周術期の全体像

まずは周術期医療の全体像について、順天堂大学の医学部麻酔科学教授であり、日本麻酔科学会理事長である稲田英一先生にお話を伺いました。

「周術期」の定義と、周術期管理の目的

まず、「周術期」とはいつからいつまでのことを指すのか、稲田先生に伺いました。

「一般的には、手術の前後で医療者が関与できる部分という意味で、外科医の診察に基づき手術が決定してから、手術を終えて退院するまでを周術期と呼ぶことが多いです。そして、手術が決まった段階から、麻酔科医をはじめ多職種が関わってリスクを管理していくのが、周術期管理の基本的な考え方です。

手術関連死の多くは、もとからあった慢性疾患の増悪や、誤嚥性肺炎・敗血症などの感染によるものです。これらを防ぐためには、術前から手術や全身麻酔のストレスによってどんな問題が生じうるかをアセスメントし、多職種が連携して必要な対策をとることが重要なのです。例えば、患者さんが服用している薬が手術に影響を与えるものではないかということを、主治医のみならず麻酔科医や薬剤師も確認します。」

高齢化が進み、手術を受ける患者さんが複数の疾患を持つケースも増えています。患者さんに安全に手術を受けていただくためにも、多職種が協力して患者さんの情報を把握し、術前から適切な管理を行うことが重要になっているのです。

「術中の安全」と「術後の早期回復」を目指す

周術期管理の主な目的は大きく二つに分かれます。一つは「術中の安全」です。手術中、患者さんは麻酔によって呼吸と循環が不安定な状態になるうえ、身体にメスを入れるという非常に侵襲的な行為を受けます。そのような状況で患者さんが重大な不利益を被らないようにするためには、リスク管理を徹底しなければなりません。

もう一つは「術後の早期回復」です。患者さんができるだけ早く元の生活に戻るためには、無理なく動けて、食事ができるようにする必要があります。そのためには、痛みを取り除き、吐き気を少なくし、感染症を起こさないような対策が必要です。

「近年では、術後の早期回復を目的としたERAS(Enhanced Recovery After Surgery)と呼ばれるプロトコルを取り入れる病院も増えています。具体的には、術前術後の絶飲食期間を従来よりも短くする、下剤の使用や剃毛を控える、低体温になるのを予防するなど、エビデンスに基づいた管理を多職種で行います。」

これらをふまえて今回の特集では、「術中の安全」と「術後の早期回復」のそれぞれについて、それを妨げる要因と対策を見ていきます。さらに、多職種がどのように連携しているのかについて、周術期チームの先駆けでありモデルケースである東邦大学医療センター大森病院の例をご紹介します。

 

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稲田 英一先生

順天堂大学医学部
麻酔科学・ペインクリニック講座教授
日本麻酔科学会理事長