これからの医師に求められるのは、
人の話を聴く心構え
~整形外科医 堀井 恵美子先生~(前編)

今回は、外科系に女性医師が少なかった時代からキャリアを積み重ねてこられた堀井先生に、これまでの歩みや、医師の働き方改革についてのお考えを伺いました。

出会いに恵まれた医師人生

小出(以下、小):堀井先生は私の三男の主治医でした。先生の真摯な診療姿勢に患者家族として救われた私は、以後、医師として診療を続けることの素晴らしさを、堀井先生を見て感じています。

近年は高校の成績が良いからと医学部に入る人も多いですが、医師になる資質は成績だけではないと思うのです。先生の姿勢を通じて、医学生や若手医師に医師という仕事を改めて考えてもらうとともに、気持ちを途切れさせず責任を持って仕事を続ける医師の模範になればと思い、今回先生にお話を伺うことにしました。

先生はどのように医師という職業を選ばれたのでしょうか?

堀井(以下、堀):医師の家系の人が医学部に行くことはよくありますが、私の親戚には大学に行く人さえもいませんでした。医学部を志したのは高校3年生の時です。当初は内科を志望していましたが、だんだん整形外科に面白さを感じ、また学生の頃に肢体不自由児の施設でボランティアをしたことも影響して、整形外科に進むことにしました。医師になった後に母から聞いたのですが、私は幼い頃から「肢体不自由の子どものための施設で働きたい」と話していたそうです。結果的に幼い頃考えていた道を選んでいたのですね。

診療ではできるだけ「患者サイド」に立とうと心がけてきました。「医療サイド」の話は患者さんには伝わりませんからね。しかし長く医師をしていると、どうしても医療サイドに立ちやすくなります。そういうときは家族や昔の友人に指摘してもらうようにしています。

:女性医師が少ない時代、ご苦労も多いなかで、先生が現在まで整形外科医を続けてこられたのはなぜでしょうか?

:まず整形外科が興味深い、ということが大きいですね。40年続けても初めて出会う手術があるぐらい、奥深い分野です。

そして私は人に恵まれました。特にコメディカルの方々にはとてもお世話になりました。女性医師の少ないなか、看護師や理学療法士、作業療法士、臨床検査技師などが、友人として助けてくれました。それに研修医の頃などは、医師の私よりコメディカルの方々のほうが多くのことを知っていますから、彼らは私の先生になりました。当時の方々とは、今でも年に数回食事をする関係が続いています。

:キャリアの面で転機になった出来事はありますか?

:留学が大きいですね。留学先の研究室で責任ある仕事を任され、大変でしたがやりがいを感じました。その経験によって、指導的なものの見方を培うことができたと思います。

留学中に見た他国の女性医師の姿も印象に残っています。今でも日本の女性は女性というだけで、一歩引いてしまうところがありますよね。教育など多様な要因があるので簡単には変わらないかもしれませんが、一歩踏み出してみることも大事だと思います。留学中に出会った中国や韓国の女性はアピールが上手でした。彼女たちは「あれもできます!」「これもできます!」とアピールしていました。自分ができることをアピールすれば道は開けてくるということを、彼女たちから学びました。

:先生の今後の展望についてお聞かせください。

:一度定年した身ですが、ありがたいことにお声がけをいただき、今は関西医科大学で働いています。しかし、ここには私の専門である手外科の設備が全くなかったので、それを整えるところから始めました。大変ではありますが、色々な患者さんに対応できるようにしたいという学長の思いに応えられるよう、頑張りたいと思います。


 

やりがいを感じられる働き方を

:現在、医療業界は働き方改革の過渡期にあると思います。様々な取り組みによって働き方が楽になる一方で、キャリアが積みにくくなると危惧する声もあります。実際、若手医師や女子学生と話してみると、「どんな状況になろうとも医師を続けていくこと」に自信がないとの声も聞かれます。大変な時期を乗り越えながら医師を続けていく方法について、先生はどうお考えですか?

:日本手外科学会や日本整形外科学会では、横のつながりを育てる活動を行っています。同じ境遇の女性医師が各地で頑張っていることを知るだけでも元気が出ますし、情報交換ができればなお良いと思っています。

また、指導医や部長クラスへの啓発活動も行っています。職場の理解は、働き方の多様性を保つために最も大切ですからね。これまで、出産・育児だけでなく、介護や自身の病気で職場を離れざるを得なかった医師は、男女問わず職場に復帰しにくい状況がありました。ようやく近年、専門医資格の取得・更新の要件に中断期間の扱いが明記されるなど、風向きが変わってきました。

:この数年で、部長クラスの理解も徐々に進んできていると感じます。育休明けの女性医師に外来を担当してもらうなど、様々な働き方を許容する病院も増えてきていますよね。

:ええ。それ自体は良いことですが、外科系は手術があるため、独特の難しさがあると思います。がんやリハビリの専門医として外来で復帰するという選択肢もありますが、手術のできる外科医として働き続けられる支援も必要だと思います。

結局、様々な医師が様々な形で働くことのできる個別的な支援が重要だと感じますね。あらゆる医師が、働くなかで患者さんからもらう喜びを享受し、医師としてのやりがいを感じられる職場環境にすることがベストだと思います。「人の命がかかっているから」と、医療者を追い詰めることだけはないように、と思います。