医学教育の中で
「他者」と「学び合う」ための仕掛け

医学教育の現場では昨今、医学生の学びを「個人の頭の中」から「状況の中での他者との学び合い」へと開いていくために、様々な改革や工夫が行われています。

「課題」という状況の中で、他者と学び合う

近年、医学教育には、卒前教育・卒後教育ともに大きな変革の波が訪れています。医学は日々急速に発展しており、医学生の間に身につけなければならない知識はますます膨大になっています。また、社会が複雑化するなか、医療や医師に求められる役割も大きく変化しています。こうした医療や社会の変化に対応していくため、医学教育も時代に合わせて改革していく必要があります。

従来の医学教育では、科目別・臓器別に分け、基礎から応用まで座学で少しずつ知識を与えて、「正解」にたどり着けるかどうかを試験によって判断する、という方法がとられてきました。しかし、実際に医師になって現場に出ると、目の前の患者さんが何という疾患で、どのような治療が適切か、様々な情報を集めながら判断しなければなりません。明確な「正解」がわからないなか、周囲の医師や多職種と協働して、より良い選択を探っていく姿勢が求められます。そのような姿勢を医学生のうちから身につけてもらうため、現在の医学教育は「知識の伝授」から「状況の中の学び」へ、あるいは「個人の勉強」から「他者との学び合い」へと少しずつ変化しています。

現在、医学教育の様々なところに、実践の中で学ぶための仕掛けが施されています。現在多くの大学で取り入れられている「課題基盤型学習(Problem-based learning, PBL)」や、近年PBLに代わる新たな教育方法として注目が集まっている「チーム基盤型学習(Team-based learning, TBL)」などはその好例でしょう。また、従来は見学にとどまることが多かった臨床実習を、より充実させようという試みも行われています。例えば、医学教育モデル・コア・カリキュラムには、診療参加型臨床実習の充実が明記されるようになっています。そして現在、卒前の臨床実習と卒後の臨床研修の一貫性を高めようという改革も進んでいます。臨床実習と臨床研修をシームレスにつなぐことで、より診療に深く参加しながら学べるようになることが期待されているのです。

他者と出会い、他者を知る

医学生の間も、医師になってからも、皆さんには実践の場で、他者と関わりながら学び合っていくことが求められています。ところで、医師になって、臨床の場で働くとき、皆さんは誰と学び合うことになるのでしょうか? 真っ先に思い浮かぶのは、医局や所属機関の同期、上級医や先輩といった人たちでしょう。しかし「他者」はそれだけではありません。日々相対する患者さん、同じチームで働く多職種なども「他者」です。患者さんを中心として、その患者さんにとって最良の形で医療を提供できるように、様々な人と知恵を絞り協力し合う、その過程そのものが、患者さんも含めたチーム全員の「学び」になるはずなのです。

医師同士では、「師匠と弟子」という徒弟制的な関係を築きながら学び合っていくことが、比較的容易に想像できるかもしれません。しかし、患者さんや多職種とはどうでしょうか。医師が単に「指示を出す人」として振る舞い、一方的な関係を構築してしまうと、学び合いは生じにくくなってしまいます。より良く学び、患者さんにより良い医療を提供していくためには、自分の意見と相手の意見が同じ重みを持つものとして対話する、つまり、他者を尊重する姿勢が必要です。

では、他者を尊重する姿勢は、どのように身につけていけば良いのでしょうか。次のページからは、他者と学び合い、現在は医学教育やマネジメントの分野に関心を持って活動している2名の医師へのインタビューを掲載しています。お二人は、他者と学び合うために重要なのは、「他者と出会い、他者を知る」ことだと言います。医師としてのこれまでの経験や取り組みを振り返りながら、「他者を知る」について語っていただきました。

 

 

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