医学生の皆さんへ

医学生に期待する役割

東京都医師会 会長 尾﨑 治夫先生

医学生の人たちに期待しているのは、同世代の若い人たちに向けて、正しい情報を広めてもらうことです。

一般の方々、特に若い人たちの中には、「インフルエンザだけで、日本国内でも毎年1万人が亡くなっているのに、それより死者がずっと少ない新型コロナウイルス感染症でなぜこれほど大騒ぎになっているのだ」と疑問に思っている人もいると思います。

確かに、この感染症は、若い人がかかってもあまり重症化することはありません。そのため、感染リスクを気にせず活発に行動している人もいるかもしれません。しかし、自分はたとえ軽症で済んだとしても、おじいちゃんおばあちゃん世代や家族の人たちに感染させてしまうかもしれないのです。

また、症状もインフルエンザとCOVID-19ではかなり違いがあります。インフルエンザであれば、抗ウイルス薬を服用して1~2日で治ります。しかし、COVID-19にかかると、人工呼吸器の装着を必要としない「中程度の症状」で済んだとしても、かなり苦しい思いをすることになります。そして何より、この病気には治療法もワクチンもありません。

医学生の皆さんは、このような状況についてリテラシーや理解力が高いはずです。医学部以外の道に進んだ同級生や友人などに、この感染症の注意点や対策についてぜひ注意喚起を呼びかけてほしいと思います。

 

感染症の専門家を目指す人たちへ

国立国際医療研究センター 国際感染症センター 
国際感染症対策室医長 忽那 賢志先生

今回の新型コロナウイルス感染症の流行を通じて、感染症分野に興味を持つ医学生や若手医師は増えたのでしょうか。それとも減ったのでしょうか。感染症の専門家は非常に人数が少ないので、この道に進む若い人たちがもっと増えたら大変嬉しく思います。

感染症の専門家と一口に言っても、今回のような新興・再興感染症の治療や感染対策はもちろん、抗菌薬の適正使用の問題やワクチン、疫学など、感染症にまつわる専門性は、実に様々な分野に広がっています。北海道大学の西浦先生のように、感染症数理モデルを扱うこともできます。感染症学は純粋な「学問」として見ても、非常に面白いものだと思うのです。

感染症分野に興味を持ったけれど、どのようにして専門性を身につけていけば良いかわからない…という人もいるでしょう。通っている大学に感染症専門の医局があればいいのですが、感染症科や感染症内科が設置されている大学病院は多くありません。感染症は内科疾患ですから、まずは内科疾患をじっくり学び、その後大きな感染症専門施設で2~3年ほどじっくり修業するなどして、感染症の専門性を身につけると良いと思います。また、日本感染症学会のサマースクールや、IDATEN(日本感染症教育研究会)のセミナーなど、若手医師向けに短期間で感染症について学べるイベントも定期的に開催されています。感染症分野に興味のある方は、ぜひそうした機会も利用してみてください。

 

新興感染症の流行に際して、医学生にできること

国立保健医療科学院 健康危機管理研究部 部長 齋藤 智也先生

このような大規模な感染症の流行を前に、医学生の自分に何ができるのかと悩む人は多いかもしれません。しかし、学生なりにできること、やらなければならないことはたくさんあります。今回は実際に、自分にできることを考え、自主的に活動する医学生の姿を多く見ました。

例えば今回、厚生労働省クラスター対策班ではデータ分析のための情報整理のボランティアチームを募集したのですが、社会人やデータサイエンス系の大学院生に交じって、医学生も参加してくれました。またそれ以外にも学生実習にあたっての感染対策ガイドを作成した人や、身近な人たちに向けて感染対策をわかりやすく伝える動画をYouTubeで発信した人など、様々な場面で医学生の活躍を目にしました。

今後は特に、「新しい生活様式」のもと、感染対策をしながら生活していく具体的な方法を多くの人と考えていかなければなりません。医学生の皆さんには、身近な人たちと一緒に方法を考え、広める役割を果たしてくれることを期待しています。

そうした経験を通じて、感染症や危機管理の専門家を目指したいと思った人がいれば、臨床感染症、疫学、データサイエンス、政策科学、あるいはコミュニケーション能力でも何でもいいので、「これだけは誰にも負けない」といえるスキルを一つでも身につけてみるといいと思います。

 

「思い通りにならない」他者や社会と向き合う

沖縄県立中部病院 感染症内科・地域ケア科 副部長 
高山 義浩先生

大規模な感染症の流行に対峙するときは、「医療の論理」だけを振りかざしても地域の協力は得られません。例えば沖縄では、6月下旬に県をまたぐ移動を全面的に解禁し、観光客の受け入れを推進しています。県民の生活や経済を成り立たせつつ、人々の健康を守っていくという、難しい方程式を解かなければならない局面に来ているのです。

私はかつて途上国の現場で支援活動に参加したり、また、政府や自治体の公務員として勤務したこともあります。多様な経験が「医療の論理」だけでは通用しない地域や社会との向き合い方を教えてくれました。

人生もしかり、なかなか思い通りにはいきません。「こんな医師になりたい!」など、夢を描くことはモチベーションを維持するうえで必要ですが、それにしがみつかないこと。なぜなら、皆さんの仕事の対象は、気まぐれな人間であり、思い通りにならない社会だからです。思い通りにならないのなら、せめて必要とされるところで仕事ができることが幸せな生き方だと私は思います。だからこそ、「あなたが必要だ」と言ってもらえるように日々努力し、自分に何ができるのかを日々発信することです。そして、与えられたチャンスに真正面で向き合い、掴み取るかを直観で判断すること。直観が働かないときは、尊敬する人に相談すること。それでも判断に悩んだら、家族にとって良いことを優先すること。学生のうちに、尊敬する年配のロールモデルを最低でも一人作っておくことをお勧めします。

 

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