レジデントロード

【総合診療科】羽田野 貴裕先生
(奈義ファミリークリニック)-(前編)

羽田野先生

――先生が総合診療科を目指したきっかけを教えてください。

羽田野(以下、羽):幼少期、風邪を引くとかかりつけの耳鼻科にお世話になっていました。健康面で何でも相談できるこの先生のようになりたいと思ったのが、医師を目指したきっかけです。しかし、耳鼻咽喉科の最初の授業で喉頭がんの手術動画を見て、この分野は自分の描いていたイメージと少し違うなと感じました。そんななか、先輩が立ち上げたプライマリ・ケアを学ぶサークルに誘われ、サークルで招聘した東京慈恵会医科大学総合診療部の先生のお話を聴き、「自分の目指す医師像はこれだ」と気付きました。

――臨床研修はどちらに行かれましたか?

:先輩の薦めで千葉県の亀田総合病院に行きました。内科コースと地域コースがあり、私は内科コースに入りました。亀田総合病院は、厳格な科学的根拠に基づいた診療を重視する病院なので、大変勉強になりました。

――専門研修先はどのように選ばれたのですか?

:北海道から沖縄まで見学に行き、岡山家庭医療センターを選びました。ここは家族志向のプライマリ・ケアが全国的にも有名です。自分は当時、科学的根拠に基づき診察する思考には慣れてきていたものの、地域のかかりつけ医に求められるような、家族や共同体を巻き込むアプローチは少し苦手としていました。そこで、それらを学べる環境に飛び込もうと考えました。

――専門研修の様子をお聞かせください。

:岡山家庭医療センターでは、三つの診療所・地域の小規模病院・総合病院を行き来して研修します。1年目は、総合病院に勤務しつつ、週に1日診療所研修を行いました。2年目の今年は、半日単位で診療所や病院を移動するローテーションをこなしています。当初は、亀田で学んだことがここで通用しないことがあり、戸惑いを覚えました。亀田には厳格で完璧な診療を可能にする人的・物的リソースがたくさんありましたが、ここではリソースが足りません。異なった環境に悩みながらも、そのなかに新しい発見や気付きもあり、今では当センターに来て良かったなと思っています。

――総合診療の「専門性」とは何でしょうか。

:一言で言い表すことは難しいですが、一つには、総合診療は「複雑系」を扱う分野だと思います。例えば、肝臓の数値が悪い人に薬を処方するとします。でも、患者さんが治療に意欲的でなく、経済的にも余裕がないなどの困難を抱えていることがあります。そんな時、社会的資源はあるか、周囲にサポートしてくれる人はいるか、といった要素を書き込んだマップを作り、多職種で知恵を出し合って対応を考えます。

総合診療医は、簡単には答えの見つからない問題に悩みながらも、様々な知識をブラッシュアップしていくことで、少しずつ総合的に診る力を養っていくのだと思います。私は今、ある難病の患者さんを診ています。その方が急変して病院に入院された時は、迅速に対応しすぐに元気になられたのですが、退院後自宅へ戻られると、また調子を悪くされました。その背景には、入院中には気付けなかった生活での問題点や、家族関係の難しさがあることがわかり、今も関わり方に悩みながら診療しています。自分がこの難病の専門家だったら良かったのに、と思ってしまうこともあります。しかし、あくまで総合診療医として患者さんに寄り添うことが 自分の理想の医療につながると信じて、日々模索しています。