小児トータルケアセンター(前編)

これから医師になる皆さんは、どの医療現場で働いても、チーム医療を担う一員となるでしょう。本連載では、様々なチームで働く医療職をシリーズで紹介しています。今回は、三重大学医学部附属病院の小児トータルケアセンターについて、副センター長であり小児看護専門看護師の河俣さんにお話を伺いました。

切れ目のない支援を

――まず、小児トータルケアセンターについて教えてください。

河俣(以下、河):「療養を必要とする子どもたちの生活を保障して、質を上げていく」という活動方針のもと、様々な職種と連携して、子どもとご家族を支援する体制づくりをしています。対象は、当院の病棟に入院する子どもや外来に通う子どもに加え、在宅療養中の子どもなど、当院に関わる子ども全員です。当院は県内唯一の大学病院なので、外科手術を必要とする子どもや小児がんの子どもなど、重症度が高い子どもたちが集まります。そうした子どもたちを、入院から外来、そして在宅まで切れ目なく支援できるよう、それぞれの間をつなぐ役割をしています。

具体的には、外来・在宅におけるケアの実践、関係各所からの相談対応と調整業務、県内の小児医療に関わる多職種の教育の三つが主な業務です。

チームで多面的に支援する

――センター内での多職種の役割分担はどのようになっていますか?

:医師は専属で2名います。1名は小児がんの専門で、在宅移行後の終末期ケアにも取り組んでいます。もう1名はNICU(新生児集中治療室)を専門としており、NICUから外来・在宅への接続を主に担当しています。看護師は私も含めて4名おり、訪問看護の実践、各自の専門性を活かした相談活動、訪問看護ステーション・保健師・福祉関係者などとの連携、小児がん治療後のフォローアップも行っています。

また、行政との連携や研修会などの教育活動の開催事務を担う専属の事務員、福祉サービスの紹介や相談・連携窓口を担う小児に特化した医療ソーシャルワーカーのほか、子どもやご家族の支援をする臨床心理士もいます。さらに、子どもの発達やストレスへの対処に関する専門的な知識を持ち、様々な支援を行うチャイルド・ライフ・スペシャリストが3名、病棟や外来で活動しています。

小児が療養するうえで、身体的なことだけでなく、心理的・社会的にも成長・発達を支えるチームとして活動できることが、当センターの強みだと思います。

院内外での連携

――院内では各職種はどのようにコミュニケーションをとっているのでしょうか?

:センター内で各職種は適宜情報共有をしていますが、毎週1回は必ず、医師・看護師・事務員・医療ソーシャルワーカーによるディスカッションを行っています。また月1回、院内の小児に関わる多職種20名ほどが集まり、ケースカンファレンスや県内の小児医療に関する情報交換などを行っています。

――院外との連携はどのように行っていますか?

:小児がんの子どもや人工呼吸器を付けた子どもを自宅で看るには、訪問看護をはじめ、福祉計画を立てる方、福祉サービスを導入する方、薬局の方など、地域の多職種の力が不可欠です。そうした方々からの相談を受けたり、実際に一緒にケアに入ったりして日々の関係性を構築することも、当センターの大きな役割です。

そもそもこのセンターが立ち上がったきっかけは、10年ほど前、小児がんの子どもからの「家に帰りたい」という要望を受け、在宅看取りの支援を行ったことでした。また当時から、人工呼吸器を付けた子どもがNICUに停滞してしまう問題もあったため、その子どもたちを在宅に帰す支援も始めました。活動を開始した当初は人工呼吸器を付けた子どもを看られる訪問看護ステーションも少なく苦労しましたが、まずは病院のスタッフが一緒に訪問し、モデルになるよう努めたところ、徐々に対応できるところが増えてきています。

小児療養の理想の形は、小児在宅に関わる全ての職種が患児の自宅に集まって、親御さんの前でディスカッションができることだと考えています。現在の形になるまで長い道のりでしたが、近年は社会全体の後押しを感じます。当センターは医師がセンター長ということもあり、院内にも意見が届きやすいですし、病院外のたくさんの方々のご協力もあって、活動しやすい体制を作ることができています。

三重大学医学部附属病院・小児トータルケアセンターの皆さん

写真前列左から、井倉千佳さん(看護師)、末藤美貴さん(看護師)、河俣あゆみさん(副センター長・小児看護専門看護師)、仲野里美さん(看護師)

写真後列左から、淀谷典子先生(小児科医師)、岩永貴子さん(事務員)、坂本由香さん(事務員)、富田稚菜さん(医療ソーシャルワーカー)、岩本彰太郎先生(センター長・小児科医師)

 

小児トータルケアセンター(後編)

コーディネーターの心掛け

――地域の多職種をコーディネートするうえで、注意していることはありますか?

:まずはその職種の専門性を理解することですね。専門性を十分に発揮していただくために、必要な情報を確実に伝えるよう気を付けています。また、「子どものために知恵を借りる」という姿勢を意識しています。私たちがやりたいことのために動いてもらうのでなく、子どもにとっての最善を考えるのです。その際、どのくらいまでなら可能なのかを尋ねることも大切です。無理難題を言ってもいけませんが、こちらの働きかけ方次第では前例のない支援をしていただけることもあります。実際、在宅で人工呼吸器を付けた子どもを看ている親御さんの状況をお話ししたところ、これまで訪問の経験のない薬局さんが「やってみましょう」と手を挙げてくださった事例もありました。

人の痛みがわかる医師に

――最後に、医学生へのメッセージをお願いいたします。

:小児医療のやりがいは、子どものダイナミックな力を感じられることです。病院から自宅に帰ると、子どもの表情は全く変わります。家族の愛情を受けて育つとはこういうことなんだと感じます。親御さんが子どもと暮らせることに幸せを感じてくださることも医療者の喜びになりますし、保育園や幼稚園、学校など、子どもの生活を支える多くの人のエネルギーに励まされることも、小児医療ならではの魅力ですね。

患者さんの視点に立つことができる医師は、どの人からも一目置かれます。病気の治療はもちろんですが、様々な人の意見を聴ける柔軟性とコミュニケーション能力を身につければ、きっとチームの力になるでしょう。例えば、小児医療ではご家族の話に耳を傾けることは大前提ですが、子どもが成長していくうえで関わる人は他にもいるので、その思いや意見には特にアンテナを張ってほしいですね。

医学生の皆さんには、勉強以外にも様々なことを経験して感受性を磨き、人の痛みがわかる医師になってほしいと思います。

 

医療的ケア児と家族に寄り添う医師として

センター長 岩本 彰太郎先生

新生児・小児医療の飛躍的な進歩により、以前では助からなかった命がつながり、その子らしい人生を踏み出すことができる時代になってきました。一方で、依然として病を克服できず、短い生涯を終える子どももいれば、人工呼吸器などの医療的ケアを必要としながら在宅で過ごす子ども(医療的ケア児)もいます。

医療的ケアは、酸素・経管栄養・気管切開・人工呼吸器・人工肛門・腹膜透析など、日常生活に必要な医療的な生活支援行為で、保護者が医師より指導を受けて家庭で行う行為を指します。当センターは、こうした医療的ケア児と家族を支える多職種チームです。海外にも、終末期医療を必要とするがんの子どもと家族の在宅生活を多職種で支えるチームがあり、米国のPediatric advanced care teamや英国のPediatric oncology outreach nurse specialistsはとても有名です。

私どもが支援する子どもの多くは、どんなに苦しい状況にあっても、家族と共に、希望をつなぎ、生き抜く姿を見せてくれます。時には、様々な痛みで顔を歪ませることもありますが、飛び切りの笑顔で周囲を明るくもしてくれます。

医師として、こうした子どもから実に多くを学びます。おそらく医学生の皆さんが思い描く小児医療とは、まったく異なるものだと思います。ぜひ、興味があれば当センターにお立ち寄りください。いつでも大歓迎です。

 

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