若手医師も、マネジメントの視点を持って医療の本質をみてほしい
~第二大阪警察病院 小牟田 清先生~(前編)

今回は、この春から第二大阪警察病院の院長に就任された小牟田先生に、医師の働き方を改善するマネジメントについてお話を伺いました。

医療安全担当の人脈を活かし病院の仕組みを改善

笠原(以下笠):小牟田先生は、大阪警察病院で副院長を務められ、今年4月から新たにオープンした第二大阪警察病院の院長に就任なさいました。まず、副院長時代の取り組みについてお聞かせいただけますか。

小牟田(以下、小):私がマネジメントに携わるようになったきっかけは、医療安全の担当になったことでした。インシデントやクレームに対処するなかで、普段の診療ではほとんど接点のない診療科の医師や、看護部などの他部門と関わる機会が増えました。医療安全に関する情報や意見が私のもとに届くようになったことで、それらを取り入れれば病院全体の改革につなげていけるのではないか、と考えるようになりました。

まず取り組んだのは、インシデントレポートを基にクリニカルパスを作成することでした。例えば、チューブ抜去のタイミング、離床のタイミングなどをあらかじめパスで定めておくことで、安全が担保されると同時に、看護師が都度医師に確認する項目も減らせます。クリニカルパスの整備は、安全だけでなく、業務の効率化にもつながるのです。

他にも、看護部からの要望を受け、医師の指示出しの実状について調査を行ったりもしました。時間外の指示出しが多い医師には指導を行い、時間内に終わらせるよう促しました。また、急ぎの検査の結果がいつ見られているかチェックし、急がなくていい検査は緊急にしないように働きかけました。

:医療安全担当として築き上げてきた関係性を活かし、現場からの声を拾い上げることで、病院の仕組みを改善してきたのですね。

:はい。他にも、現場からの要望を受けて様々な改善を行ってきました。例えば、夕方5時から行っていた会議を、朝の外来が始まる前に行うことで欠席者を減らしたり、誰もが年休を取得しやすいように時間単位の年休制を導入したり、医師の業務の一部を他職種に委譲することで、医師の負担を減らしたりしました。

インタビュアーの笠原先生。
 

データや方針を示しきちんと話し合う

:そのような改善を行ううえでは、管理職をはじめとしたスタッフ全体の意識改革が必須だと思います。そのために心がけていたことはありますか。

:様々なデータをオープンにすることですね。例えば、経営状況や働き方に関するデータ、子育て中の女性医師の数、残業時間が長い医師がどのくらいいるかなどを開示することで、病院が直面する問題を医師一人ひとりに考えてもらえるよう働きかけました。さらに、全ての医師が働きやすいようサポートするという病院の方針もオープンにします。誰かが休みに入る際は、「こういう理由でお休みされますから、皆さんカバーをお願いします」と発信し、病院全体でサポートを行ってきました。

:クリニカルパスの整備など、様々な仕組みの改善によって、業務の効率化と働きやすい環境づくりを行ってこられたのですね。しかし、応招義務のある医師ならではの難しさもあるかと思います。さらなる改善のためには、働き方の形態や一人ひとりの考え方をどのように変えていくべきとお考えでしょうか。

:まず、医師の働き方の形態に関してですが、オン・オフの切り替えをはっきりさせるためにも、これからは2~3人の医師でチームを組んで患者さんを診ていく体制を築く必要があると考えます。また、応招義務に関しては、クリニカルパスに「手術の何日後に患者・家族に説明する」という項目を明示しておくことで、時間外に家族が来られて説明を求められるようなことを減らす工夫も必要でしょう。看護師が時間外に医師を呼び出さなくて済むような仕組みづくりも有効です。

医師一人ひとりの考え方を変えることは、さらに難しいと感じます。熱心な研修医のなかには、「勤務時間外でも残って勉強したい」という人も多くいます。レベルの高い先生の手術を見て学びたいという気持ちは、私たちにもよくわかります。しかし、休息を取らずに働き続ければ、医療事故につながりかねません。なので、私は「オン・オフをしっかり切り替えないと頭は働かないよ」と声をかけるようにしています。気分転換をすることで生まれる新しい発想は、仕事を続けていくうえで絶対に必要になると思うからです。

そのためには、「休む時は休め」という管理職の考えもオープンにすることが必要でしょう。そして研修医の声を直接聞いてみることも大切です。そこで私は、毎年研修医と話し合う機会を設けてきました。様々な立場の人間が交流し、現状を変えていくための意見を出し合える土壌を整えてきたと自負しています。

 

若手医師も、マネジメントの視点を持って医療の本質をみてほしい
~第二大阪警察病院 小牟田 清先生~(後編)

仕事を主体的にマネジメントできる医師に

:先生は今後も院長として、次世代の育成にますます力を入れていかれると思います。働き方改革という観点から考えると、これからは医療提供体制や労務管理などといった、幅広い知識を持ったリーダーの養成が重要になってくるのではと考えますが、どのような教育が必要だとお考えですか。

:臨床研修病院の役割は大きく二つあります。一つはもちろん医療知識や技術を教えること、もう一つは、財務や労務なども含めた医療の本質を学んでもらうことです。医長・部長クラスになった時に困らないためにも、早期からマネジメントについて学ぶことは大切だと考えます。

その一つの方法として、クリニカルパスの作成を行う委員会に、若手の医師にも入ってもらうようにしています。なぜならクリニカルパスの作成には、マネジメントに通ずる部分があるからです。そのパスで入院した患者さんの入院期間が診療報酬に見合ったものになっているか、検査や投薬が全国平均と比較して多くないか…といったことを他職種と共に考えるなかで、若手の医師たちにも、病院経営に携わる一員としての自覚を持ってもらいたいと考えています。

:確かに、手術や手技だけでなく病院経営の観点を、若手医師にも学んでほしいですね。そうすれば、業務の効率化や勤務時間の短縮についても自然と意識できるようになるでしょう。

:そう思います。ちなみに、私がこれまで一番優秀だと思った研修医は、朝早く来て患者さんを診て回り、朝のうちに指示出しを終わらせていました。申し送りも細かく記載され、看護師からの問い合わせもありません。そして毎日定時に帰る。さらには仕事の合間に論文を読む余裕さえ持っていました。

このように、仕事を主体的にマネジメントできる医師が「できる医師」だと私は考えます。医学生の皆さんも、ぜひそういう医師を目指してほしいですね。

 

語り手
小牟田 清先生
第二大阪警察病院 院長

聞き手
笠原 幹司先生
日本医師会男女共同参画委員会委員、大阪府医師会理事