地域医療ルポ
医療に留まらないあらゆる経験を学びにつなげる

秋田県鹿角市 大里医院 大里 祐一先生

秋田県鹿角市
青森県・岩手県の県境に位置する。かつては銅や金が採掘される鉱山の町として栄えたが、1978年の閉山後は人口が半減。現在の人口は約3万人、高齢化率は39.3%にものぼる。夏でも冷涼な気候を活かし、稲作や果樹栽培、畜産などが盛ん。
先生

開業医の父の跡を継いだのは36歳の時。それからずっと、雨が降ろうと雪が降ろうと、呼ばれればいつでも患者さんのもとへ駆けつけ、診療を行ってきた。今年83歳で、いまだ現役。開業時から続けてきた日曜診療は、この4月でさすがに辞めた。ここまで相当の努力があっただろうと想像されるが、大里先生はあくまで控えめだ。

「私は当たり前のことをしてきただけで、特別褒められたものではないんですよ。ほら、よく言うでしょう? 『医者と芸者は御座敷がかかったら断っちゃいけない』って。」

東北大学医学部を卒業後、インターンと国家試験を経て、大学院に進学。内科診療に役立つ知識を得ようと、基礎医学の研究室で病理解剖を学んだ。博士号取得後は、地元に近い秋田県大館市の市立病院に赴任。臨床の最前線で昼夜なく働く毎日が続いた。すると程なくして、高校時代の恩師から「アフガニスタンに登山に行く生徒たちに同行してやってくれないか」という依頼が舞い込んだという。

「留守にするなど無理だと思いましたが、当時は医局員が多かったこともあり、教授は代理を立てて私を送り出してくれました。訪れたアフガニスタンでは大きなカルチャーショックを受け、私はすっかり異国の地に魅了されてしまいました。開業後にはパキスタンやインド、中国、ネパールなどへよく登山に出かけました。異国の気候や文化、人々の暮らしからは、多くのことを学びましたね。」

また1991年には、かつて父も務めた秋田県の県議会議員に出馬。当選後すぐに財政課を訪ね、お金の流れがどのようになっているかを勉強したという。

「議員になったことで、それまで全く知らなかった行政の仕組みを知ることができました。通算で5期務めましたが、ありがたい経験だったと感じます。」

このように、医療に留まらない幅広い経験を重ねてきた大里先生。そのためだろう、インタ
ビュー中に紡ぎ出される言葉の一つひとつから、政治や経済、社会のあり方、環境問題などに対する深い見識がにじみ出る。少子高齢化・過疎化への憂いもうかがえる。そこで、これからの未来を担う若者にはどのような心構えが必要か、聞いてみた。

「受け身でいるのではなく、自分から学ぼうという気持ちを持っていてほしいです。自ら求める気持ちがあれば、どんな人からでも学ぶことができる。現場を見たり、本を読んだりするのもいいと思います。そうやって学ぶ習慣が身につけば、きっと身近にある『宝の山』に気付けると思いますよ。」

 

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(写真左)鹿角市のほぼ中央にある花輪盆地。市の南部には八幡平を望む。
(写真中央)終始、穏やかな笑顔で質問に答える大里先生。
(写真右)尾去沢鉱山跡は観光名所になっている。