千葉県医師会と千葉大学の連携による臨床研修医支援-(前編)

千葉県の若手医師の研修の質の向上を図るため、実技セミナーや研修医交流会などを行っています。

研修の質の最低ラインを保証する

センター長井上先生

医学生のみなさんは、卒業後は研修医として様々な病院で研修を受けることとなります。しかし、研修医には横のつながりが生まれにくく、どこの病院で研修を受けるかによって情報や技量の格差が生まれてしまうのではないか…という声も聞かれます。

そこで近年、主に都道府県医師会が主体となり、研修医など若手医師を支援するプログラムを立ち上げる事例が増えています。今回は、NPO法人千葉県医師研修支援ネットワークを取材しました。

実際に研修を行う施設として、千葉大学医学部附属病院内に「千葉県医師キャリアアップ・就職支援センター」が設けられています。このセンターでは具体的にどのような取り組みを行っているのか、副センター長であり研修講師としても活動されている井上雅仁先生(千葉大学医学部附属病院)にお話を伺いました。

「千葉県には大学病院がひとつしかないため、ほとんどの医師は市中病院に所属することになります。もちろん研修のやり方には各病院の個性がありますし、それぞれの教育方法があっていいのですが、例えば実技のトレーニングに使用する機器などは非常に高価なので、とても各病院に置くわけにはいきません。そこで、千葉県の支援のもと、千葉県医師会・千葉大学医学部附属病院などが協力してこのNPOを立ち上げ、センターを設置しました。当センターが機器を集約することで、効率よく研修を行うことができる環境を整えたのです。

私たちの大きな目的は、千葉県全体の研修の質の向上です。千葉県内のどの病院で研修を受けていても、当センターの機器を使用したセミナーや研修を受けられます。必要に応じて、設備の貸し出しも行っています。

また、研修医の人数が少ない病院では、自らの研究について発表する機会もほとんどありません。そこで、学会形式で研究結果を発表するセミナーを開催し、研修医どうしが交流できる場を提供しています。」


千葉県医師会と千葉大学の連携による臨床研修医支援-(後編)

研修で学んだ技術を現場で活かせるものにするためには指導プログラムが非常に重要です

シミュレーターを使用した実技セミナーが人気

特にシミュレーターを使用した実技セミナーは人気があるそうです。というのも、近年では医療安全の観点から、患者さんに対する手技をあらかじめトレーニングすることが求められているからです。

シミュレーターを使用したセミナーには「単発型」と「教習所型」があり、目的や用途によって形式が異なります。特に教習所型のセミナーでは10時間近くのトレーニングを受けられ、即戦力になれるくらいの技術を身につけることができます。

また、シミュレーターを使用したセミナーでは、必ず実技に入る前にしっかりと研修のカリキュラムを解説し、理解してもらうようにしているそうです。

「シミュレーターの利点は、安全な環境で苦手な課題を何度も練習できるところにあります。しかし実際の生体を完全に再現しているわけではないので、漫然と練習しているとただのゲームと化してしまいます。したがって現場で使える技術を身につけてもらうためには、一つ一つのトレーニングが実際の医療にどう活きるかがわかるプログラムを作成し、参加者もそれを理解することが重要です。」

指導医に対する働きかけも

さらにこのNPOでは、研修の質を担保するために、研修医だけでなく指導医に対する働きかけも行っています。年に1回、厚労省認可の指導医講習会を行っている他、セミナーを通じて指導法を教えているそうです。

「指導医は多忙な通常業務の中で研修医を教育しています。さらに研修医制度は年々改訂されますし、研修医との間にはジェネレーションギャップも存在します。指導医の個性や経験は教育において大変重要ですが、それだけに頼っていては指導にムラができてしまうのです。私たちは最新の教育理論を取り入れた研修プログラムを開発しています。こういったシステムが確立されている点が、当センターの一番の特徴です。そして新しい試みである指導医・研修医合同セミナーなどを通じ、これらを各研修施設の指導に役立てていただこうと考えております。」

今後も若手医師の要望を拾い上げ、プログラムを充実させていきたい、と井上先生。県医師会と大学が連携したこのような取り組みは全国に拡がっていますので、みなさんも今後ぜひ活用してみて下さい。