医学生×食物栄養学科の学生
同世代のリアリティー

食物栄養学科の学生 編(前編)

医学部にいると、同世代の他分野の人たちとの交流が持てないと言われています。そこでこのコーナーでは、別の世界で生きる同世代との「リアリティー」を、医学生たちが探ります。今回は、食物栄養学科の大学生2名と、医学生3名で座談会を行いました。
同世代

今回のテーマは「食物栄養学科の学生」

様々な学部・学科がある大学。今回はその中でも「食物栄養学科」にスポットを当ててみます。大学や課外活動ではどんなことをしているのか、将来はどんな進路を選択するのかなど、詳しくお話を聞きました。

食物栄養学科ではどんなことを学ぶ?

長嶋(以下、長):まず、食物栄養学科ではどんなことを学ぶのか、教えていただけますか?

緒方(以下、緒):食物栄養学科は、管理栄養士になるための学科なので、基本的には国家資格を取得するためのカリキュラムが組まれています。

栗谷(以下、栗):私たちの大学では、1年生は教養科目がメインで、専門的な科目は2年生から多くなります。医学部のように疾患について総合的に学ぶ授業もありますし、人の心理を学び患者さんへのアプローチにつなげる栄養教育論という授業や、各栄養成分の効力などを学ぶ食品化学という授業もあります。試験管や顕微鏡を使った実験も結構多いですよ。

松根(以下、松):卒業論文は書くんですか?

:はい。どんな論文を書くかは、4年次に所属する研究室によって変わってきます。例えば、ラットなどを用いて化学的・生物学的な研究をする人もいますし、文献を読んで調査研究を行う人もいます。

真喜志(以下、真):国家試験は必ず受けるんでしょうか?

:卒業後の進路にかかわらず、4年生の3月に必ず国家試験を受けます。そのため、3~4年生では保健所や病院などでの実習もあります。

:その点では医学部と近いですね。これまでに印象的だった授業はありますか?

:途上国の栄養状態について英語の教科書で学ぶ、国際栄養という科目が印象的でした。

:途上国と先進国で、栄養へのアプローチは違うんですか?

:途上国にはそもそも栄養という概念がないんです。ですから、まず栄養について教えていく人をどう育てていくのかが課題だと言われています。

:なるほど。今日集まっている医学生は、国際的な分野に関心が高いメンバーなのですが、授業ではどんなトピックがありましたか?

:西洋の食事、例えばファストフードが入ってきたことによって、途上国では肥満の子どもや糖尿病の人が増えているという話がありましたね。

:確かに、僕が昨年実習に行ったケニアでも同様の現象が起こっていました。

:国や地域が違えば食文化も違いますから、健康状態や罹患率にも違いがありますよね。

:栄養学の観点から、そういう問題に取り組む人もいらっしゃるんですか?

:私の同期に、NGOを立ち上げて活動を行っている人がいます。高校時代にカンボジアを訪れた時、子どもたちの身長の低さに驚いたことがきっかけだったそうです。彼女は、子どもの身長の低さの原因は栄養状態にあるのではないかと考え、同じ活動をする方の講演会を開いたり、夏休みはカンボジアに滞在して子どもたちと畑仕事をしたり、3色食品群を教えたりするなど、栄養状態の改善を目指した活動をしていますね。

:それは素晴らしいですね。

食物栄養学科に入ったきっかけ

:お二人はどうして食物栄養学科に入ったんですか?

:私は以前入院していた時に、管理栄養士さんに栄養指導をしてもらった経験があるんです。その方のようになりたいと思い、病院勤務の管理栄養士を目指して入学しました。ただ、入院中に飲んだ栄養剤の味に衝撃を受けたのもあって(笑)、今は栄養剤や栄養補助食品などの開発にも関心があります。

:僕も潰瘍性大腸炎で入院した時に飲みましたが、ドロドロで甘くて、すごく飲みにくかったですね(笑)。例えばクローン病の患者さんにとって、成分栄養剤は治療薬なので、それが飲みやすいかどうかは、その人の生活に関わってくる重要な問題ですよね。

:そもそも、なぜそんなに飲みにくいんでしょうか?

:少量で患者さんに必要な栄養を摂取させようとした結果、味は二の次になってしまうのだと思います。大学で化学を学び、成分組成について研究を進めることで、そのような商品の改良ができるのではないかと考えています。

:私も、もともとは病院で勤務しようと思って入学したのですが、今はちょっと迷っているところです。管理栄養士を目指して頑張っている周囲の子や、緒方さんのようにちゃんとやりたいことが決まっている子を見て、自分のやりたいことをしっかり定めなきゃと思いました。先輩方の進路も様々だと知ったので、今はサークルやインターンなどに参加して、視野を広げようとしているところです。

管理栄養士以外にも様々な進路がある

:卒業後は、どのような道に進むのでしょうか?

:管理栄養士として働くなら、病院などの医療機関、幼稚園や小学校などの教育機関、省庁などに就職する道があります。

:管理栄養士の定員は多いんですか?

:あまり多くないと思います。一つの病院で多数の管理栄養士を雇用することは少ないと思いますし、学校も、都道府県によっては管理栄養士を必ずしも雇用する必要はないとしているところもありますから。

それに、私たちの大学ならではかもしれませんが、卒業後に管理栄養士として働く人は意外に少ないんです。食品メーカーに就職する人や、家庭科の教員になる人、研究機関で研究を続ける人もいますね。

:資格があると就職に有利になるということはあるんでしょうか?

:資格の有無による影響はあまりないのではないかと思います。私が以前フードサービス会社のインターンに参加してグループワークを行った時も、私以外の班員は全員、栄養学とは関連のない文系学部でした。栄養学を専門で学んでこなかった方が食品に関する会社を志望することもありますし、管理栄養士の資格がなくても働くことはできます。資格をちゃんと活用したければ、一般企業への就職は向かないかもしれません。

:そういう点は医学部とは異なりますね。医学部は病院への就職ありきで、それ以外の道に行く人は本当にごくわずかですからね。

 

医学生×食物栄養学科の学生
同世代のリアリティー

食物栄養学科の学生 編(後編)

サークル活動では企業とコラボもできる!

:お二人は食物栄養学に関するサークルにも所属しているそうですね。その活動についてもお聞きしたいです。

:私たちの所属する「Ochas」は、食物栄養学科ができた時にその一期生が立ち上げた、大学公認のサークルです。メンバーの大半が食物栄養学科の学生で、「食べる幸せを広げるサークル」をコンセプトに活動しています。サークル内は活動内容ごとに七つのチームに分かれており、各自が入りたいチームに入ります。

:私たちは二人ともインターナショナルチームに所属していて、主にTable for Two(TFT)の活動を行っています。具体的には、女子大生に人気の出そうなメニューを開発し、生協に提案して大学の食堂で提供してもらいます。そしてその代金のうちの20円を途上国に寄付しています。TFTは「食べる国際貢献」と言われるように、気軽さが魅力の一つだと思います。

:サークルの他のチームでは、学園祭でカフェを開いたり、お土産を考案して販売したりしています。スイーツを作って各自で持ち寄り、食べ比べをするチームもありますね。これらのチームは、企業とコラボレーションして商品開発を行ったりもしています。回転寿司チェーンや菓子メーカーなどの大きな企業もありますし、大学の近くのチョコレート屋さんとコラボしたこともあります。

:すごいですね。私は熱帯医学研究会に所属していて、文化祭では自分たちで試行錯誤して東南アジア料理の屋台を出していますが、企業の力を借りるアイデアは面白いと思いました。

:ちなみに企業側のメリットはどこにあるんでしょうか?

:大学の名前を出すことによる宣伝効果はあると思います。またマーケティングの面でも、「女子大生に何が人気なのか」を考える機会になるんじゃないでしょうか。私たちにとっては、インターンに参加しなくても企業の方と話ができる良い機会になっています。食品メーカーに就職したい人にとってはうってつけのサークルだと思います。

:商品開発に携われるって、すごく良いですね。医療業界では、学生が開発に携わることはなかなかできません。学生ならではの意見を活かして社会にアウトプットできるのは、とても羨ましいです。

医学生ももっと外との接点を持とう

:国試合格を目指す点は医学部と似ていますが、医学部より進路が多様な印象を受けました。医学部も在学中から他分野と交流を持ち、医学の専門性を活かして多様な進路に進む人が増えてもいいのかなと思います。

:部活やサークルも、基本的に医学生だけの部活がメインで、他学部の人や他大学の人と出会う機会もあまりありませんからね。もっと視野を広げないといけないなと思いました。

:栄養学にも多岐にわたる分野があり、興味深いお話ばかりでした。医療の現場でも栄養学は重要なのに、私たちが学ぶ機会はとても少ないです。今日はたくさんの学びがありました。

 

※この内容は、今回参加した学生のお話に基づくものです。