医学生×人事
同世代のリアリティー
人事の仕事 編(前編)
今回のテーマは「人事の仕事」
「会社員」や「公務員」と一口に言っても、その仕事内容は多岐にわたります。皆さんは、「人事」がどんな仕事か知っていますか?今回は、人事担当として働く社会人に医学生がお話を伺いました。
「人事」の人たちはどんな仕事をしているの?
岡田(以下、岡):皆さんは、企業や自治体で人事の仕事をされているそうですね。医学生にとって、組織の人事という存在は馴染みが薄いと思うので、まずは皆さんの仕事内容を具体的に教えていただけますか?
佐藤(以下、佐):人事と一口に言っても、業務内容は組織によってだいぶ異なると思います。私は大手化学メーカーに勤務しており、現在は本社人事部に所属しています。本社人事部は、私が所属する労務グループ、採用・研修担当グループ、海外関係の仕事を扱うグループ、そして管理職の人事を扱うグループの四つに分かれています。労務グループは、タイムレコーダーから社員の勤怠管理や給与計算をしたり、残業や休暇申請手続きの管理をしています。また、社員の評価やボーナスの査定管理も担当していますね。
室川(以下、室):私は建設系中小企業の人事で働いています。主に採用担当ですが、佐藤さんの会社のように、人事部内が細かく分かれているわけではなく、研修や社員の勤怠管理などの業務もしています。
渡辺(以下、渡):私は地方自治体職員で、一昨年までの2年間、人事課に所属していました。人事課では担当が四つに分かれていました。人事異動を行う人事管理担当、勤務管理を行う管理担当、職員研修を行う人材開発担当、そして給与担当です。私は人事異動担当で、その年の異動対象者と面談をして、その人の特質や適性、今までのキャリアを把握したうえで、次の異動先を決める仕事をしていました。公務員は3~4年単位で部署を異動するため、異動対象者の人数は毎年とても多く、仕事はかなり忙しかったです。
中島(以下、中):人事というと、漠然と「採用関係」という印象がありました。でもその他に、社員教育や人件費の管理など、社内全体に関わるたくさんの業務を行っているんですね。
採用はやっぱり会社との相性
岡:採用のときって、どんなところを見ているんですか?
室:企業によって全く異なると思いますが、弊社の場合だと、「その人のやりたいことと弊社でできる仕事がずれてはいないか」という部分を重視しています。例えば、とても優秀で、「御社でどうしても働きたいです」と言ってくれる人でも、こちらがその人の活躍の場を十分に用意できないなと思ったら、お断りすることもあるんです。なぜなら、リーマンショック後の不景気の時期に、本当は行きたい会社があったけれど、夢破れて弊社に入社した、という人が何人かいて。でもそういう人は、本当にやりたいことと実際の仕事とのギャップに悩み、辞めてしまうことも多いです。ですから今は、弊社の長所も短所も包み隠さず開示して、納得してくれる人を採用することにしています。そのような方針にしてから、幸いまだ退職者は出ていません。
西村(以下、西):「こんな人柄がいい」といった基準はあるんですか?
室:弊社では、「こういう人がいいね」とか「こういう人は難しそうだ」というのを採用担当で共有しています。他社では、「コミュニケーションがとれて積極的な人」なんて基準をよく見ますね。
中:それは医師の仕事も同じですね。他の医師や患者さん、多職種とコミュニケーションをとれることはとても大事なので。
室:たしかに、コミュニケーション能力は、どこに行っても必要なものではありますね。弊社でも、すごく弁が立つとまではいかなくても、きちんと会話が成り立つか、というところは最低限見ています。でもどんな能力があっても、最終的にはその会社との相性なのだと思います。多くのスキルを持っているに越したことはないですが、そうでなくても活躍している人はたくさんいます。だから私たちは面接の際、学生さんの長所を主に見るようにしています。そして、「この人にはいつかどこかで必ず、うちで活躍する機会があるはずだ」と可能性を信じて採用しています。
中:とても素敵ですね! 私も入社したくなってきた…(笑)。
医学生×人事
同世代のリアリティー
人事の仕事 編(後編)
人事ならではの仕事の苦労
中:人事のお仕事で、大変だなと思うことはありますか?
渡:人事の仕事って、時には嫌われ役のようなところもあるんです。ルールを守ってもらうために、普段は目上にあたる人にも強く出なければならなかったりして。自分より年齢や職位がずっと上の人でも、人事に関わる部分に限っては、私の方が立場が上のようになるんです。
佐:よくわかります。自分の親より年上の人にも「それは会社として駄目です」とはっきり言わなければならないんです。「何でだ!」と語気を強められた時は、少し怖かったです。
室:他には、人事異動の詳細など、社員みんなが気になるような情報を知っているので、うっかり口をすべらせないように気を遣いますね。
佐:社員の給与の額も、間違いがないか確認しますから。守秘義務とまでは言いませんが、大変ですよね。
室:はい。でも、偉い人の給与額を確認しているときなどは、数字を見て思わず「将来私もこのくらいもらえるようになったりして?」なんて考えてしまうこともありますね(笑)。
岡:私たちも、実習などで知った患者さんの情報には守秘義務があるんです。勉強のために症例を共有するときも、最初はどこまで共有していいのかわからなくてちょっと大変でした。
渡:でも、楽しいこともたくさんありますよ。社内外の色々な人と会って話ができますし。
西:人と接することが好きな人にはぴったりの仕事ですよね。人と話すのが苦痛に思うようなことはありませんか?
佐:社員に悪い話を持っていかなければならないときや、調整が一筋縄ではいかなそうなときなどは、少し憂鬱に思います。でも、最初は大変でも、働いているうちに慣れてきました。
岡:慣れって大きいですよね。私も、初めて病院に実習に行って、患者さんと話した時はすごく緊張しました。問診だけじゃなくて、ちょっと雑談も挟んだ方が緊張がほぐれるかな、とか、色々と気をもんだりして。でも慣れてからは、あまり気負わずに話せるようになりました。
一人ひとり、大切な組織の一員
西:最近は働き方改革が話題になり、社員の健康管理に注力する企業も増えたと聞きます。
佐:はい。特に最近は厚生労働省の通達で、年に一度、社員全員にストレスチェックを実施することが義務づけられています。調子が悪そうだとか、長時間労働が続いている社員には、産業医と面談するよう勧めます。また、カウンセラーの方に月に1回来てもらっています。何か悩みがあれば、人事を通さなくてよいので相談に行ってください、と呼びかけています。
西:体調を崩してしまった社員に対して、病院に通いながら短時間勤務をするといった制度もあるのでしょうか。
室:もちろんあります。一人ひとり、大切な社員であることに変わりはないですから、何かあってもできるだけスムーズに復帰できるよう支援したいというのが会社の思いです。
渡:社員が体を壊さないよう予防する試みも盛んです。健診時にオプション項目を受診してもらうための助成金を出したり、保険会社と協力して、社員に無料で肝炎ウイルス検査を実施したり。また、がんになった社員には医療費を一部負担するという企業もあるようです。
佐:弊社では、工場で体力勝負で働いている社員が多いため、50代以上の社員に体力測定をしたり、運動や食事の指導をしたりしています。色々な会社が、独自の形で社員の健康にアプローチしているようですね。
岡:実習では、70~80代で生活習慣病を患い、検査の数値がかなり深刻な患者さんをよく見かけます。そういう人の多くは、高度成長の時代に、自分の体を顧みる余裕もなくひたすら働かざるを得なかった方たちなのかな、と思っています。でも今は、従業員の待遇も昔とはかなり変化しているんですね。
中:医師の世界でも、長時間労働は問題視され、議論が進められてはいますが、すべての病院で対策が徹底されているわけではありません。場合によっては36時間くらい、睡眠もとらず完璧なパフォーマンスを求められることも珍しくないんです。医師は学生の頃から、そんな働き方を間近に見て慣れてしまっているから、働き方改革も実行されにくいのかもしれません。
西:女性の場合はそれに加え、「家事・育児も仕事も両立させてバリバリ働きました」といった先輩の話をロールモデルとして聞くことが多いんです。でも、「こんなに完璧ばかり求められるなんて、おかしいんじゃないか」と、ふと疑問に思うこともあります。
佐:何でもこなせる人なんて、ごく限られた人だけですよね。人それぞれ得手不得手があって、価値観も違う。組織にはせっかく色々な人が集まっているのだから、それぞれが得意分野を頑張り、苦手分野は他の得意な人にカバーしてもらうことで、みんなが働きやすい組織にしていきたいですね。
この内容は、今回参加した社会人のお話に基づくものです。
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