看護師(退院支援)

これから医師になる皆さんは、どの医療現場で働いていても、チーム医療のパートナーとして看護師と関わることになるでしょう。今回は、町田市民病院の医事課入退院支援係担当課長で、認知症看護認定看護師の平田真由美さん、退院支援看護師の早川典子さん、医療ソーシャルワーカーの古閑千香子さんにお話を伺いました。

スムーズな退院支援の実現

先生

――町田市民病院では、2017年から新しい退院支援体制が始まったそうですね。

平田(以下、平):はい。それまで、退院支援は医療ソーシャルワーカー(MSW)が一括して行っていました。私は認知症看護認定看護師として勤務しつつ、病棟師長として退院支援にも関わることが多かったのですが、どちらの業務にも十分に専念できず葛藤を抱いていました。そんな時、看護部長から、看護師の目線も取り入れた、患者さんが安心・納得できる退院支援体制の実現を任されたのです。

ちょうどその頃、診療報酬改定で退院支援の質を評価する項目が新設されました。そこで当院では、「退院支援加算1*」の取得を目標に、早川さんをはじめ経験豊富な看護師4名を退院支援看護師とし、MSWと協働する体制を立ち上げました。

――具体的にどのような支援を実践されているのですか?

:退院支援加算1には「入院後3日以内に退院支援が困難な人を抽出する」という算定要件が設けられているので、退院支援看護師4名で分担してスクリーニングを行っています。そうして抽出した患者さんについては、1週間以内にご家族も交えて面談し、多職種でカンファレンスを行うことも算定要件の一つです。当院では、退院支援看護師・MSW・病棟看護師の三者で治療状況やその人の生活状況などの情報を交換し、退院支援の方向性を決めています。

――退院支援を行ううえで必要な能力とは何でしょうか?

早川(以下、早):経験に基づくアセスメント能力でしょうか。当院に入院される患者さんは年間1万人に上り、その全てをたった4人でスクリーニングしなければなりません。病棟スタッフが記録した入院時の情報、医師のカルテ、アナムネーゼを見て、瞬時に判断する力が必要です。ただし経験といっても、急性期病院の臨床看護の経験だけでは、退院支援に関わるのは難しいかもしれません。私は訪問看護の経験もあり、急性期病院を退院した後の地域での生活を具体的にイメージできるんです。患者さんのご家族や、患者さんを担当する地域のケアマネジャーに、家屋状況や生活全般のお話を聞き、入院前の生活環境を推測しながら調整をしています。

多職種が持てる力を出し合う

――新たな体制を構築したことで変わった点は何ですか?

:今までは、医師は医師、看護師は看護師、MSWはMSWと、各職種がバラバラに動くしかなかったのですが、この体制になってからは、「退院支援」という目的に向かい、チーム全員で早期から協働できるようになりました。以前は、退院の目途がたった時点で初めて医療相談室に依頼が来るという状況で、そこから地域に戻るための情報を収集していくのは至難の業だったんです。今では、患者さんが入院された時点で、ケアマネジャーやご家族から情報を収集しますから、介入できる度合いも全然違いますね。

:これまで、自宅に帰ることを希望されていた方が転院になってしまうケースを多く見てきて、もどかしく思うことも多かったので、退院支援に専門的に関われることに、非常にやりがいを感じています。

古閑(以下、古):日本ではまだまだ在宅医療のイメージが浸透しておらず、「点滴もしていて、これだけ介護が必要なのだから、自宅に帰れるはずがない」と、患者さんやご家族が諦めてしまうことも多いんです。「介護保険サービスを利用してご家族の負担を減らせるので、ご本人のADLがもう少し上がればご自宅で過ごせますよ」などと丁寧に説明をして、患者さんの希望を叶えられたときは、とても嬉しいですね。

――これまで退院支援をされてきて、印象に残ったエピソードはありますか?

:あるご高齢の患者、Aさんのケースです。Aさんは持病が悪化して入院が必要になったのですが、「妻を置いては入院できない」と大変お困りでした。実は、Aさんの奥さんは認知症で、他人の介護を拒否するため、それまでAさん自身で介護していたのです。そこで古閑さんに相談し、特例で同じ病棟にご夫婦の病床を用意して、入院していただくことにしました。そうしてAさんの治療を進める間にご家族で話し合っていただき、「Aさんに治療に専念してもらうため、妻の転院先を探す」という方向で意見が一致しました。すぐにチームで奥さんの安心できそうな転院先を探し、私は認知症看護認定看護師として、奥さんの不安な気持ちに寄り添いながらしっかりと経緯をご説明し、転院していただきました。

高齢社会を迎えた現代を象徴するような事例で、今後はこのようなケースが増えていくでしょう。Aさんの場合、認知症ケア・退院支援・病棟の各チームが一丸となり、持てる力を発揮できた、非常に良いケースだったと思います。



* 退院支援加算1…平成30年度の診療報酬改定では「入退院支援加算1」と名称が変更され、入院予定の患者への支援強化などが算定要件として加わった。