10年目のカルテ

退院後の子どもやその家族の生活を支えていけるような医師を目指したい

【小児科】山口 直人医師
(神奈川県立こども医療センター 新生児科)-(後編)

専門病院の魅力

――2箇所目のキャリアとして専門病院を選びましたね。

山:川口市立医療センターにいた時に診ていたのは主に未熟児でした。先天性疾患についても勉強したいと漠然と思っていた時に、もともとこの病院で長く働いていた先生に声をかけてもらったんです。ここではNICU所属の15人全員が新生児の専門家なので、専門家どうしで議論ができます。また、新生児の中でも栄養・循環器・呼吸といったスペシャリティを持っている人も多く、そういう人たちと一緒に仕事できるのはとても勉強になりますね。院内にも小児科の様々な分野の専門家がいて、相談しやすい環境でもあります。

小児科医としてのキャリア

――そもそも小児科医になったのはどうしてですか?

山:もともと子どもが好きなんです。そして、自分が全身を診ながら成長を見守れる、一人の人間がどう育っていくのかを見られるという点も魅力に感じ、自然と小児科を選びました。

――子どもが好きだと、重症の子を見るのは辛くないですか?

山:そうですね。ただ、子どもと遊んでいて可愛いと思う自分と、治療対象の子どもと付き合う医師としての自分は、全く別のものだと思います。医師であることを意識し、子どもや親は医師に何を求めているかを考えるので、感情的になってしまうことはそうありませんが、ときに辛い気持ちになることもあります。

――小児科は女性医師も多い科ですが、先生から見て女性が働きやすいと思いますか?

山:小児科は柔軟な働き方がしやすいと思います。出産や子育てをしながら、外来中心に仕事をしても十分に専門性を高めていける。今の僕のようにNICUに張り付くような働き方は難しいかもしれないですが。

僕もずっとNICUにいるので一般小児科にはしばらく触れていないですが、戻ろうと思えば戻れると思います。勉強する気さえあれば、時間をかけてゆっくりとキャリアを積むこともできると思いますよ。

――先生ご自身の今後のキャリアについてはいかがですか?

山:僕にも子どもが1人いるんですが、今の自分は親としてすべきことができているかな…と課題を感じます。外来で「お父さんの関わりも大事ですよ」と言うことも多いのですが、このペースで仕事をしていると、むしろ自分と子どもの関係が破綻してしまうのではないかと。やはり無理して働いている部分もあるので、男性も含めてみんなで仕事をシェアし、働きやすい職場にしていきたいですね。

医師としては、集中治療のスペシャリストとして腕を磨いていくよりは、退院後の子どもたちや家族の生活を支えていけるような医療をやっていきたいです。NICUを出れば、そこからは自宅で家族と生活していくわけで、そんな家族の在り方や生活に関わり、支援することができるようなポジションで仕事をしていきたいですね。

社会の悲しみに触れてほしい

――山口先生にとって、よい医師とは何だと思いますか?

山:自分の価値観じゃなくて、子どもとその家族がどうなりたいかを一番に考えられることが大事だと思っています。ただ、自分が思っている以上に辛い人たちはいて、そういう人たちに対して、医師として何かをできるときもあるけれど、できないときも多い。だから「できない」ということはちゃんと知った上で、何もできないけど、子どもや家族の悲しみや喜びに寄り添える医師でいたいなと思っています。もちろん、それを支えられるだけの知識や技術は必要ですけどね。

――最後に、医学生へのメッセージをお願いします。

山:学校の内外に関わらず、いろいろなことを経験して、いろいろな悲しみに触れてほしいと思います。辛い思いをしている人はたくさんいて、問題もたくさんある。そういうものと付き合いながら、自分は社会の悲しみのどういう部分を仕事として引き受けていくのかということを、一度考えてみてほしいです。

山口 直人
2005年金沢大学医学部卒業
2012年10月現在 神奈川県立こども医療センター
新生児科 医師