術後の早期回復をはかる(前編)

患者さんの回復を阻む要因を取り除くことで、早期離床・早期回復が見込めます。そのためには、多職種が術前から連携して、様々な観点からケアを行う必要があります。

早期回復を阻む三つの要因とその対応策

次に、術後の早期回復について見ていきましょう。患者さんの体力をなるべく落とさず、早く元の生活に戻れるようにすることが、周術期の医療の一つの目標です。そのためには、何が患者さんの回復を阻んでいるのかを洗い出し、それらの要因を取り除くことが必要です。早期回復を阻む要因として、主に以下の三つが挙げられます。

まず一つ目は痛みです。術後に痛みがあると、患者さんはなかなか体を動かすことができません。これに対しては、鎮痛剤などの薬剤による鎮痛が主な対策となります。従来は、「手術後は痛みがあるのが当たり前」と捉えられ、術後の疼痛管理は積極的には行われておらず、結果として術後リハビリテーションの開始も遅れてしまっていました。しかし近年では、術前から術後にかけて、多職種で連携してシームレスな疼痛管理とリハビリテーションを行うことで、早期離床・早期回復を目指す方法が主流となりつつあります。

二つ目は吐き気です。一般に、全身麻酔後には吐き気や嘔吐といった症状が生じやすくなります。吐き気があると食物摂取が阻害され、回復が遅くなってしまいます。そこで、手術の終わり頃に吐き気止めをあらかじめ投与したり、術前診察の時点で吐き気のリスクが高い患者さんをスクリーニングし、ハイリスクの患者さんに対しては術中に使用する麻薬の種類を変更したりするといった対策が行われています。

三つ目は感染症です。特に術後の誤嚥性肺炎は、回復を遅らせるだけでなく、命に関わることもある重大な合併症です。これを防ぐためには、術前から口腔内を清潔に保つことが有効です。しかし、医師は口腔ケアに関する知識が乏しく、従来は十分なケアが行われてきませんでした。近年は、歯科医師や歯科衛生士と連携し、術前から専門的な口腔ケアを行う施設も増えてきました。

早期回復を推進するには多職種との緊密な連携が不可欠

ここに挙げたような術後の早期回復に積極的に関わる考え方は、ERAS(Enhanced Recovery After Surgery)というエビデンスに基づいたプログラムとして取りまとめられ、導入する医療機関も増えてきました。ERASには、上記のほかにも「術前の絶飲食の短縮」「術中の過剰輸液の制限」「術後の早期経口栄養摂取」など、様々な項目が挙げられています。これらを実行するには、主治医や麻酔科医はもちろん、リハビリテーション科医・理学療法士・看護師・薬剤師・管理栄養士・臨床工学技士などの多職種が関わり、患者さんの早期回復という目標を共有しながら、緊密に連携していくことが不可欠なのです。

 

 

 

 

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