これからの道 どう選び、どう決める?

医学生に聞いた!将来どう考えてる?-(前編)

みなさんと同じ医学生がどのように将来を考えているのか、アンケートと座談会を行いました。

これまで見てきたように、卒後10年だけを考えても様々な道があります。活躍している先輩医師のお話は、ターニング・ポイントでの身の振り方だけでなく、その背景にある考え方や医療への思いなど、参考になる部分が多いと思います。けれど、「先輩の背中はちょっと遠い…」と感じる人もいるかもしれません。そこで、医学生によるアンケートと座談会を行いました。

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10年目の具体的なイメージはまだ持てないという人が多数派で、83%でした。自由記述でも方向性が決まっている人もいましたが、「研修で実際にいろいろな科を回ってみてから決めたい」と考えている医学生が多く、診療科などの具体的なイメージはまだないのが実際のようです。

「ある」と答えた方は、具体的にどのようなイメージですか?

◆ 神経系の研究医をやる
◆ 消化器内科の勤務医になる
◆ 東洋医学を使える医師になりたい
◆ 今の自分の思考の枠組みを超えた形で活躍したい
◆ 研究と臨床の両方をやる

10年目のイメージは、今は持っていない人が多数派

――まず、「自分が10年目にどんな医師になっていたいか、具体的なイメージがありますか?」という質問についてですが、今日来てくれたみなさんは全員「まだわからない」と回答していますね。

A:5年目までは救急をやると決めています。それ以降はまだわからないですね。

B:研修で実際にいろいろな科を回ってみてから決めたいなと考えています。

――ある程度方向が決まっている人と、診療科を含めてまだ具体的なイメージがない人とに分かれるようですね。ですが、アンケートの結果を見ると、具体的なイメージはなくても「どんな医師になりたいか」ということに関しては様々な考えがあるようです。「なりたい医師像」を考えたとき、みなさんはどんな点に注目しますか?

B:僕は「匠の技」みたいなものに憧れます。やっぱり外科などで技術に秀でている人は、アスリートみたいでカッコいいと思います。

C:医学部に入った後に、理由はわからないけれど「命を救いたい」と強く思うようになりました。最低限命をつなぐ能力を持った医師になりたいです。

D:自分にしかできないことをやりたいです。基礎研究か臨床かはまだわかりませんが、医療を進歩させるところに携わりたい。自己実現を追求することで、最終的に患者さんのためになればと思っています。

E:私はとりあえず「使えない」と言われない医者になっていたいです。

――今はまだ漠然としていても、こうやって自分の中にある憧れや願望を考え続けていくことで目指す方向性が見えてくるかもしれませんね。

医師になる理由ー医学部に入って、考え方が変わったか?

――ではみなさん、医学部に入学した当時はどのように考えていたのでしょうか?その後、大学の勉強や実習を通して、その当時抱いていたイメージが変化した人も多いのではないでしょうか。

F:父が医師で、私も医師になるのが当たり前だと思って育ってきたので、医学部に入ることに対してあまり熱意はありませんでしたね。今はいろいろな人の話を聴いて、医師になることについて、少し考え方が変わってきた気がしています。

A:僕は小学生の頃から漠然と、目の前にある問題を解決したい、社会をよりよくしたいと思っていました。医学部に進学したのは、中学・高校が進学校で、理系だと医学部に進学する人が多かったから、その道しか知らなかったという感じでした。もし高校生のころに、もっとたくさんの選択肢があるとわかっていたら、医学部以外を選んでいたかもしれません。

E:正直なところ、私が医学部に入った理由は、とりあえず食いっぱぐれないかなと思ったからです。周りに何となく認められて、何となく幸せになれればそれでいいかなと思ってふわふわ生きてきたというか。でも最近は変わってきました。サークルやゼミの活動に参加するようになって、医学という分野以外でがんばっている人たちと会って、熱中することの素敵さを感じるようになったんです。

――「もっとたくさんの選択肢があるとわかっていたら、医学部以外を選んでいたかもしれない」ということは、逆に今は視野が広がったということでもあります。医学部に進学すると決めたころの考え方と現在の考え方が違うように、それぞれのターニング・ポイントで自分がどう考えているかを完全には予想できませんが、今のうちに視野を拡げておくことは「納得できる選択」への一つの近道かもしれません。

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将来のイメージが持てないのは、キャリアについて考えていないからではないようです。アンケートの結果を見てみると、55%の人が「しっかり考えたいと思っており、頻繁に考えている」と回答していました。同時に、「考えたいと思うが、機会がない」という回答も34%で、何か考えるきっかけを待っている様子も伺えました。

これからの道 どう選び、どう決める?

医学生に聞いた!将来どう考えてる?-(中編)

医学生のうちに、どんな行動ができるか?

――では視野を拡げるために、学生である今できることは何でしょうか? 「将来を見据えて、実際に取り組んでいることはありますか?」という質問に対しては、意見が分かれています。みなさんの中で、実際に何か活動している人はいますか?

F:私は今、キャリアパスを考える学生団体の代表をやっています。けれど、最初はただの好奇心から始めただけで、キャリアを考えようなんて気持ちは持っていませんでした。活動を続けていく中で、様々な先生方の話を聴きながら、少しずつやりたいことが見えてきたという感じです。

E:私はこれまでゼミを企画したり、ビジネスプランをチームで考えるゼミに参加したりしてきました。医学の分野に限らずいろいろな分野に興味があるので。

――講演やセミナーに参加してみることは、視野を拡げるきっかけになりますね。また、「こういう生き方はいいな」と思えるような先輩との出会いや、自分の考え方を変えるような体験も大事かもしれません。みなさんにとって印象に残っている出会いや体験はありますか?

G:セミナーの講師の先生の話を聴いたことがきっかけで、患者さんと一緒に考えられるジェネラルな医師になりたいと思うようになりました。

H:被災地医療の現場を見て、医療に限らない人的ネットワークが医療にも役立つことを学びました。僕もそんな風に、医療の分野以外でもネットワークを育んで幅広い知識を得てから、その中で自分ができることをやっていきたい。そうすれば、最終的には医師としても役に立てるんじゃないかと期待しています。

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今はまだ将来のイメージが漠然としていても、考え続けていくことで自分の目指す医師像が見えてくるかもしれません。この質問に対しても「今は持っていないが、いずれ持てたらいいと思う」と回答している医学生が79%で、みなさん一生懸命模索しているようです。

大学の勉強以外で活動するのは、敷居が高い?

――一方で、「将来に向けてどのように学んでいきたいと思いますか?」という質問に対しては、「視野を拡げることも大切だと思うが、医学生の本分は医学の学習にあると思う」という回答も見られました。確かに医学の学習は大切ですし、日頃の勉強や試験が忙しいという話も聞きます。今日参加しているみなさんは、どちらかと言うといろいろなことに積極的に参加している方だと感じますが、周りの人たちの様子はどうですか?

H:実際、ゼミや勉強会に積極的に参加するような人はごく一部ですよね。その他大勢は結構「ふーん」って感じで、冷ややかな目で見ているように感じる。人の目を気にしちゃう子たちが多いし、一歩踏み出すほどの情熱はないというか。

D:僕もどちらかというと冷ややかに見ている方ですけど(笑)。そうやって大学の勉強以外のことに力を注ぐことが、医師としての成功につながるのかどうかも知りたいです。僕は、いわゆる「意識の高い人」が学外の活動をするようなエネルギーは、いったいどこから出てくるのか疑問に思ってしまうんですよね。そういう人たちは、学校の勉強とか、やるべきことをちゃんとできているのかな、と。

E:逆に、受験まで勉強にすごく力を注いできて、大学に入った途端「何をやっていいのかわからない」っていう医学生も見かけます。それまで使ってきたエネルギーをどこに注いだらいいかわからなくなっているというか。そういう人はどうやって、自分の活路を見出しているものなのかな、と私は不思議に思っています。

D:むしろエネルギーを注ぐ先とか、考えたことがないです(笑)。単純に授業が楽しいだけで、勉強をすごく頑張ってきたっていう感じじゃないので。

G:エネルギーを注ぐ先…人によって違って、難しいですね。

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医学部に入学した時のイメージは、その後大学の勉強や実習を通して変化した人が72%でした。

「はい」と答えた方は、具体的にどのように変わりましたか?

◆ 医学部に入る前は何でもできるスーパードクターになりたいと思っていたけれど、医学で学ぶことは膨大だとわかり、地道に勉強していかなければと思いました。
◆ 医師にも様々な働き方があることを知り、自分にあった働き方を自分で見つけていかなくてはと思うようになりました。
◆ キャリアアップのためには地方に行かなくてはならないなど、簡単な道のりではないということを知りました。

これからの道 どう選び、どう決める?

医学生に聞いた!将来どう考えてる?-(後編)

自ら切り開いていくか既存の枠の中で力を発揮するか

――今の話を聞いていると、自分で何かを切り開いていくよりは、人と一緒の方が安心だと感じる人が多いのでしょうか。

B:僕は自分自身が「尖る」ことができないタイプなので、人と調和するのが好きですね(笑)。

D:確かに今まで、温室の中で育ってきたという風に感じています。小学校の頃から塾に通って、ずっとそういう枠の中でやってきたから、自分一人で何かを切り開いていくよりは、そういう枠の中で実績を出す方が得意だなと。

F:私も、どちらかというと人と一緒にやりたい性格です。一人だとモチベーションが続かないので…。一人で頑張るよりは、誰かと思いを共有しながらやっていけたらいいなと思います。

C:逆に僕はどちらかというと、受験のとき、夢や理想を熱く語るタイプの同級生たちを斜めから見ていたようなところがあったと思います。学校の勉強をやらなかったわけじゃないけれど、自分に必要なものを取捨選択して勉強してきたという感じです。周りは気にせずに、自分がいいと思ったやり方を選んでいきたいなと。

G:私は、自分一人でも動けるようになりたいと感じます。いろいろなことに興味を持つ性格なので、医療分野ではない人たちともつながりを持ちたいと思っているし、回り道を存分にしたいんです。与えられるものだけではなく、自分の興味も大事にして、それによって経験が増えれば、結果的に自分が納得できる医師になれるんじゃないかなと。やっぱり最後には「自分がやりたいことをやった、その結果としてこういう医師になれた!」という納得感がほしいんですよね。

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将来に向けての学び方については、回答が分かれました。もちろん医学の最低限の知識を獲得するのは大切です。しかし医師として社会に関わっていく方法は、大学で学ぶことだけではないかもしれません。講演やセミナーなどに参加し、「こういう生き方はいいな」と思えるような先輩医師を探してみることも、学びにつながるのではないでしょうか。

最初はミーハーでも、それが原動力になるのでは

――最後に、これから将来を考えるにあたって、どんな機会があったらいいと思いますか?

D:今日みんなの話を聞いて、自分には具体性がないなと思いました。キャリアを考える主体性という点では、僕は医学生の中で中間層なんだろうなと感じます。僕ぐらいの人を巻き込んでいくためには、もっと手の届く範囲に、自分の考えていることに色を与えてくれるようなイベントがあればいいんじゃないかと。ただ、授業などで強制されると逆につまらないと思ってしまうので、強制的ではなく、でも近いところにあるといいですね(笑)。

G:イベントと言えば、私は全く医療と関係ないイベントに参加したことで、自分の専門性について客観的に考えるようになりました。医療以外のところに触れたいと思って参加したのに、逆に医療について知る機会になったというか。

E:それは私も、ゼミの活動で実際に他の分野の方たちと関わって感じました。医療を一歩離れた位置から見てみることができてはじめて、医療っていいなと思えるんですよね。

H:でもそうは言っても、そういったイベントに気軽に行けないのが医学生ですよ(笑)。行ってみようかなと思っても、やっぱり周りが気になる。恥ずかしい、キャラじゃないって、引き返してしまう。友達と軽く「行こうよ」って言い合える、敷居の低いイベントがあればいいなと思います。

E:例えば医学生が当たり前に参加している部活だって、組織をどうやって動かすかを覚える絶好のチャンスだし、そういうところで学べることも多いと思いますよ。私はミーハーだから、社会科見学のつもりで、いろんなところを見てみたいって思って動いているけど、案外そういう好奇心から、人はモチベートされていくものかなって思っています。

C:まあ確かに、海堂尊先生の『ジェネラル・ルージュの凱旋』を読んでカッコいいなと思ったことが、救急の勉強会に参加する一つのきっかけになったと考えたら、僕もだいぶミーハーですね(笑)。

E:結局、「ミーハーだって、いいじゃん!?」って思うんですよね。そうやって面白いもの、楽しいものをみんなでシェアできたら、きっとそれぞれがやりたいことを見つけていける気がします。

――ドクタラーゼでも今後、みなさんが気軽に参加でき、自分のキャリアについて考えたり、視野を拡げたりできるようなイベントを開催していきたいと考えています。今日はどうもありがとうございました。

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実際にキャリアに関する活動をしている人は、41%でした。本誌でもイベント情報やサークル・医学生の活動を紹介しています。実際に足を運んでみたり、参加してみるきっかけにして下さいね。

「はい」と答えた方は、どのような活動をしていますか?

◆ 幅広い考え方を持てるよう、アジア医学生連絡協議会(AMSA Japan)に入って活動しています。
◆ 普段の学校生活ではあまりお話を聴くことのできない医系技官や家庭医の先生にお話を伺いに行ったりしています。
◆ 将来のためというより、今面白いと感じているのでやっているだけですが、無駄ではないと思います。
◆ NPOジャパンハートでの活動、ケアプロ株式会社でのインターン。現状の問題がどうすれば解決するのか、日々試行錯誤しています。
◆ 与えられた課題をこなすことよりも、自分で目標を立てて実行していく学習を重視しています。
◆ 大学が提供してくれる留学生のプログラムには徹底的に参加しています。
◆ 病院見学などで会う先生方に、毎回毎回、なぜそのキャリアを選択したのかを聴くようにしています。
◆ 最近では石巻での被災地医療を見学したり、機会があってできることはできるだけ幅広く経験するように心がけています。