地域医療ルポ
死と向き合い、その先の未来を考える

神奈川県横須賀市 三輪医院 千場 純先生

神奈川県横須賀市
かねてより港町として栄え、黒船来航以降海防拠点として発展。現在も国防機能が集積する。2001年には中核市に指定されたが、近年は人口減少が続き高齢化率も30%台に。在宅療養を推進し、独自指標「地域看取り率」のもと数々の取り組みを行う。
先生

「臨床医はみんな、患者さんからメッセージを受け取っています。私の場合『どんなに具合が悪くても家に帰りたい』という思いを受け取ることが多かった。その希望に応えるうち、自然と在宅医療に力を入れるようになり、今に至ります。患者さんに導かれたとも言えますね。」

リウマチの専門医として病院での在宅医療に取り組んでいた2001年、三輪医院の前院長から声がかかり、副院長に就任。もともと開業する気はなかったが、在宅医療のニーズが高いこの地域に根を下ろすことになった。それからというもの、千人以上の在宅看取りを行ってきた。

死にゆく患者さんとどう向き合うか。医学部でも臨床でも、「死」について体系的に学ぶ機会はない。かつて、死の意味を考えることは医療とは切り離されていたが、今後はそうもいかないだろうと千場先生は言う。

「多死社会に向けて、医師の役割は、生物学的な生死を判断し、生き続けられるよう力を尽くすだけでは足りなくなりつつあります。これからは医師も、死の意味を哲学的に考えたり、あるいは死生観について考えたりして、この世とあの世の橋渡しができないと、患者さんと本当の意味で向き合うことはできないのではないでしょうか。死というものをどう考え、どう捉えるか。これは、医師になってからも続く大きなテーマです。私自身も患者さんの死を通じて、死の意味や、医師としての使命をとにかく考えさせられました。在宅医療は特に、そういう患者さんにたくさん出会える場なのではないかと思います。」

さらに千場先生は、地域住民の交流の場として「しろいにじの家」を運営し、研修会や読み聞かせ、コンサートなど、様々なイベントを行っている。

「ただ在宅医療を行うだけではない、もう一つ先の使命があります。それは、地域包括ケアや在宅看取り、認知症のことなどを、多くの地域住民に理解してもらい、それを受け入れられる地域社会を作っていくことです。究極的には、診療所があることで、その地域の幸福度が上がるような形にできたら一番良いですよね。

幸い、私と同じような問題意識を持つ40〜50代の医師がたくさんいます。この先生方が20年後の地域社会を作り、さらに20年後を今の学生さんたちの世代が担うことになるでしょう。その頃に、地域医療のあり方や医師のミッションがどう変わっているかはわかりません。だからこそ、その未来を自分たちのものとしてイメージし、何をすべきか、何ができるかを考えられる医師になってほしいですね。」

 

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(写真左)高度経済成長の時代に開かれた住宅街の中に三輪医院はある。
(写真中央)外観。玄関前には季節の植物が植えられる。
(写真右)横須賀港は観光地としても名高い。