地域医療ルポ
病院のない離島で、できる限りのことを引き受ける
広島県豊田郡大崎上島町 ときや内科 釈舎 龍三先生
瀬戸内海の中央、芸予諸島の一つ。柑橘類の栽培や造船業が盛んで、瀬戸内海国立公園の一部である神峰山は景勝地としても有名。高齢化率は47%を超えており、町は在宅医療推進会議を設置して、医療と介護等関係分野の連携強化に取り組んでいる。
広島県沿岸部のほぼ中央、瀬戸内海に面した竹原港から、高速船は穏やかな海をぐんぐん進む。大崎上島の港をいくつか経由しながら海上を走ること約30分、沖浦港に到着。ときや内科はすぐそこだ。
白を基調とした待合室は、明るく清潔感がある。奥を見せてもらうと、CTや内視鏡、骨密度測定装置など、様々な医療機器が並ぶ。4~5名の看護師が絶えず行き来し、処置を行う。2階にある病床は今は使われていないが、その様子は診療所というより、最小限の機能を揃えたコンパクトな病院のようだ。
「この島には大きな病院はありません。橋もないので、本土の病院まで患者さんを搬送するには、救急車と救急艇を乗り継ぐ必要があります。そういう立地ですから、できるだけ医療を島内で完結できるように、かつ緊急の際には必要な検査をしてから送れるように、設備の充実には力を入れてきました。」
昭和42年、祖父はこの地に小さな病院を開いた。島にはまだ水道がなく、井戸水を使うためにみかん畑を買い取ったという。その三代目となる釈舎先生にとって、医業を継ぐことは宿命だった。33歳で島に戻ってからは、父と共に診療を行いながら、必要なスキルを身につけてきた。高齢化率が非常に高く、近年では在宅医療や看取りのニーズも高い。できる限りのことは引き受けつつ、難しい場合は潔く病院に送るのが、地域医療においては肝要だと釈舎先生は言う。
「近年はドクターヘリが飛ぶようになり、ずいぶん助かっています。しかし、それでも夜間や悪天候時には対応することができません。そこで当診療所では、看護師に夜間当直をしてもらい、すぐに送れない場合でも一晩様子を見られるようにしています。また、日頃からカルテは紹介状の形式でまとめ、少し情報を書き足すだけで紹介できるように工夫しています。」
多くの医学生は、島で働くことをイメージできないかもしれない。ただ、少しでも地域医療に興味があれば考えてほしいことがある、と釈舎先生。
「医師を続けるうえで、パートナーの理解、子どもの教育、そして親の介護は、きっと多くの人が考えなければならなくなることだと思います。特に地域医療に携わるうえでは、それらとの両立が難しくなる局面も来るかもしれない。だからこそ、自分が人生で何を大事にしたいのかを、早いうちから考えてほしいです。医師としての長期的なビジョンを描き、そのためにはどんなスキルを身につけるべきかを考えたうえで、自分なりの進路を見つけてほしいですね。」
(写真中央)CTなど様々な医療機器が揃っている。
(写真右)待合室は吹き抜けで、日の光が差し込む。
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