医学教育の展望:
次の100年を見据えた東京医科大学の教育改革(前編)

医学教育はいま、大きな変化の渦の中にあります。臨床研修必修化はもちろん、医学研究の成果や新しい技術の開発に伴い学習内容は増加し、新しい取り組みがどんどん進んでいます。そんな医学教育の展望を開く最前線の試みをシリーズで紹介します。

2010年、米国医師国家試験受験資格審査NGO団体(ECFMG)より「2023年以降は、国際基準で認定を受けた医学校の卒業生にのみ、米国医師免許試験の受験資格を認める」と通告があった。これを機に日本医学教育評価機構(JACME)が設立され、国際基準による医学教育の第三者評価が国内でも始まった。今回は、先進的なカリキュラム改編に取り組み、2016年9月、日本の大学で初めて評価を受審した東京医科大学の副学長・池田徳彦先生にお話を伺った。

学生が自主的に学び結果を出せる環境を作る

東京医科大学がカリキュラム改編のための実行委員会を立ち上げたのは、2012年4月。当時のことを、池田先生はこう振り返る。

「この時期に改編を行うことにした背景には、もちろん時代の要請もありました。しかし我々にはもう一つ意図がありました。本学は2016年に創立100周年を控えており、次の100年を見据えた教育を整えていこうと考えていたのです。」

改編にあたっては、国際基準を参照しつつ、大学独自の方針を打ち出していった。まず、1〜2年生は教養、3〜4年生は座学、5〜6年生は臨床実習という縦割りの編成ではなく、基礎医学と臨床医学が、そして基礎医学同士が有機的に結びつくような講義を意識した。

「例えば神経の講義では、午前は脳神経外科の臨床を学び、午後は基礎でその理論を学ぶなど、基礎医学と臨床医学の垂直方向の結びつきが生まれるようにしました。また基礎医学同士も、例えば腎臓の機能について午前は生理学で、午後は解剖学で学ぶ形にし、水平方向の結びつきを強化したのです。」

他にも、医療倫理やプロフェッショナリズムなど学年をまたいで学ぶ科目や、少人数制・双方向型の講義、PBLを取り入れた「課題研究」の授業、ICTの活用など、新たなスタイルをいくつも導入した。

「新カリキュラムでは、様々な学びの機会を提供し、学生が主体的に学べる環境を作っています。これは、『自主自学』を重んじる本学の建学の精神にかなうものだと自負しています。」

活発な意見交換が教員の成長につながった

これらの大きな改編は、わずか2年の間に成し遂げられた。これほどまでのスピードで改編できたのはなぜだったのか。

「本学は教員同士の風通しが良く、目標に向かって一致団結する風土があります。基礎の先生も臨床の先生も、講義の統合を目指して互いによく協力してくださいました。また、ファカルティ・ディベロップメント(FD)における意見交換も非常に活発でした。他の委員会と時間を合わせ、内容も連続させるなど、教員が参加しやすくなる工夫をしたことも功を奏したと思います。学生も協力的で、ヒアリングをお願いした際には快く引き受けてくれました。このように学内の動きがうまく噛み合ったことと、背景に100周年というタイムリミットがあったことが、スピーディーに実現できた要因だと思います。」

カリキュラム改編によって、医学部6年間を通底した教育の背骨を作ることができた、と語る池田先生。具体的にどのような変化を感じているのか。

「私は今、1年生と3年生の講義、5〜6年生の臨床実習を担当していますが、学年に応じて知識が増えていくのが目に見えるようになりました。学生が伸びているとわかると、教える側のモチベーションも上がります。以前は私自身、1年生に何をどう教えたら良いか、という戸惑いもあったのですが、今は身近なことから教えて関心を持ってもらいつつ、最終的な学習目標まできちんと到達するような教育ができていると感じます。

一方、5〜6年生で、知っておいてほしい知識が身についていない学生を見かけることもあります。しかし、そんな学生と接することで自らの教え方を振り返り、その前段階の3年生への教え方を調整することもできるようになりました。カリキュラムの改編にあたって、どのような教育が良いかを真剣に考えたことが、私たち教員の成長にもつながったように思います。」

 


東京医科大学が受審した、国際基準による医学教育分野別評価の認定証。

 

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