適切な療養の場を見つける

 

自宅や施設での療養を見据えて

前ページで紹介したように、急性期病院を退院した後に受け皿となる医療機関や介護施設には、様々な種類があります。患者さんの病状だけでなく、家族構成や経済状況、利用できる医療資源なども踏まえたうえで、適切な転院先・入所先を決めていく必要があります。急性期病院においては、主に地域連携室などで働く看護師や医療ソーシャルワーカー(MSW)が、その役割を担っています。

近年では、病院ではなく住み慣れた自宅や施設などで療養し、必要に応じて医療・介護サービスを利用することが推進されています。気管切開や胃ろうなどといった医療的ケアを必要とする方であっても、在宅医療や訪問看護が受けられる環境にあって、かつ本人が希望すれば、自宅や施設で療養することもできます。また、施設での看取りも増えています。

つまり、地域包括ケア病棟や回復期リハビリテーション病棟がクッションの役割を果たすことで急性期から自宅や施設の生活にスムーズに戻れるようになるのです。これらの病棟の入院期間に上限が設けられているのも、いずれは自宅や施設に戻ることを見据えているからです。特に地域包括ケア病棟は、疾患に関わらず入院でき、かつ自宅や施設で療養中の方の緊急入院なども受け入れることができるため、まさに急性期と在宅の間をつなぐ存在といえます。今後、地域包括ケアシステムの中心を担う病棟として、ますます求められるようになっていくでしょう。

 

 

 

適切な療養の場を見つける(後編)

 

 

 

 

 

有床診療所の役割

近年、医療機関の機能分化や集約化は進んでいます。人口の都市への集中も相まって、地域の多様な医療ニーズに応えてきた小規模な病院や有床診療所も減少傾向が続いています。

しかし、地域にコミュニティや生活の基盤があり、移動もままならない高齢者には、病気になっても住み慣れた地域を離れたくないという人は少なくありません。身近な医療機関の信頼している医師のもとで療養したいというニーズは高いのです。そのようななかで、地域の有床診療所の役割が再び見直されています。

地域に密着した有床診療所は、かかりつけ医の機能を持ち、必要に応じて入院治療も行える小規模な(19床以下)医療機関です。かかりつけの患者さんが体調を崩したときの入院管理、急性期病院での治療を終えて自宅に戻るまでの橋渡し的な入院、リハビリが必要な人が住み慣れた地域で在宅復帰を目指すまでの入院など、地域包括ケア病棟と似たような役割を果たしており、過疎化が進む地域の医療を多面的に支えています。

有床診療所への入院事例

①過疎地域で独居の85歳女性、狭心症と高血圧の悪化で急性期病院に入院した。症状は落ち着いたが、すぐに自宅に戻るのは難しいため、地域の診療所に入院。投薬治療と食事管理を続け、落ち着いたら診療所に近い介護付きのサービス付き高齢者向け住宅に入居を希望している。同じ地域の住民が、外来通院時に病棟に面会に来てくれるのを楽しみにしている。

②脳梗塞により軽い麻痺のある81歳男性、食思不振と下痢で衰弱していたため、隣人がかかりつけの診療所に連れてきた。ウイルス性の胃腸炎による脱水症状が見られたので、自宅での療養は難しいと判断してそのまま診療所に入院した。症状が落ち着き、体力が回復したら退院して自宅に戻る予定である。

いま、有床診療所のような細やかに地域ニーズに応えられる医療の担い手の高齢化が進んでいます。これからの時代を支える医学生の中から、様々な分野で研鑽を積んだ後に、このような地域密着型の医療を担う人が出てくることを、地域の先生方も心から待っています。