一方で、これから身につけていくべき課題も具体的に見えてきました。例えば、肺や心臓に基礎疾患がある方など、麻酔のやり方次第で予後が左右されるような症例に関しては、上級医と相談しながら行っています。

安全に麻酔を行うだけではなく、麻酔から覚醒した後の全身状態をできるだけ良くすることも、麻酔科医の使命です。術後の鎮痛についてもきちんと予測しつつ、肺炎などの合併症が起こらないように全身を管理することが、早期退院・早期ICU退室につながります。そのために、上級医の先生方の技術を盗みながら、技術を高めていかなければならないと思っています。

――最後に、今後の目標を教えてください。

長：今の病院にいる間は、引き続き救急からICUまでの全身管理の経験を積みたいです。病院前救急のインストラクターの資格取得も目指しています。今後は心臓麻酔や小児麻酔、また研究にも注力したいです。今年は早速、アメリカの学会で演題発表することができました。

麻酔科医は手術室やICU、救急の現場など、求められた場所で仕事をすることが多くなります。見知らぬ設備や環境の中であっても、いかに呼吸と循環を安定させられるかが、麻酔科医の腕の見せ所だと思うので、どんなときにも柔軟に対応できるよう、引き出しをより多く持っておきたいです。