レジデントロード

番外編 特殊な使命を持つ大学の卒業生に聴く
【産業医科大学】田渕 翔大先生
(三菱日立パワーシステムズ株式会社 呉工場 
専属産業医)-(前編)

勝矢先生

――まずは、先生の現在の仕事内容を教えてください。

田渕(以下、田):私は今、三菱日立パワーシステムズ株式会社の呉工場に専属産業医*1として勤めています。産業医は私一人で、他に公認心理師、保健師、看護師というチームで業務にあたっています。主な業務は社員との面談と就業判定、健診の結果の確認、各種会議への参加です。安全担当者や現場の職員と共に行う職場巡視や、年に数回の集団教育にも注力しています。

最近は新たに、40歳未満を対象とした保健指導を開始し、より早期から様々な疾病の未然防止ができるよう図っています。また、管理監督者への教育を強化して事業所全体の健康増進体制を整えたことで、社員が早期から部下の健康状態などの相談に来る事例も増えました。さらに、三菱重工グループ全体の健康管理体制も強化されました。各分野のワーキンググループが作られ、私は健康経営ワーキンググループとして、健康保険組合も交え、健康管理計画や評価指標を協議・検討しています。

――産業医大は日本で唯一産業医学を学べる大学ですが、印象的だった授業はありますか?

:2年生では、企業で産業医として勤務する先生方に、日々の仕事について話をしていただく講義がありました。産業医と一口に言っても経歴や経験は様々で、印象深かったです。

また、産業医大には10以上もの産業医学関連の研究室があり、各分野の専門家が揃っています。3年生の基礎研究室配属の際にはそれらの研究室も選ぶことができ、専門的な指導を密に受けることができます。私は産業保健管理学研究室を選びました。熱中症や騒音関係の研究が盛んなところで、人を対象として実験を行い、暑熱環境下での運動負荷による身体の生理的反応や、騒音環境下での語音の識別能を調べたりしていました。研究の傍ら、研究室所属の先生方の職場巡視についていくこともでき、「研究と現場での実践を結び付ける」という働き方を間近で見た貴重な経験だったと感じます。

5年生の臨床実習期間中には、卒業生が勤務する事業所を1週間見学する機会が設けられており、私は関東の製鉄工場に行きました。工場内は暑熱環境や騒音曝露が著しく、各種有害物質も多数使用されていました。そのような環境のなか、職場巡視をして危険な箇所や有害事象を指摘し、リスクを減らして労働者の健康を守るという産業医の仕事を間近で見ることができました。健康診断などの様子も見せていただき、産業医が従業員からとても頼りにされていると感じたことも印象的でした。

実習などを通じて、適切な知識があれば防ぎうる病に苦しむ患者さんと多く接し、就労年代に予防的にアプローチすることの重要性を強く実感しました。

――臨床研修後はすぐ、産業医の経験を積み始めたのですね。

:はい。3年目には、卒業生が勤務する企業の専属産業医として1年間働くことになっており、私はJR東海に赴任しました。安全衛生委員会に参加し、テーマを決めて医療情報を提供したり、週1回の健診やその結果を受けての面談・就業判定を行いました。また、50人以上の事業所を数か所担当し、月に一度ずつ職場巡視も行いました。

4~5年目は大学の医局に所属して座学や研究に勤しみつつ、週2~3日ほど嘱託産業医*2としても活動します。専属産業医を選任している大企業では、産業保健体制が整っており人手もありますが、嘱託産業医の場合は、事業所によっては体制を自力で一から作らなければならない場合もあります。3年目に指導医のもとで培った知識を4~5年目で実践する形になります。

 

*1専属産業医…事業場に所属する常勤の産業医。法令により、常時50人以上の労働者を使用する事業者は産業医の選任義務が課せられる。そのうち、事業場の規模が1,000人以上の場合は1人以上、3,001人以上の場合は2人以上の専属産業医の選任が必要。

*2嘱託産業医…非常勤の産業医。事業場の規模が50人以上1,000人未満の場合、産業医の選任形態は嘱託でよいとされている(労働安全衛生規則に定める有害業務に労働者を常時500人以上従事させる事業場では専属産業医の選任が必要)。