医師への軌跡

医師の大先輩である大学教員の先生に、医学生がインタビューします。

自分の感性を大切に、
患者さんと向き合ってほしい
木村 祐輔
岩手医科大学医学部 緩和医療学科 特任教授

「共感」は簡単ではない

佐藤(以下、佐):僕が今回、緩和医療学科の木村先生にお話を伺いたいと思ったのは、臨床実習で出会った末期がんの患者さんが印象に残ったからです。寡黙な方でしたが、2週間毎日顔を出していたら、実習最終日にご自身のことをポツポツと話してくださったんです。こんな家族がいて、こんな犬を飼っていて…と、時に涙を流しながら、1時間以上も。僕はただ聴くことしかできませんでした。

木村(以下、木):きっとその方は、毎日一生懸命来てくれた君を見て、「この人に自分のことを話しておきたい」と思ったんでしょうね。励ましてもらいたいわけでもなく、ただ安心して話をしたかった。その相手に君が選ばれたんです。言葉や感情を出してもらえることは、支えることができたという一つの証です。それ自体が、君がその人に接してきたことに対する答えだと思いますよ。

:そう言っていただけて良かったです。どんな言葉をかけていいかわからず、ずっとモヤモヤしていたので。試験では「おつらいですね」と言って共感するのが正解とされますが、それも何だか違うな、と思って。

:私自身、患者さんの思いを理解したいとは思いますが、共感なんて、恐れ多くて簡単には言えません。全ての人を元気づける魔法の言葉なんて存在しませんから、「聴かせていただきありがとうございました」と言えれば十分だと思いますよ。

若いがん患者への支援

:これまでに印象に残っている患者さんはいますか?

:もちろん、数え切れないほどいます。あえて言うなら、若い方ですね。

骨肉腫で緩和ケア外来を受診したある大学生は特に印象的でした。彼は今まで育ててもらった保護者の方へのお礼に、大学の卒業証書を渡したいという強い意志がありました。肺転移がかなり進行していましたが、「できるだけ呼吸を楽にして、静かな環境で論文に集中したい」と希望したため、緩和ケア病棟へ移動。論文をまとめ上げるまではいかなかったのですが、彼が通う大学の学長は事情を知り、これまでの研究内容で学位を授与すると決めました。そして病院で学位記授式をしたその日に亡くなりました。

思春期・若年成人(AYA)世代のがんは、その人の将来に大きく影響を与えますが、行政的な支援は非常に手薄です。例えば院内学級は、義務教育の中学生までで打ち切られてしまう。でも、患者さんの声を受けて行政が動き、長期入院している高校生も継続的に教育が受けられるようになった自治体もありますから、私たち医療者も、世間に積極的にメッセージを発信していく必要があると思います。

自分の感性を大切にして

:これからはどの診療科に進んでも、何らかの形でがんの患者さんに関わると思います。意識すべきことはありますか。

:私たちは緩和ケアの専門家として、患者さんや家族、また自分自身にも悔いが残らないよう、縦横に手を尽くしています。しかし、日本にはまだ緩和ケアの専門家は少ないですから、治療にあたる医師にも、緩和ケアの視点を持っていてほしいですね。

緩和ケアは学問体系としてまだ確立されておらず、質の評価には難しさもあります。ただ、試験に出るような「共感的態度」をなぞるだけでは、良いケアはできないでしょう。君が実習の時、患者さんとの接し方に思い悩んだような感性を、これからも大切にしてください。

そして、緩和ケアに関心がある学生には、ぜひ各診療科での治療を経験し、技術を身につけてから門を叩いてほしいです。治療に向き合う患者さんに実際に接し、患者さんや家族の思いを知ってこそ、提供できる緩和ケアがあると私は思っています。

木村 祐輔
岩手医科大学医学部 緩和医療学科 特任教授
1994年、岩手医科大学卒業。同大学第一外科学講座に入局。2007年、同大学緩和ケアチームリーダー。2014年、緩和医療学科が新設され、特任教授に就任。消化器外科専門医、日本緩和医療学会暫定指導医・理事。

佐藤 慎
岩手医科大学 6年
「患者さんのつらさに共感とか寄り添うだなんて、軽々しく言えない」「言葉にならない思いをしたら、『聴かせていただきありがとう』と言うだけでいい」という、謙虚で真摯な、そして優しい木村先生の言葉は、非常に心に染み入りました。

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