病院長として医師の働き方改革に取り組む
~相原 道子先生~(前編)

秋山先生

今回は、横浜市立大学附属病院の病院長であり皮膚科教授である相原先生に、これまでのキャリアや、医師の働き方改革についての病院管理者としてのお考えを伺いました。

男性と同等に活躍できる仕事に就きたかった

篠原(以下、篠):相原先生は、横浜市立大学の皮膚科でキャリアを積まれ、2004年に病院教授、2008年に主任教授に、2016年には横浜市立大学附属病院の病院長に就任されています。まず、先生が医師を志した理由を教えてください。

相原(以下、相):男性と同等に活躍できる仕事に就きたいと思ったからです。人に感謝される仕事であることも魅力的でした。

:皮膚科を選ばれたのはなぜですか?

:皮膚科と内科で悩みましたが、横浜市大は当時からローテート研修があったので、各科を1年ずつ経験して皮膚科に決めました。その場で診断がつけられ、かつ治療の結果がすぐわかることに魅力を感じました。また私自身がアトピー性皮膚炎だったので、同じようにつらい思いをされている方の役に立ちたいと思いました。

:研修医の頃にご結婚されたのですね。

:はい。臨床研修1年目の終わりに、同級生の夫と結婚しました。周囲の女性医師も、同じ時期に結婚する人が多かったですね。最近の研修医と比べると時間にゆとりがあり、じっくり勉強できたと感じます。

:その後、西ドイツ(当時)とアメリカへ留学されています。

:はい。夫が大学院を卒業するタイミングで、西ドイツの免疫関係の研究所に一緒に留学しました。2年後に日本に帰ってきましたが、西ドイツの教授から「今度はアメリカに行かないか」と声をかけていただき、再び夫と一緒に留学しました。

:素晴らしいですね。帰国後、研究者や開業医などの選択肢があるなかで、先生は大学で教育に携わる道を選ばれました。その理由は何でしたか?

:自分にとって刺激的な環境に身を置きたいと思ったからです。大学にいると、常に最先端の情報に触れていることができますし、皮膚科だけでなく他科や他大学の先生とも頻繁に情報交換をすることができます。また、学生や研修医から若いエネルギーをもらえるのも魅力的だと感じました。

:教職を続けられ、一昨年には病院長に就任されました。病院のトップという立場は、さぞお忙しいことと存じます。

:そうですね。皮膚科教授としての仕事は2割程度になり、病院経営、医療安全など病院や大学全体を見る仕事や行政関連の会議等の仕事の比重が大きくなりました。毎日、分刻みのスケジュールで働いています(笑)。

 

病院長として医師の働き方改革に取り組む
~相原 道子先生~(後編)

男女問わず人を育てる仕組みが必要

:そんな相原先生に、病院管理者の視点からいくつかご意見を頂きたいと思います。まず、近年大きな話題になっている医師の働き方改革について、どのようにお考えでしょうか? 特に、男女問わず働き続けられるような仕組みづくりがますます求められていますが、横浜市立大学附属病院ではどのような取り組みを行っていますか?

:当院では、妊娠・出産などで一時的に休職した女性医師が、週1~2日から勤務を再開できる「女性医師支援枠」を設けています。非常勤ではありますが、この枠を利用して少しずつ現場の感覚を取り戻していただき、常勤に復帰できるような形を目指しています。また、病児保育も院内で体制を整えています。

課題だと感じているのは、お子さんが就学する際に離職してしまう女性医師が少なくないことです。小学校に入ると、保育園のように長時間子どもを預かってくれる場がなくなるためです。職員の居住地は様々ですから、病院で学童保育を担うのは難しいです。行政による学童保育が充実することを願います。

:政府が掲げる、「2020年までに管理職の30%を女性に」という「2020・30運動」についてはどうお考えですか?

:例えば日本皮膚科学会では、管理職の女性枠が設けられたことで女性管理職が増えた経緯があります。医療界全体を見ても女性管理職はまだまだ少ないため、枠を設けること自体がもたらす効果はあるのかもしれません。しかし本来ならば、女性にだけフォーカスした数値目標を立てるのは不自然だと私は感じます。本当に必要なのは、管理職になれるような能力を持つ人を、男女問わず育てていく仕組みではないでしょうか。

医師の偏在解消は魅力的な病院づくりから

:働き方改革に関連するテーマとして、医師確保の問題があります。地域・診療科による医師の偏在については、どのような考えをお持ちでしょうか?

神奈川県でも、東部と西部では医師数に偏りがありますよね。

:私も大きな課題だと感じています。ただ、医師を制度で縛り付けようとするのではなく、それぞれの医療機関が「残りたい」と思ってもらえるような組織づくりをすることが大切なのではないかと私は考えます。実際、教育体制が整っていたり、学ぶ機会が豊富に用意されている医療機関には、地域の中で人が集まっています。アピールポイントを設け、医学生や研修医にも広く知ってもらえるようにすることが重要だと思います。

また、診療科の偏在については、訴訟リスクや超過重労働などの負担をできる限りなくし、本来の業務をまっとうできる仕組みを整えることも必要だと考えます。

互いに協力し合えるパートナーを見つけよう

:最後に、医学生にメッセージをお願いします。

:一日は24時間しかありませんし、体力には限界があります。だからこそ皆さんには、細切れの時間をうまく使ってほしいです。今の時代、タブレットで論文を読むなど、まとまった時間がなくても勉強する方法はあります。無駄なく時間を使うことが成長のコツだと私は思っています。

また、勤務時間外も仕事のことばかり考えていては、息が詰まってしまいます。時には少し離れて気分転換をする方が、仕事に集中できると私は思います。例えば、家事をする時間は結構な気分転換になりますよ。私も家にいるときは、できる限り夕食を作るようにしています。

そして、働き続けるためには配偶者の理解も欠かせません。仕事に対する熱意や意欲を理解し、それに協力してくれる人をパートナーに選べるよう、人を見る目を養っておくことをお勧めします。

:確かにそうですね。医師同士の夫婦で、交代で非常勤になって専門医資格を取得したケースをいくつか知っています。それぞれの仕事への向き合い方を互いに理解し、ポジティブに協力し合えるカップルが増えていくことを期待します。本日はありがとうございました。

 

語り手
相原 道子先生
横浜市立大学附属病院 病院長

聞き手
篠原 裕希先生
前日本医師会男女共同参画委員会委員、神奈川県医師会理事