レジデントロード

番外編 臨床以外の道に進んだ先輩に聴く
【医系技官】石橋 七生先生
(環境省大臣官房環境保健部環境安全課)-(前編)

石橋先生

――まず、医学部に入学された理由をお聴かせください。

石橋(以下、石):高校生の頃、「将来は社会の役に立つ仕事がしたい」と思い、進路について様々に検討しました。そのなかで、医師というとても身近な、かつ人の命を預かるという仕事に魅力を感じたんです。

――医系技官を目指そうと思ったきっかけは何でしたか?

:小・中学生の頃は海外に住んでいたのですが、格差も激しく、道を歩けば物乞いの人がいるといった光景を目の当たりにしました。それを通じて医療の社会的背景や課題に着目するようになり、漠然と「国際保健」という分野に関心を持つようになりました。

医学部に入ってからは、国際保健に関わるにはどのような道があるのか色々と情報を集めました。ネパールで医療支援活動をされている方のところで勉強し、実際にネパールでの活動に参加もしてみました。そうするうち、「国際的な支援も重要だけれど、日本にも医療体制に課題がある地域や、支援が必要な人たちがいる」と考えるようになり、まずはより身近なところから関わっていきたいと、医系技官を意識するようになったのです。また、医系技官になれば、WHOなどの国際機関に出向して国際保健に携わる道筋もできると考えました。

――医系技官以外の道に進むことも視野に入れていましたか?

:はい。やはり、臨床の道に進むかどうかで迷いました。また、地方の大学にいたことから、医系技官の仕事についての十分な情報が入ってこなかった点でもためらいは感じました。

本格的に医系技官を目指そうと決意したのは臨床研修中です。「病院では、病院に来た人にしか関わることができない」と実感し、「自分は病院に来る前の生活や、それに関わる保健医療政策を良くする仕事に携わりたい」という思いが強くなったんです。「医系技官の仕事の具体的なイメージがつかめないなら、とりあえず働いてみればいい。もし働いてみて合わなかったらもう一度臨床に戻ろう」と考え、採用試験を受けることにしました。幸い仕事は非常に楽しく、このまま医系技官としてキャリアを重ねていこうと考えています。

――入職後の歩みや仕事のやりがいについてお聴かせください。

:最初の2年間は厚生労働省の国際課に配属され、WHOなどの国際機関やG7・G20などの国際会議の連絡窓口と省内の取りまとめを担当しました。具体的には、国際会議の場で上司や自分自身が日本を代表して発言するので、その議題を総括して資料を用意したり、省内の担当部署と調整しながら発言する内容を取りまとめたりします。自分の用意した原稿が、日本を代表する発言として国際的な場で発表されることには、非常に責任とやりがいを感じました。

大変だったことは、日本の現状を他国に正確に説明する部分です。社会システムも文化背景も異なる国に、こちらの「当たり前」をわかりやすく伝えるのは意外と難しいことでした。

3年目からは環境省に出向となり、熱中症や紫外線、内分泌撹乱物質など「環境から人の健康に影響を与えるもの」に関する影響の評価や普及啓発を行っています。熱中症などの社会的に非常に関心が高い分野について、最新の情報を広く啓発できる点にやりがいを感じます。

 

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番外編 臨床以外の道に進んだ先輩に聴く
【医系技官】石橋 七生先生
(環境省大臣官房環境保健部環境安全課)-(後編)

――医系技官ならではの特殊な仕事があるのでしょうか?

:医系技官も、入職してみれば他の職員と同じデスクワークです。仕事は職種ではなく役職やポストに結びついており、「医系技官が就くことが多いポスト」はあるものの、何か特別な「医系技官の仕事」があるわけではありません。医系技官の存在意義は、「臨床経験があり、医療現場と強い関わりがある人間が、制度を作る側にいる」という部分にあると感じています。

また、厚労省内では医療の重要性や医療現場の事情などはかなり共有されていますが、他省庁ではそうではありません。他省庁に出向したときに、医療寄りの立場から発言できることにも、医系技官であることの意義があるのではないかと思います。

――最後に医学生へのメッセージをお願いします。

:行政の仕事は数年という長いスパンで物事が動いていきますが、職員は2年前後で異動になるため、一つの物事に最初から最後まで関われることはほとんどありません。そうしたなかでも、常に俯瞰的な視点に立ち、目的を見失わずにいられるような人が、医系技官に向いていると思います。また、異動先の部署によって仕事内容が大きく異なってくるため、興味関心の幅が広いとより良いと思います。

医学部の学生さんはほとんどが臨床の道に進みますし、私たちの仕事は現場があってのものですから、「多くの人に医系技官を目指してほしい」とはあまり思いません。ただ、医療は生活や社会と密着していますから、どのような道に進んでも、自分の専門だけではなく、公衆衛生や医療の社会的側面など、広い視野を持ち続けてほしいと思います。その過程でもし、公衆衛生や制度作りの分野に興味があると感じたら、ぜひ医系技官を目指していただきたいですね。

 

医学部卒業2015年
鹿児島大学医学部 卒業
卒後1年目 麻生飯塚病院
臨床研修
学生時代、現役の医系技官から「臨床研修後すぐ入職する場合、臨床経験を積めるのは2年間だけだから、臨床医になるつもりで研修に専念しなさい」と助言をもらっていました。私は臨床に進むなら初期対応がきちんとできる医師になりたいと思っていたので、教育熱心な病院を選んで勉強に励みました。
卒後3年目厚生労働省 入省
(大臣官房国際課)
医系技官への応募資格は、「日本国籍を有する医師・歯科医師で、臨床研修を修了した者(見込みを含む)」です。卒後年数や年齢の制限はありません。
卒後5年目環境省へ出向
(大臣官房環境保健部環境安全課)
卒後6年目環境省
大臣官房環境保健部環境安全課
いずれは日本の医療制度や疾病対策などに直接関わる部署などで、自分の臨床経験をフルに活かして仕事をしたいと思っています。また、留学や国際機関・地方自治体への出向などの道も開かれているので、様々な現場で働いたり勉強したりしたいです。
石橋 七生先生
2015年 鹿児島大学医学部 卒業
2020年7月現在 
環境省大臣官房環境保健部環境安全課

No.34