医学生×一般学生 同世代のリアリティー

新入社員研修編-(前編)

医学部にいると、なかなか同世代の他分野の人たちとの交流が持てないと言われます。そこでこのコーナーでは、医学生が別の世界で生きる同世代の「リアリティー」を探ります。
今回は「新入社員研修」をテーマに、今年新入社員として入社した3名(社会人A・B・C)と、医学生3名(医学生D・E・F)の6名で座談会を行いました。

今回のテーマは『新入社員研修』

医学生は卒業後「臨床研修」を受けますが、一般の新入社員にも「新入社員研修」があります。同じ「研修」ですが、臨床研修では医師としての知識や技術を身につけるのに対し、新入社員研修では社会人としての一般常識を得るといった側面も強いのです。

新入社員研修って何をやるの?

医D:みなさん今年の新入社員と聞きましたが、どんな会社で、どんな研修を受けてきたんですか?

社A:僕はIT企業に営業職として入社しました。4月は300人の新入社員全員で、組織の方針や部門の特徴など、会社についての講義を受けましたね。5月からは部門ごとの研修が始まり、僕は実際に先輩に教えてもらいながら営業を担当していました。研修が終わったのはつい最近なので、5か月間研修をしていたことになりますね。

社B:私は外資系銀行です。最初の1か月間は本部の研修施設に通って、朝8時半から夕方6時まで講義でした。社会の中での銀行の役割や、実際に銀行で使っているシステムの使い方、この会社でどういう業務をやっているのかを、学校のような感じで学ぶんです。その後、先輩のもとで店舗の窓口業務の実習を少しやって、7月に配属が決まりました。

社C:僕は自動車メーカーです。研修は最初の1か月だけで、ゴールデンウィークが終わった後からは実際の仕事に就きました。研修ではコミュニケーションの基礎を学んだり、工場を見学したりしましたが、実務については学びませんでしたね。

医E:医師の臨床研修では病院についての研修は受けないので、そこが新入社員研修と大きく違う感じがします。

ビジネスマナーってどうやって学ぶの?

医D:よく、研修ではビジネスマナーや一般常識を学ぶって聞くんですけど…。

社A:そうですね。うちは外部から講師を招いて、敬語の遣い方など、一日でひと通りのマナーを叩きこまれました。

医F:電話の出方とかもやるんですか?

社A:はい、電話応対の練習は結構しっかりやりました。新人の業務は電話を取ることだ、とか言われます(笑)。

社C:うちも本物の電話を使って練習をしましたよ。同期どうしでかけ合って。

医E:面白いですね~(笑)。

社B:私たちは、まず歩き方から習いました。他にも「いらっしゃいませ」「おはようございます」などの接客7大用語と呼ばれる言葉を練習したり。相手や挨拶の内容に合わせて、お辞儀の角度が変わるんですよ。ひと通り習ったら部長や課長が見守るなかでテストがあって、全員合格するまで帰れません。すぐに身につくわけではないですが、「こうしなきゃいけないんだな」という感覚がわかりました。

同期や先輩との仲は?飲み会は結構あるの?

医E:研修で、1か月くらい合宿をやってるところもあるって本当ですか?

社C:うちはないですけど、聞いたことはありますね。試験のために半年以上ホテル暮らしで、ひたすら勉強、とか。

社B:うちも合宿はないですね。ただ、1か月間東京で合同研修だったので、大阪などで採用された子は寮生活をしてました。

医F:そういう環境だと、やっぱり同期って仲良くなるものなんですか?

社B:朝から夜までずっと一緒にいるので、仲良くなりますね。

社A:グループ分けされるので、学校のクラスみたいですよ。よく知らない人もいれば、すごく親しくなる人もいます。

医E:医師の場合は、研修先の同期が仲良くなるっていう話はあまり聞かないですね。上下関係のほうが濃いと思います。

医F:新人が来ると、喜び勇んで飲みに連れていく先生もいるみたいですね(笑)。病院や科によってもカラーがあります。

医D:会社の上司や先輩との飲み会やイベントは多いですか?花見とか、忘年会とかのイメージが強いですけど…。

社C:そんなに多くはないです。たぶんメンバーによりますけど。うちのチームは僕以外が全員40代なので、飲みに行っても話が合わないと思います(笑)。

社A:うちは先輩とは歳が近いですが、あまり飲みに行く雰囲気ではないですね。

同世代のリアルティ

医学生×一般学生 同世代のリアリティー

新入社員研修編-(後編)

研修でやったことって実際に役に立つ?

医D:よく、大学で学んだことと実際の仕事は全く関係ないという話を聞きますが、その業界の知識はいつどうやって勉強するんですか?

社A:うちはそういう機会がないので、知識にかなりバラつきがあると思います。IT研修という名の研修はありましたが、あまり実務に関係なかったし…。ただ、目安として資格を取ってくださいと言われます。義務ではないですけど。

医F:私たちには医師免許が必須ですけどね(笑)。資格ってあんまり重要じゃないんですか?

社B:うちも資格は目安程度です。通信教育などの補助はありますが、厳しくは言われません。実際資格を取っても、業務に関係のない内容だったら意味がないですからね。

医D:私たちも、今国家試験のために学んでいる知識は、実際の仕事には使えないって言われますね…。でも、テストのために毎日必死です(笑)。

医E:全単位が必修だから、全部取らなきゃいけないんですよね。がんばっているのに、役に立たないって言われるのは、正直悲しいです…。

会社の一員としてのキャリアって?

医D:会社の一員として、これからの目標はありますか?

社A:「社員として」というのはあまりないですね。うちの会社は人の入れ替わりが激しいので、僕も将来的には転職する可能性が高いと思います。でも3年くらいは勤めないと次の会社に行っても役に立たないと思うので、とりあえず目の前の仕事をがんばっているという感じです。

社C:うちは製造業なので、「この会社に骨を埋める」っていう考え方の人も多いですよ。

医F:医師には、転職を考えている人はあまりいないと思います。転科や、病院を移ることはありますけど。

社B:医師として一人前になるのって、いつ頃なんですか?

医E:臨床研修は初期2年、後期3年なので、5年経ってやっとひと通りのことができるという感じです。

医D:本当に一人前になれるのは40歳って言われてますね。ただ、救急外来などで当直が研修医しかいない場合は、やむを得ず仕事を任されたりします。

社B:私の会社は、役職がついている方の年齢層がバラバラで、若い方も年配の方もいらっしゃいます。歳や経験は関係なく、仕事ができる人がどんどん認められていくという感じです。

社C:会社によって違いますよね。うちの会社の管理職はほとんど40代です。

医F:出産や育児でキャリアが止まってしまう人もいますか?

社C:部署によると思います。日々戦場みたいな部署もあれば、もう少し楽な部署もあり、希望すれば異動が可能だったりします。そういう融通がきいたり、会社の中に保育所があったりするのは、大きな企業に勤めるメリットのひとつですね。

社会人になった自覚や責任感はある?

医E:社会人としての自覚や責任感って、自然と身につくものなんですか? 

社C:いやあ、どうでしょうね(笑)。子どものころにイメージしていたよりも自分って全然「大人」じゃないなって思ったことありませんか? それと似てますね。

社A:すぐに生活が豊かになるわけでもないですしね(笑)。

社B:私は仕事で扱っている金額が大きいので、何かあっても「辞めます」では済まされないと上司から教えられました。最初は「君は責任取れないんだから、辞めても意味がないんだよ」「君のクビには何の価値もないんだからね」って言われて、さすがに落ち込みました。まだまだ責任なんて取れないんだな、社会って厳しいなって。

医D:お金を扱う仕事は、1円でも狂ったら大変そうですね。

社B:はい、計算が合わなくて泣いたことも何回かあります。会社の人数が少なくて、1年目から仕事を任せてもらえる分、嫌でも責任感を感じますよ。

社C:僕も、よく上司から「プロとしての責任感を持て」とは言われます。けれど、じゃあ知識があって詳しいのかというとそうでもないし、そんな気概もあまり持てないのが実情です。今の話を聞いてると、僕なんかまだまだだなあと思います。

医F:厳しいですね…。

社A:もうちょっとプライベートな話をすると、休みの日を大事にするようになりました。土日は2日しかないので、1日徹夜したりすると、休みが消えるんです(笑)。何だか1日1日が大切になりましたね。

社B:わかる、わかる(笑)。

社A:あと研修中は本当に同期にしか会わないので、コミュニティが狭いことに危機感を感じます。楽しいんですけど、世間が狭くなる感じが怖いというか。飲みに行っても会社の愚痴になっちゃって、「こんなことしてていいのかなあ」って思う。

社C:僕もこのごろ「もうちょっと生産的なことをしないとな」と思っていたこともあって、今日この場に来たんです(笑)。

医D:なるほど~。医学部も、コミュニティが狭いということに気づかないくらい、偏っているんですよね…。もっと新しい出会いや、視野を拡げる場を持たなくちゃ、と思います。今日はありがとうございました。