医師への軌跡

臨床を研究に、研究を臨床に、それぞれの経験を活かしたい
石本 崇胤

外科医から基礎研究者へ

外科医である父の背中を見て育ったからか、5年生のころには外科に進もうと決めていた。卒業後は熊本大学第二外科に入局し、2年目から宮崎の県立病院に赴任。県北地域をカバーする基幹病院の外科医として、どんな患者でも診療した。臨床医としては充実し、成長を実感した数年だったが、同時に「わからないこと」も多いと気づかされる時期でもあった。

例えば、がん化学療法に携わったとき、同じ抗がん剤でも実際に使って治療すると、「なぜこの人にはこんなに効くのに、効かない人もいるんだろう」という疑問がわいた。何十人もの患者を看取っているうち、抗がん剤への抵抗性やがんの浸潤・転移など、もっと細胞レベルのことについても考えてみたいと思うようになった。しかし多くの患者を診なければならない状況では、勉強は難しかった。

地道な実験が功を奏した

卒後6年目の春、石本先生は意を決して大学院に進学し、基礎研究室に入った。CD44という分子を研究するグループに属したが、最初は実験のやり方もわからず、研究を始めてしばらくはまともなデータは出なかった。先輩に教わりながら、マウスの掛け合わせや細胞の実験を少しずつ進めた。

研究を始めて2年ほど経ったころ、期せずしてこのCD44という分子が、がん細胞組織の中でもがん幹細胞の集団に高発現しているという話が世界中の研究室から出始めた。「それまでがん幹細胞との関連性についてはあまり考えていなかったけれど、機能解析を続けていたら、その流れと波長が合ったんです」。石本先生はこのCD44が他の分子と相互作用し、抗がん剤への抵抗性を生じさせるメカニズムを見出した。新規治療法の開発にもつながる発見であった。

後悔しない道を歩みたい

現在は臨床に戻り、大学院生の指導もしている石本先生だが、今後は海外への留学を考えているそうだ。

「振り返ってみれば、常に『後悔したくない』という気持ちで動いてきたんです。外科を選んだときも、基礎研究室に入ったときも、そのときやりたいと思ったことをやってきた。今は専門医や技術認定医が重宝されるし、一流になるにはひとつのことに没頭するのもいいのかもしれないけれど、僕はそうじゃなくてもいいかなと思っています。実際に患者さんを診ているからこそ、また新しく研究をやりたいという気持ちが出てくるし、研究して得たことを臨床に活かしたいと思うんですよね。そういう風に臨床と研究を行ったり来たりしながら、新しい分野にも挑戦していきたい。学生時代に思い描いた医師像とは違うけれど、今はそう思います。」


研究内容について~CD44とがん幹細胞の関係性のメカニズム~

細胞に酸化ストレスが与えられると、アポトーシスによって細胞死が起こり、異常な細胞は排除される。この仕組みが破綻することが、異常な細胞が増える“がん”のメカニズムの一つと考えられている。

石本先生らの研究グループは、がん幹細胞表面マーカーである接着分子CD44がシスチントランスポーターであるxCTと結合することで、がん細胞の中に抗酸化作用を持つグルタチオン量を上昇させることを見出した。グルタチオン量が増えると、その抗酸化作用によりがん細胞内の活性酸素(ROS)の蓄積が抑制され、その結果酸化ストレスが軽減し、腫瘍の増大と治療抵抗性が生じる。

それまで、がん幹細胞にCD44が高発現する現象は知られていたが、この研究で、CD44分子の高発現により酸化ストレスへの抵抗性が生じることが明らかにされた。今回の研究成果を基に、CD44への抗体やxCTへの阻害剤を用いることで、治療抵抗性を有するがん幹細胞をターゲットとした新たな治療法の開発が期待できる。この研究成果は『Cell』の姉妹誌である『Cancer Cell』に掲載された。

 

石本崇胤
熊本大学大学院生命科学研究部 消化器外科学 特任助教
2001年、熊本大学医学部卒業。熊本大学第二外科に入局後、2005年に同大学大学院医学教育部博士課程入学。2007年より、慶應義塾大学医学部先端医科学研究所に国内留学し、共同研究員として研究を続ける。2009年博士課程修了、2011年より現職。2011年度、日本医師会医学研究奨励賞を受賞した。
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